第10話「賑やかな朝食」
「その、おばさん、なに」
「「え?」」
セラフィと俺の声が重なった。リリが少し怒っているような……?
「リリ、失礼だよ。この人は俺の後輩で王国騎士団の人なんだ」
「かのじょじゃない?」
「私が先輩の!? ないない! 勘弁してくれよ!」
おいおい、なんかセラフィも俺に対して失礼じゃないか?
「あ、そうなんだ! よかった。お姉さん、はじめまして」
「はじめまして……私はセラフィ。君はリリちゃんかな?」
セラフィが少しびくついている。面白いな。
「ん、よろしくです。あ、おにいちゃん。抱っこー」
「はいはい、おいで」
「……先輩、随分優しくなりましたね」
なんとかリリの溜飲は降りたようだ。急に知らない人が来たことが少し不安だったのかもしれないな。
それにしても、セラフィの呼び方がおばさんからすぐにお姉さんになったのは妙に怖かった。
「リリちゃん、私って、その、おばさんなのかな?」
「ごめんなさい。お姉さんだよ!」
「そ、そうかそうか! よかったぁ……」
あら、意外にも気にしていたのか。性格的にそのあたりは大雑把かと思っていたが、セラフィは思いの外繊細だったのかも。
その後は他の子たちも続々と起床し、最初こそ知らない人に驚いていたが、すぐにセラフィに慣れていた。やはりギャランについては、すぐに彼女に手合わせをお願いしていて、食後に少しやるらしい。元気で良いこと
だ。
「先輩はすごいですね」
「何がだ?」
「みんなに慕われているじゃないですか。リリちゃんはちょっと怖かったけど」
俺が、じゃなくてここの子たちが良い子なのだ。それは断言できる。
「みんな良い子なんだよ。セラフィにもすぐ慣れただろう?」
「そんなもんですかねえ」
「そんなもんだよ。そういや、ギャランのこと、あとでよろしくな」
「任せてくださいよ。未来の後輩のために頑張りますよ」
こういうときセラフィは面倒見が良いから助かる。彼女曰く、俺を見てきてるからなんて言ってるが、照れるからやめてくれ。そんなに出来た人間じゃないよ、俺は。
「ディルよ、セラフィはこいびとか?」
「そう思うか?」
「そうなら我は許さんぞ!」
「私は許されなかった……? せんはとは恋人じゃないよ……?」
リリと同じことをサリシャが聞いてきた。最近の子どもは少しませているのかな。
「ほっ……」
なんか、突然ディーちゃんがホッとしているけど大丈夫か。
「ディーちゃん」
「う、うん?」
「どうしたの? 羽が落ち着かないならあとで櫛でやってあげるよ」
「ん、ありがと! お願いするの」
よし、問題なし。なるべく、一人一人に目を光らせていないとね。そうなると、やっぱりミレイちゃんが出来すぎていて心配になる。
安心はできるのだけど、無理してないかなって。今度時間ある時に少し話してみようかな。
「朝食できましたー! これから運びますね」
「俺も手伝うよ」
「先輩! 私も」
未だに俺はご飯を作るところまではできていない。レスターさんとミレイちゃんに任せっぱなしだ。配膳と片付けくらいはせめてもと思ってやるようにはしている。
今日の朝食は“ふれんちとーすと”というものだった。甘いけど、しっかりお腹に残るし、何より美味い。作ってくれたレスターさんとミレイちゃん、そして、これを生み出した先人に尊敬の意を。
「むぅ……なくなってしまった」
「サリー、ほら」
「いいのか!? あーん」
チーズケーキのときからやけにサリーに『あーん』をしている気がする。
「先輩……リリちゃんがすごい目で見てますよお……」
サリーは甘いものに目がないのかすぐに食べ終わり、物足りない顔をしている。そして、相変わらず俺は自分の食べかけを少し分けてやるのだ。
幸せそうに食べるから可愛いのなんの。横でセラフィがボソボソ何か言っていたが気にしない。きっとフレンチトーストの美味しさに感動でもしているのだろう。
「おにいちゃん、抱っこー」
食後、猛スピードで駆け寄ってきたリリに抱っこをねだられた。
「よし、片付けを手伝ってくれたらね!」
「わかったよ!」
セラフィも片付けを手伝おうとしていたが、ギャランとテオの相手をお願いした。手合わせをするって言っていたからね。
「ふんふん♪」
「リリは良いことがあったのかい?」
「うん、なんか、わいわいしてて楽しかった」
セラフィが来ることで少し雰囲気が変わるからね。それに嫌な人ではないし、むしろ良いやつだ。
俺の後輩なんだから当たり前だよな。という冗談はさておき、リリも機嫌が良さそうでなによりだ。
「二人で片付けて……しんこんせーかつみたい」
その呟きが俺の耳に届くことはなかった。
「リリ、ありがとうな、おいで」
「ん!」
最近少しだけ違和感に気付いたのだが、リリは抱っこをしているときしきりにすんすんしている気がする。
要は匂いを嗅いでいるというか。離れるわけじゃないから嫌な匂いを出しているわけではないと思いたいけど、大丈夫なのだろうか。
まあ、特にそのほかは変わったこともないし気にしすぎるのもダメだよな。色々なことをやる、そうやって子どもは成長していくのだから。
セラフィたちは思ったより強度の高そうな手合わせをしていた。テオも参加しているから、彼女に対して二人でかかるような感じだろうか。
しっかり手加減はできていそうだな。これなら安心してみていられる。
「姉貴ィ! なんでそんなに速いんだ!?」
「あ、姉貴……良い響きだ。これから沢山教えてあげるよ!」
うんうん、楽しそうだ。予想通り姉貴と呼びながら慕っている。
「こ、これもらってもバレないかな……」
この日からディルの下着やらがたまになくなるという現象が起き始める。原因は、黒と白の羽を持つあの子である。
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