第7話「再びギルドへ その2」

「頭ァ、こいつの防御魔法硬いんですわ。まあ、何も反撃してこねえんで、このまま殴り殺してろうかと」

「おうおう、面白いことやってんじゃねえか。んじゃあ……やるかぁ!」


 頭って、まじか。こいつ捕縛したら終わりじゃん。一対四ではあるけど、この程度の力なら拘束魔法で終わりだな。あんまり、叩かれ続けるのも癪なのでさっさと終わらそう。時間もあまりないし。


「拘束魔法」

「んぎぇ!?」

「なんだぁコレェ!?」


 目の前の四人を拘束魔法で一気に捕縛した。この魔法は自動反撃を応用しているので、逃れようと抵抗したら魔力弾で撃ち抜かれ、自分を傷つけることになる。これを編み出した時は感動した。俺も対人の前線に出られるって。

 まあ、そんなこと一々教えないけどね。賊たちはごちゃごちゃ何か言ってるけど、尋問などは俺の領分ではない。俺より怖いギルドと王国騎士団にお任せだ。


「それではさようなら。あとでギルドか王国騎士団が来るからそのまま待っていてくださいね」

「うおい! 待てよ!!」

「金ならやるから! 許してくれえ!」

「もう捕まりたくねえんだ!」


 おいおい、前科者もいるのかよ。これはますます逃すわけにはいかないな。ちゃんとギルドに報告してあげるからおとなくしてろよ。

 洞窟の入り口に内部からの衝撃に自動反撃が発動するよう結界を展開する。外部からの衝撃には弱いから外から洞窟内に入ることは容易だ。


「さて、戻ろうか」

「「「「おおおおおいいい!!!」」」」






 その後はこの件をギルドに報告、捕縛していることも伝え、依頼の報酬をいただいてお暇する。

 現場まで付き合わされたりすることがないので、本当に楽だ。元とは言え王国騎士団だった身分が役に立つ。


「ん? なんだこの依頼……」


 黒紙依頼か。『魔龍調査』ねえ……調査の範疇だとギルドで賄えるからか。討伐となると王国騎士団も確実に動員される。

 それにしても物騒な依頼だな。魔龍は一度だけ過去に討伐したことがある。もちろん、単独では無理だ。魔力切れからの魔龍の一撃で即死することが目に見えている。討伐は王国騎士団のときであるが、死人こそでなかったものの、俺の防御結界も破られたり散々だった。

 今はあの頃よりかなり強度が上がっているけど、あまり自信はない。思い出したくない記憶の一つである。


「ま、いいか。そんなことよりチーズケーキを買って帰ろう」


 報酬がうまかったので、チーズケーキの代金を差し引いてもかなりの金額が余っている。

 あとは賊の捕縛で報奨金まで貰えれば万々歳だな。賊の手口があまり慣れているようではなかったから、そこまで大金にはならないと思うけど、ないよりマシだろう。

 そうして、俺はチーズケーキを片手にルンルン気分で孤児院へと戻った。






「おにいちゃん!!!!!」

「リリか。ただいま」

「おかえりぃ!」


 孤児院に周辺に展開している結界魔法内に入った瞬間、リリが飛び出してきた。この子には何かセンサーがついているのだろうか。

 ここ数日で何度もそう思う瞬間があったんだけど、どうしてだろうか。


「抱っこ抱っこ」

「はいよ、おいで?」


 まあ、本当開口一番抱っこをねだってくるのはいつものことか。この孤児院はどの子と関わっていても癒される。


「レスターさん、戻りました」

「お疲れ様。今日はゆっくり休んでね」

「ありがとうございます。それと、これが今回の稼ぎ分と、夕食後のデザートです」


 報酬の余りは基本的に孤児院の運営分に回してもらっている。俺個人か貰っても何に使うわけでもないから。合わせてお土産のチーズケーキも渡しておく。


「いつも助かるよ。本当にありがとう」

「いえいえ、では失礼しますね」

「はいよ。リリもあまりディル君を疲れさすんじゃないよ」

「はぁーい」


 そんなこんなで、リリを抱っこしたまま色々と済ませ、部屋へ戻った。ちなみに……


「おにいちゃんのおふとーん!」


 リリはかなりの頻度で俺の布団に潜り込んで遊んでいる。何が楽しいのかはわからないし、あまり聞こうとも思わない。たまにミレイちゃんにやりすぎって注意されてるけど、右から左に聞き流しているのだろうな。

 さすがに寝てる時に忍び込むことはないし、このくらいなら気にしていない。


「よし、リリ。俺はちょっと着替えて風呂行ってくるよ」

「どうぞー! わたしはここで待ってるね」

「わかったよ」


 布団に潜り込んで遊んでいるリリを放置して部屋から出るくらいには慣れっこである。本当に何が楽しいかわからないが、本人は楽しそうだから良しとしよう。


「兄貴、お疲れ様! 風呂か?」

「おう。ギャランは?」

「兄貴が風呂行くなら……よし、オレも行くかな!」


 絶対風呂に入りたくなった反応だったな。一緒だと嫌々でも付き合ってくれるから良しとしておこう。


「そうかそうか。それなら早く用意しておいで」

「わかった!」


 リリほどではないが、ギャランも俺へのセンサーが付いているのだろうか。他の子と比べると明らかに行くとこ行くとこで出会っている気がする。

 そんなことより風呂だ風呂。汗を流す瞬間は一日の疲れが飛んでいくようで幸せな気持ちになる。


「兄貴! 背中流すぜ」

「お願いするかな」


 そして、ギャランは一緒に風呂に入ると毎回背中を流してくれる。俺もそのあとギャランの背中を流してやるわけだけど、この子は力が強いから擦られると気持ちが良い。王国騎士団だと間違いなく先輩に可愛がられるタイプだ。断言できる。


「あぁー……沁みるなあ」

「あぁ〜! 沁みるぜえ!」


 仕事のあとの風呂は格別だ。夕食も楽しみだし、デザートも準備済み。今日は気持ちよく眠ることができそうだ。

 そろそろ、のぼせる前にあがらないとな。食事どころじゃなくなってしまう。


「よし、あがるぞ」

「おう!」


 さてさて、今日の夕食はなんだろうか。チーズケーキをみんなは喜んでくれるだろうか。楽しいことだけを考えながら食卓へ向かった。


「あ、リリが待ってるんだっけか」


 思い出してよかった。リリはまだ俺の部屋の布団の中でもぞもぞしていた。


「リリ、ごはんに行くよ」

「ん! ん、わかった!」


 よし、もう忘れてることはないはずだ。食卓へ向かうとするか。

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