第2話「初出勤 その1」

「え? もう一度よろしいですか……」

「おう! 肉は全部で千八百キロだな!」


 全部受け取ると言っていたがこればかりは無理だ。俺の知識不足だった。ライオネルホーン一頭あたりだいたい三百キロ程の肉がとれるようだ。可食部位って意外と多いんだな。

 さすがにこの量を孤児院に持っていくことは叶わないだろう。持っていっても消費できる気がしない。


「ごめんなさい、五十キロ分いただいて、あとは売りでお願いできますか?」

「大丈夫だぜ。ちょっと待っててくれな」


 優しい解体屋でよかった。結局肉はほぼ売ることにして、俺が持ち運べそうな五十キロだけいただくことにした。

 着替えなどは事前に孤児院へ置いておいたが、本当にそうしておいて良かった。さすがに手荷物とこれだけの肉を運ぶのは大変だから。


「肉だけど部位ごとにわけてあるからな! 配分は適当にしたがいいかい?」

「構いません。むしろお手数かけまして、ありがとうございます」

「いいんだよ! 気にすんなって!」


 本当に気さくな人だ。今後も解体はこの解体屋でお願いしようと思った。そのまま肉と売却代を受け取り解体屋をあとにした。肉が詰まってるバッグがとんでもなく重い。


「よし、これで孤児院に行く準備は完了だ」


 到着は陽が沈んだ頃になるだろう。ちょうど夕食前くらいだから早速肉も使えるかもしれない。お土産のクッキーもあるし、食後のデザートも万全だ。俺はわくわくしながら王都をあとにした。






「あ! ディルにーちゃんだー」

「おにいちゃん!」

「ミィちゃんにリリか! ご飯はこれからかい?」

「そうだよー」


 ミィちゃんはハーフエルフで、俺が孤児院に来るきっかけとなった子だ。リリは天狐族の子で、生まれて初めて目にした。ぴょこんと生えてる耳が特徴的な可愛い子だ。

 夕食がまだであれば肉も使えそうだな。まずはレスターさんのところへ挨拶へ行かないと。


「レスターさん、ただいま到着しました」

「ディル君か。ようこそレスター孤児院へ。今日からよろしく頼むね」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それで、今日ちょっと肉を調達してきまして……晩御飯にどうでしょうか?」

「おお! 子どもたちも喜ぶと思うよ! お肉は頻繁に食べれないからね」


 こうしてライオネルホーンの肉は早速夕食に使われることが決まった。ついでに今回売った肉の代金分は孤児院の運営費としてレスターさんに渡しておいた。かなり驚いていたが、かなりの量を売らせてもらったからね。


「晩御飯は私が作るから、ディル君は荷物を整理しておいで」

「助かります」


 俺は大量の肉をレスターさんに託して部屋へと向かった。五十キロという量はレスターさんも予想外のようで二度見しながら驚いていた。


「ディル様だぁ」

「ん? ディーちゃんか。今日からよろしくね」

「うん! 楽しみにしてたの! ぎゅー」

「こらこら」


 この子はディーちゃんことディリー。亜人族で鳥人種である。左右の羽がそれぞれ黒色と白色で綺麗だ。会うたびに背中に飛び乗って抱きついてくる。

 無理に引き剥がして怪我でもされたら一生後悔しそうなので、そのまま背中にディーちゃんを装備したまま部屋へと向かうことにした。

 ちなみにディーちゃんは一度背中にくっついてきたらなかなか離れない。大抵他の子に離れろと言われて渋々離れる感じである。


「ディリー! そこは我の場所だぞ」

「サリーか。相変わらず元気だな」


 噂をすれば……この子はサリーことサリシャだ。魔族の子でよくディーちゃんと俺の背中を争っている。


「だめ! ボクが先にくっついたんだもん。サリシャにはあげない」

「な、な、無礼者! 我の場所だぞ……我の!」

「ほらほら、喧嘩はしないの。サリーもおいで」

「うぅ……うん、はやく抱っこ」


 仕方ないのでサリーは普通に抱っこしてやることにした。どうにも、ここの子たちには妹の影がチラついてしまい、とにかく甘くしてしまう。年齢が同じくらいだし、思い出さない方が難しい。どこかで割り切らないとならないのだろうけど。

 ちなみに、男の子も二人いるが、この子たちと絡んでいると実の弟ができた気分になる。とても新鮮でこれまた甘くしてしまうわけだ。

 このことは一度事前にレスターさんに相談したことがある。


『愛情が伝わると思うよ。ディル君は君のしたいようにあの子たちを愛してあげて欲しい』


 と、苦笑い気味に言われた。俺一人で接していたらワガママ放題の子になってしまうだろう。レスターさんがいることでバランスが保たれると信じる。


「よし、ちょっと俺は片付けするから降ろすよ」

「「はあい」」


 ディーちゃんとサリーはなんだかんだ降りないといけないときはちゃんと降りる。そう意味ではワガママ放題ではないのか。

 二人の頭を撫でてやり、俺は部屋へ入った。二人は仲良くどこかへ走っていなくなったよ。


「とは言っても、荷物の整理ってあまりないよな」


 事前にほぼ終わっているので正直今すぐじゃなくても問題ない程度だ。ちょっと休みたいが、やることがあったな。


「高度結界」


 範囲は孤児院と周辺で子どもたちが遊び回る場所付近。まあまあ広範囲のため魔力がごっそりもっていかれる感じがする。この感覚は苦手なんだよな。馬車酔いをしているような気持ちになる。


「よーし。これで問題なし」


 高度結界は目に見えるものではないから、違和感なく生活できると思う。あとは定期的に結界を補強してやれば完璧だ。

 余談だが、この結界魔法は結界への出入りがあると俺の魔力が反応する。ある意味簡単な監視も兼ねることができるわけだ。間違っても行方不明事件などを起こすわけには行かないから。

 外部からの来訪者については適宜対応するしかない。ちなみに魔物は通さないし、外部からの攻撃については大抵は防げるからここの安全性は上昇しただろう。


「本当はみんなに対人保護結界も展開しておきたいんだけどなー……」


 そこまで過保護になる必要はないだろうとも思うし、ちょっと様子を見てだな。さて、少し休んだらレスターさんのところへ行こうかな。

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