第5話「兄貴と舎弟」

「ディルよ、まだ終わらんのか?」

「もう少しかな」

「サリシャ、うるさいのー」


 早速俺の背中にくっついているサリシャは構って欲しいのだろうか。でも、ディーちゃんの羽の手入れは適当にしたくないからね。手入れをサボってボサボサになってしまうと、それを整えるのがとてつもなく大変になる。一度だけ経験済みだ。


「よし、終わったよ」

「わーい! ありがとー!」

「どういたしまして」

「すぅ……すぅ……」


 サリーは背中にくっついたまま寝てしまった。なんだかんだ俺の腕を動かして邪魔をしたりすることはないし、良い子なんだよね。それに、多分そんなことをしたらディーちゃんがとても怒る。


「俺はサリーを部屋に連れていくね」

「わかったー。ボクも寝る!」


 そうして、サリーを部屋に寝かせた帰り、ギャランと出会った。


「兄貴!」

「ん、どうした?」


 相変わらず元気だ。狼人種はかなり体力があるから、まだまだ動き足りないのだろう。


「少し鍛えたんだけど、またみてくれないか?」

「いいぞ。じゃあ外に行くか」


 ギャランは俺の防御魔法を破壊することを目標としている。そんなわけで、会うたびにこの子の鍛練に付き合っているのだ。俺としても結界魔法の加減塩梅というか調整の訓練になるからお互い様だったりする。


 それと、狼人種だけあって力はかなりものだ。同年代の子たちとは比較しても別格だし、将来が楽しみである。

 本人としては、王国騎士団に入りたいようだ。もちろん、このままいけば十分に叶うと思う。ギャランがそれを夢にしているのは、孤児院にきた理由にあると考えている。

 数年前に狼人種の多く住む地域で魔物のスタンピードが起こった。この子はそのときの数少ない生き残りで、スタンピードは王国騎士団により鎮圧されたのだ。

 だから、元王国騎士団の俺のことも兄貴と慕ってくれているのだろう。


『王国騎士団に入ってみんなを守るんだ!』


 なんて、よく言っている。この子ならその夢を叶えるだろう。


「さて、今日はヒビくらいならいれられるか?」

「む……兄貴の結界は硬すぎるからな……でも頑張るぜ!」

「その意気だ。いつでもいいぞ」


 もちろん、結界の強度は全く最大ではない。ギャランが今の段階の結界魔法を乗り越えたら、さらに強度を上げていくという感じでやろうと考えている。


「よし! 身体強化!」


 狼人種はどちらかというと魔法は苦手な部類だ。しかし、身体強化魔法に関しては飛び抜けている。結界から伝わる衝撃だけでもそうであることが理解できる。

 その後、だいたい三十分ほどギャランは攻撃を続けた。だが、今回もヒビすらはいらなかったな。あんまり手を抜く気もないので、この子には頑張ってもらいたい。


「はぁはぁ……硬すぎる」

「前より攻撃のキレも良くなってると思うぞ。あと一歩ってところだね」

「そ、そうか。舎弟としてもっと頑張るぜ……はぁはぁ」


 舎弟じゃないけどね? とは言えないが、実の弟のようには感じてる。だから、心の底から騎士団に入って欲しい。この子にはそれを叶えられるだけのポテンシャルがある。それに、王国騎士団って狼人種が三割くらいで意外に多いのだ。そりゃ、戦闘能力が抜群に高いからそうもなると思うけどね。


「ディルにい、ギャラン?」

「テオか。うるさかったかい?」

「大丈夫だよ。なんか、今の僕ならギャランに勝てそうだなって」

「おおう? 言うじゃないか、テオ! やるかぁ!?」

「そんなに息切れしてるのに僕に勝てるのかなぁ?」


 テオは俺と同じ人族だが、ギャランと頻繁に手合わせしていて、戦闘センスは間違いなくある。さすがに体力はギャランに軍配が上がるし、今のところはギャランの勝ち越し状態だが。


「そんなことねえ! やるぞ!」

「かかってこい!」


 休む暇なくギャランはテオと手合わせを始めた。あぁ、そういえばお風呂さっき入ってたよね……これは終わったら回復魔法とお風呂までセットでやらないとならないな。

 テオはとにかく怪我をする。やんちゃなのだ。そのため、俺の回復魔法を孤児院では群を抜いて受けている。俺としても回復魔法は練習中なので、とても助かっていたりするのは秘密だ。


「うらぁ!」

「隙ありぃー!」


 この二人は本当元気だ。テオは冒険者になるのが夢らしく、早くギルドで依頼を受けて一人前になりたいといつも言っている。

 これから魔法の練習もして、鍛練を積めば必ずその夢を掴み取れると断言できる。テオと張り合ってるだけで十分戦闘能力も高いことは伺えるからね。


「はい、そこまでー」

「ぬぉ!?」

「むむ……」


 二人とも少し不満そうだが、もうボロボロだよ。怪我もしてるし汗もかいているし。


「まず怪我を治すから二人ともおいで」

「おう」

「うん」


 ギャランは皮膚も丈夫だからテオと比較すると怪我は少ない。それでもこれだけ怪我をさせるテオも凄いってものだ。テオといえば相変わらずめちゃくちゃ怪我をしており、心配になるほどだ。


「よしよし。もう怪我は大丈夫かな。じゃ、風呂に行こうか」

「え……ま、また?」

「わかったよー」


 余談だが、ギャランはお風呂が苦手らしい。まあ、狼人種の特徴でもあるから仕方ないんだけどね。

 もちろん、お風呂が大好きな個体もいる。人それぞれってやつだ。ただ風呂嫌いの割合が圧倒的に多い。王国騎士団のときもそれは痛感している。


「ギャラン、サッと体を洗うだけだからな? いこう?」

「ぬぬぬ……兄貴が言うなら……」


 とまあ、なんだかんだ嫌がりながらもきちんと言うことを聞いてくれる。根っこは良い子なのだ。

 テオはやんちゃだがミレイちゃんと同じで真面目な部分も多い。こういうときは何も言わなくてもお風呂に直行するだろう。


「俺は着替えを持ってくるから二人は先にお風呂に行っててくれ」


 お風呂に向かう二人の背中を見ると、王国騎士団で仲良くしていた狼人種を思い出すな。そのうち飯にでも誘ってみようかとは思っているし、そんなに感傷に浸るほど離れているわけでもない。

 さて、俺も着替えをさっさと持って二度目のお風呂に行くとしますか。

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