幕間「天狐と鳥人の一幕」

※リリ(天狐族)とディリー(鳥人種)のサイドです。

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『天狐は魔力に敏感である』


 天狐族は魔力に対して非常に敏感である。これはリリも例外ではない。そして、彼ら天狐は好みの魔力に対する執着心が強いことがわかっている。

 その執着心は並のものではなく、自分の好みの魔力を持っているものが奪われそうになると決してそれを許さない。

 この点は個々の性格にもよるが、本気で邪魔な相手を殺そうとするケースすらもあるのだ。愛するものには誰も近づけない。そんな気質を持つものが天狐族である。


 さらに、魔力に敏感すぎるため、例えばリリのように魔力を匂いとして認識し、ディルがサリシャを抱っこしていたとすぐに理解し嫉妬することがある。

 リリとサリシャはなんだかんだ仲が良いが、それでもしっかりと嫉妬はしている。

 ちなみに、ディルはこのことに全く気付いていない。レスターすらもそこまでは考えが及んでいないようだ。


「この結界魔法……おにいちゃんの匂いがする……」


 時たまリリは単独で結界魔法の範囲ギリギリに立ちすくんでいる。何をしているかと言えば、“魔力の匂い”を感じているのだ。

 口に出さなければ何をしているかもよくわからないが、蓋を開ければ六歳という年齢のわりにマセたことをしている。

 布団の中でもぞもぞしていることもあるが、これもまた“魔力の残滓”を楽しんでいるわけだ。ある意味ではもうすでに十分な執着心を見せつつあるのだが、行動の意図が理解できていないディルやレスターはそれにまだ気付けない。


 この執着心の行き着く末を想像することは難しくない。婚姻である。生涯のパートナーとして相手を決して離さず、絶え間なく縛り、そして身を尽くすことが天狐族の習性なのだ。

 これは個々の性格にもよるとも言えるが、概ねこのような習性を持っていて、リリに関しても例に漏れることはない。


「はやく、おにいちゃんと二人で生活できるようになりたいなぁ」


 こんなことを布団の中で呟くくらいにはしっかりとディルに執着している。


「サリシャもディリーもおにいちゃんに近すぎるんだよ……」


 妬いているものの、せめてもの救いは、みんな仲良しであること、相手を消すという最悪の選択肢は存在しない。

 この孤児院では最年少のリリ。末っ子のようではあるが、考え方はもう成熟しかけているのかもしれない。


「でも大丈夫。なにがあってもわたしがおにいちゃんを守るから……ぜったいに」


 こうして、リリはほとんどの時間をディルのことばかり考えて過ごしている。彼が不在の時でも部屋に侵入し、布団の中でもぞもぞしているし、いるときは隙あらばくっついているわけだ。


「ん……おにいちゃん、帰ってきた。いかないと!」


 魔力に敏感な分、ディルが外出から戻ってきたときもいち早く察知できる。そして勝手にライバルと思いこんでいるサリシャやディリーより先に彼に抱っこしてもらうのだ。


「おにいちゃん!!!」

「リリか。ただいま」

「おかえりい! 抱っこ抱っこ」


 抱いてくれる彼の胸は自分だけの場所だと主張せんばかりにくっつく。リリはこれが平常運転なのである。


『大好きだよ、おにいちゃん』






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『白と黒の羽はボクの自慢』


 亜人族の鳥人種は異常なほど“調和”を好む。生まれつき左右非対称の両翼を持つディリーはそれが原因となって家族から見捨てられた。

 正確には家族のみならず、ディリーの属していた集団から、である。こういったことは、残酷かもしれないが珍しいことではない。羽色だけでなく、目の色や髪の色、とにかく調和が崩れるようなことがあれば捨てられる、それが鳥人種の特性なのだ。


 ディリーが捨てられたのは三年前、四歳の頃であり、彼女自身、捨てられた理由は羽にあると知っていた。知っていた、というよりは本能的に理解していた、というのが正しいかもしれない。

 なぜなら、左が黒、右が白という両翼を自分自身が受け入れられなかったからだ。孤児院に保護されてからは何度も自傷を繰り返していた。


「ディリー、何もおかしいことはないんだ。だから、自分を傷つけるのはやめて欲しい」


 何度も何度もレスターに言われたことだ。だから自傷は我慢するようにした。羽もここでの鳥人種は自分だけ。それに今の自分を受け入れてもらえている。

 最初はストレスがたまったが、自傷することはなくなった。そんな中、彼女が出会ったのがディルである。

 彼は最初、ディリーの両翼を見て驚いたような顔をしていた。もちろん、彼女もそれに気付いていた。視線には妙に敏感になってしまっていたから。

 また、馬鹿にされるのでは。そう思っていた。


「わあ、綺麗な羽だね。でも、少し手入れサボってたりしない? 俺はディルって言うんだけど……ちょっと櫛借りてくるね」

「ふぇ……?」


 褒められた。自分の醜い羽が褒められた。そのことに体の中が熱くなる感じがしたが、その彼はディリーの名前を聞く前に櫛を借りると孤児院の中に入っていった。


「ごめんごめん、君の名前は?」

「ディリー……」

「それならディーちゃんって呼ばせてもらうかな。もう少ししたら俺もここで一緒に生活することになるからさ」

「う、うん」

「よし、それじゃ羽を見せて? 嫌だったら言ってね」

「うん。大丈夫、なの」


 こうして、ディリーは初めて自分以外の誰かに羽を手入れされた。その感覚が新鮮で、嬉しくて、とにかく今まで感じたことのないような多幸感に包まれた。

 この日からディリーはディルに会うたびに羽の手入れをねだるようになった。毎回変わらず、優しく羽を触ってくれる。

 そんな彼を自分の王子様のように感じているのだろう。


「ディル様……」

「様はいらないよ?」

「ううん、ディル様」

「お、おう。好きに呼んでくれて大丈夫だけども……」


 ディル様、そう呼ぶようになっていた。


 余談だが、鳥人種にとって羽の手入れは特別なものだ。レスターはこのことを知っていてあえてディリーの羽に触れるようなことはしなかった。

 羽の手入れは番になる相手にさせる、ということが鳥人種の習性だからだ。

 ディルがディリーの羽を日々手入れしていることをレスターはあとから知ったが、何か余計なことを言うとまずいことになるかもと判断し、あえて今も何も話していない。


 しかし、ディリーの幸せそうな顔を見たらむしろそんな野暮なことを言う必要もないのではと、そう考えを改めた。

 このことは本来、決して野暮ではなく、ひいてはある意味人生に関わるレベルの行動であることをディリーもディルも知る由はない。彼らがその意味を知る日はいつになることやら。


 あるいはディリーは本能的に理解しているのだろうか。






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 いつも読んでいただきありがとうございます。少しずつPVなども増えて嬉しいばかりです。これからも頑張っていくので、応援や★レビューなどよろしくお願いします。


 近況ノートにキャライメージを載せているのでそれも見ていただけると嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/users/popoLON2114/news


 今後とも何卒よろしくお願いします。


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