第1話「ギルド登録」

 さて、まずはギルドへの登録からだ。王国騎士団に籍がある場合はギルドに登録ができないため、正式に退団をした今日から登録が可能となる。

 ギルド依頼については魔物討伐が比較的高めの依頼料であり、騎士団員のときに何度も経験している。報酬は国に払われるんだけどさ。

 俺はただ孤児院で子どもたちをみるだけの穀潰しになるつもりは毛頭ない。体が動くうちはなるべく稼ぐことも考えないとならないから。

 このことはレスターさんにも相談済みで、気にしなくていいとは言われたが、先立つものは必要である。それに、色々買ってあげたりもしたいし。


「どうも、登録希望なのですが……」

「あー! ディルさん、こんにちは。本当に騎士団を辞めてしまったんですね。新規登録なのでこちらに記入をお願いします」

「わかりました」


 ギルドの受付嬢とは過去に何度か関わることがあったので顔見知りである。

 氏名をはじめとする個人情報、希望する依頼の内容などを所定の用紙に記入していく。基本的に孤児院が優先だし、ソロでの活動になるため、パーティを組む必要がないから依頼はすぐに受けることが可能だ。

 パーティ希望だとマッチングまでに時間がかかることがあり、今の俺には厳しいと思う。孤児院を中心に動きたいから。


「書き終わりました」

「ありがとうございます。ギルド員証を発行するので少しお待ちください」


 今日はまだまだ時間があるから一つ依頼をやってから孤児院に向かうかな。

 ギルド員証を待っている間、少し依頼を物色していたところ、近場の依頼がいくつかあった。


「攻撃性が高い魔物のほうがやりやすいんだよな……」


 獣害被害の依頼などは、魔物が臆病で見つけ出すのに多大な時間を要することがある。それならば、縄張り意識の強い好戦的な魔物のほうが良いだろう。

 というのは俺の魔法適正というか、戦闘スタイルに合っているからだ。なるべく時間をかけたくないというのもある。安全性より時間効率を重視したい。


「お、ライオネルホーンか。珍しい」


 数頭の群れで生活して、縄張り意識は非常に強かったはずだ。依頼の場所もそう遠くない。


「ディルさん! ギルド員証ができましたよ!」

「ありがとうございます。それと、早速なのですがこの依頼を受けようかと」

「ライオネルホーンですね。本来新人には勧めませんが、ディルさんなら大丈夫ですね。受理しましたので、よろしくお願いします」


 討伐対象はライオネルホーン六頭。こいつの肉は非常に美味しく、比較的高値で取引さらている。つまり、この依頼は成功報酬に加えて食材までもらえる一石二鳥のものだ。

 もちろん、売ってしまうのも良いが、ここはぜひ孤児院に持っていきたい。


「では、いってきます」

「お気をつけて。ご武運を」


 あぁ、そういえば六頭となると、俺は空間系統の魔法に疎いため、運び屋を雇わないと厳しい。とはいえ彼らはギルドに常駐しているためすぐにお願いすることができた。






「このあたりか」


 討伐対象となるライオネルホーンの縄張りになっている場所に着いた。


「ここから先は俺が一人で行きますので、ここで待っててください」

「こ、ここで?」

「結界魔法を展開するので問題ありませんよ」

「……わかりました」


 運び屋は少し不安そうだが、納得はしてくれたようだ。俺は彼に対人保護結界を展開し、一人で進んでいく。

 ちなみに俺が得意とする魔法は防御系統だ。剣術も攻撃魔法も並であることは自覚している。


「こういうとき感知魔法が使えると便利なんだろうな〜」


 パーティで活動する場合は必ず感知魔法を得意とする者が加わる。こういった討伐依頼の時に対象をいち早く探し出すことができるからだ。特に慎重で臆病な魔物の場合は有用極まりない。


「グルッ……」

「……見つけた」


 しかし、今回は好戦的な魔物が討伐対象である。縄張りにズカズカと踏み込む俺を無視するわけがない。

 きっちり六頭いることも確認できた。


「自動反撃、展開」


 俺が最も使用する魔法、自動反撃。格上相手には運用が難しいが、ライオネルホーン程度であれば相性抜群だろう。


「「グォォオオオオオオ!!!」」

「きたか……」


 自動反撃を展開した時点で俺のやることは終わった。二頭が勢いよく突進してくるが俺に届くことはない。ガキン、という結界への衝突音が俺の手前で聞こえ、二頭のライオネルホーンは崩れ落ちた。

 自動反撃はそのままの意味で、結界への攻撃を受けると魔力弾で反撃を行う。結果を破壊する強度の攻撃には対応できないし、呪術のようなものにも対応できない。

 ただ、今回のように頭ごなしに突っ込んでくる魔物には十分対応できる。魔力弾で頭を貫いて終わりだ。


 その後残りの四頭は怒り狂ったようにまとめて突進してきたが結果は変わらず。四頭まとめて狩って終わりだ。


「ディルさん、貴方すげえですわ。こんなに状態良く狩れるなんて」

「はは……たまたま相性が良かっただけですよ」

「それにしてもですよ。こんな綺麗なライオネルホーンはなかなかお目にかかれない」


 ライオネルホーンは目立つ外傷なく、ただ六頭全てが頭を魔力弾で貫かれ一撃で死亡しているため、非常に状態が良い。あとはギルドに戻って解体依頼をし、孤児院に持ってくる手土産にする予定だ。

 運び屋は空間魔法でライオネルホーンを収納し、どういう原理かわからないが、収容時点の状態を維持してくれるため血抜きなども必要ない。便利すぎる……空間魔法も勉強きてみようかな。

 ちなみに報酬については万が一別のライオネルホーン群体を狩っていないかギルドで確認後の支払いとなる。縄張り意識などの習性的にあり得ないとは思うが、念のため確認は必ず行うらしい。不正防止の観点からも俺は大賛成だ。






 ギルドでの手続きは終わり、今はライオネルホーンの解体待ちである。肉を売ることもできるが、全部もらうことにした。食べ盛りの子たちであれば腐らせる前に食べ切れるよな。


「さて、少し他のお土産でもみるかな」


 待ち時間はもう少しあるので色々なお店を見て回ることにした。肉以外にもお土産になるものを買いたい。そういえば最近“クッキー”というお菓子が流行っていると元後輩から聞いたな。折角だからお土産はそれにしよう。

 思っていた以上に高価なもので驚いたが、あの子たちの喜んでくれる顔を思い浮かべたら安いものだ。

 ちなみに本格的に孤児院で働くのは今日からだが、この一か月は頻繁に孤児院に通った。ものすごく気持ちよく子どもたちも受け入れてくれたので、張り切ってしまうのは仕方ないよね。


 よし、昼飯を食べたらライオネルホーン解体の確認に戻るとしますか。

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