第6話「再びギルドへ その1」

「では、いってきます」


 今日はギルドで依頼を受ける日だ。


「いってらっしゃい。無理はしないでくれよ」

「大丈夫ですよ」


 朝一からの移動なのでレスターさんに挨拶だけして孤児院を出ることになる。

 ここ数日はみんなで朝食をとっていたが、ギルドへ行く日だけは別となった。リリがだいぶ駄々をこねて昨晩は大変だった。


「たしか肉はまだ余ってたはずだよな……まあ、依頼は見て決めるか。下手したら討伐依頼自体ないかもしれないし」


 ギルドの討伐依頼は常にあるとは限らない。とは言っても、王都に行くことに変わりはないから、必要物資は俺がまとめて買ってくることにした。ギルドでうまいこと稼ぐことができれば一石二鳥どころか三鳥くらいまである。






「……魔石の収集依頼か。食材にならないけど、報酬はうまいな。場所も遠くないし、これにするか」


 今日は討伐依頼がない日であった。代わりに魔石の収集依頼があったからそれを受託することにした。求められる量はそこまでじゃないから運び屋も今回は雇わなくて済みそうだ。

 この手の依頼は収集場所が魔物絡みなどで少し危険なことが多い。しかし、ギルドで依頼として掲示される程度の危険度合いであれば問題ないと思う。

 ごく稀に賊やら別の要因で事故に遭うことはあるようだけど。そうなったら次は王国騎士団の出番である。基本的に対人の仕事はギルドだと少ない。対人の場合は犯罪に関連することが多いため、そのほとんどを王国騎士団で処理するというわけだ。


 収集場所までの道中は平和そのものだった。魔物と出会うことすらなく、快晴の空の下で散歩しているだけだ。こういう日こそ孤児院の子たちを連れて散策したいものである。


「ここだな」


 王都から約一時間。目的地に着いたが、少し嫌な予感がする。目の前にある洞窟の中で魔石収集をするのだが、明らかに先客がいる感じだ。それも一人二人ではない。これだけ荒々しい足跡が残って散れば誰でも察することができるだろう。


「まぁ、数人くらいならどうにでもなるか」


 これでも王国騎士団ではバリバリ対人戦をこなしていた。もしこちらに危害を加えられそうになっても大抵は返り討ちにできる。もし、騎士団長クラスの手練れであればだいぶ話が変わってくるけど。

 自動反撃を魔力量多めにして展開する。何事もなければそれでいいし、何かあっても余計な怪我はしたくないから。こういうときは本当に感知魔法を使えればなと思う。何者かが先にいる確信を持てるのとそうでないのでは気構えがだいぶ変わってくる。


「あ、見つけた」


 魔石結晶はほどなくして見つけることができた。あとはこれを必要量だけ収集すれば終わりだ。特に視線を感じるとかはないし、このまますんなりと終われそうだ。

 一応、ギルドに戻ったら洞窟入り口付近の違和感は報告しておこう。場合によっては正式に王国騎士団の調査が入る可能性もあるし。


「ふぅ。こんなもんか? なかなか骨が折れるな……」


 あまり魔石収集をしたことがないのが祟ったか、かなり疲れた。余計な力を入れすぎていたかもしれないな。さて、さっさ帰ろう。長居はしたくない。

 あ、そうだ。今日は“チーズケーキ”というものを買って帰ろうか。この前クッキーを買った時に目にしたが、クッキーよりも高値でやめたんだった。魔石収集の報酬もそれなりだし、せっかくだから美味しいお土産を買って行ってやりたい。


「はいは〜い。そこのお兄さん、止まりな〜」


 洞窟を出る少し前で背後から声がかけられた。嫌な予感が当たってしまったのだろうか。あまり荒事にはしたくないのだが。


「どうしましたか?」

「その身なりだと、金は持っているだろう? 置いてけよ」


 これは賊で確定だ。こういう洞窟を根城にしているものは比較的多いんだよね。


「拒否した場合は?」

「ちょっとだけ痛い目を見るぞ? ま、ちょっとだけ、な。ぎゃはは」

「では、断ります。あと、貴方のことはギルドで報告しますね」


 ああ、本当に嫌な予感が当たってしまった。目の前にいるのは一人だが、単身でこんなことをやっているわけがない。何人か他にもいるだろう。

 仕方ないから少し痛い目を見てもらうか。少しだけ、な。


「そんなこと言っていいのかな? まだお兄さんも死にたくねえだろぉ〜?」

「あー、そうですね。急いでいるので……失礼します」


 俺の魔法は受けるところから始まる。なので、少し煽り気味に背を向けてやることにした。飛び道具でもなんでもいいから、まずは俺に手を出してこい。


「あ……? 舐めてんのかぁ!?」


 賊の男は懐から長剣を取り出して斬りかかってきた。行動が短絡的すぎる。こいつ一人を潰しても意味がなさそうだ。あと何人いるか、それだけわかれば。あ、そうか。

 俺は自動反撃を解除し、即座に簡易結界を自分に展開した。俺には反撃手段がない、けど賊の攻撃もあと一歩俺に届かない。

 そう思わせることができれば受け身の俺に対して他の仲間も現れるのではないか。


「ひ!? な、なんですか!!」


 驚き、戸惑っているフリは得意だ。賊相手の対人戦闘の基本だからな。特に少し強がっていた雰囲気からビビリに転じると賊はとても悦に浸って、調子に乗る。経験的にほとんどの場合そのようになる。

 俺のこの戦略は王国騎士団の中ではよくネタにされて笑われていたけども。


「あっれぇ? 防御魔法か。くそ、かてえな……けども〜、何も反撃できないなら〜、このまま死んじゃうかもねぇ!?」

「や、やめてください。ギルドにも言わないから帰してください」

「今更何言ってんだ? 馬鹿かお前」


 調子に乗ってきてるな。ただ、簡易結界と言ってもそれなりの強度は保っている。二層の結界にして表層はヒビが簡単に入る強度にし、二層目をかなり強度を高めにしている。


「ひえ、ひ、ヒビが……」


 俺に届くことはないとは言え、自分に向けて剣を振られるのは気持ち良いものではない。万が一でも結界が破壊されたら大怪我じゃ済まないからな。


「そろそろ諦めろよ。おい! みんな来いや! いたぶってやろうぜ!!!」


 仲間を呼ぶ、発動だな。外にはいないか。奥から出てきたな。ならこの場のやつらを拘束、その後洞窟の入り口には外に出られないよう結界を施す。

 保険で入り口の結界には自動反撃を付与しておけば外に出ようとすれば怪我をするし、黙って諦めるだろう。

 もちろん、奥に逃げ場がある場合も考えて、最低この場にいる賊だけでも決して逃さないよう対応はする。あとは王国騎士団にお任せしよう。


「四人、か」


 目の前の男の他に三人。雰囲気的に頭っぽいやつもいるが……いずれにせよ、こいつら四人はここで終わりだ。俺の貴重な時間を奪ったことを後悔させてやる。

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