孤児院に就職することになりました〜元王国騎士は七人の子どもたちと穏やかな日々を過ごします〜

ぽぽろん

孤児院就職編

プロローグ「いざ、孤児院へ」

 人には転機がある。自分の考え方や行動に大きな変化を与える転機が。

 俺にもとうとうその転機が訪れ、勢いのまま行動することにした。


「今まで本当にお世話になりました!」


 ディル――俺のことだが、今日をもって王国騎士団を退団する。


「ディル、いつでも戻ってきていいからな。何かあれば連絡してくれ。それと、すまないが有事に声かけをするかもしれない」

「団長……ありがとうございます。有事の件は承知しております。いつでもお声かけを」

「助かるよ。その時はよろしく頼む」


 突然の脱退であるため、魔物討伐など任務内容によっては当分の間動員される可能性があるとのこと。

 団員の皆にも簡単な挨拶をして、俺は王国騎士団の宿舎をあとにする。かなり驚かれたが、この選択をしたことへの後悔は一切ない。


 俺は六年前、十四歳だった頃に病気で当時七歳だった妹を失い、何もできなかった自分を嘆いた。

 その結果『誰か一人でも多くの人を救いたい』という想いから必死に努力して掴んだ王国騎士団の地位。

 だが、一か月前の定期辺境巡回のときにその地位を捨てることを決めたんだ。






『……異常なし。魔物も見当たらない。今日もこのあたりは平和だな』


 定期辺境巡回は数か月に一度実施される。国境付近は森林地帯などで魔物が出没することがあるからだ。

 とはいえ基本的に何事もなく終わるのだが、この日は違った。


『ん? あれは……子ども?』


 国境付近に子どもが倒れているのを見つけた。なぜ、このような場所で……まさか死んでいることはないだろうな。このままだといずれにせよ魔物の餌になりかねない。

 もちろん、見つけた以上放置することはできないし、急いで子どもの元へと向かう。


『珍しい……エルフか? 君、大丈夫かい?』

『んー……んにゅ。んとね、帰れなくなったー。それで疲れたから寝てたの』


 怪我もなく本当に眠っていただけのようだ。それにしても、帰れなくなった、というのはどういうことだろうか。こんなところで寝ているなんて普通ではない。

 この周辺にはエルフの集落は存在しないはずだ。彼らは人の目に届かない森の奥などで生活している。どうしてそのエルフがここにいる?


『そうなんだね。それで……君はどこから来たんだい?』


 なるべく警戒心を与えないよう、穏やかに声をかける。


『れすたーこじいんから。かくれんぼしてたらまいごになったのー』

『れすたー、こじいん……あぁ!』


 レスター孤児院。王国領内にはあるものの、国境付近にある孤児院だ。たしか、元王国官僚であるレスター氏が立ち上げ、余生は孤児院の運営をして過ごしているとか。

 国境付近とはいえ王都からはそこまで遠くないし、送っていくとするか。

 それにしてもかくれんぼをしてレスター孤児院からここまで来ることはあるのだろうか。


『よし、お兄さんと帰ろうか? 一人だと危ないからね』


 何せこの子はこのあたりでは珍しいエルフの子だ。魔物は避けられたとしても、万が一賊にでも目をつけられてしまったなんてことなると目も当てられない。

 定期巡回をしているとはいえ、国境付近ともなると中心部と比較して安全性に欠けてくるから。賊の大半は辺境を巣にしているとかって話もよく聞くし。


『んー。わかったー』

『よし、それじゃ、はい』


 手を差し出すと、素直に握ってくれた。そういえば、この子は亡くなった妹と同い年くらいだろうか。

 もし、妹が病魔に侵されず、普通に生きていればこうやって一緒に外を歩くことも叶ったのだろうか。なんてね、今ではもう叶わない願いだ。


『俺はディルっていうんだけど、君の名前を教えてもらえるかい?』

『ミィ』

『ミィちゃんね。疲れたらおぶってあげるから言ってね』

『はーい』


 それから約一時間後、ミィちゃんは俺の背中ですやすやと吐息を漏らしている。程なくして、少しばかり離れたところに人影が見えた。

 血相を変えた汗だくのレスターさんであり、彼は王国騎士団のことも当然ながら知っているため、俺は身分を疑われずに済んだ。


『ディル君、本当に、本当にありがとう……私がきちんとみていなかったから……』

『いいえ。お気になさらず。何事もなくて安心しました』

『孤児院までもう少しなのだけど、その子をそのままお願いしてもいいかい?』

『勿論ですよ』


 レスターさんはご高齢だ。お世辞にも若いとは言えないし、腰も悪いようでかなり無理をしてミィちゃんを探しに出てきたようだ。


 孤児院への道中は色々な話を聞くことができた。どういった子たちが孤児院にいるのか、後継者がいないことへの不安、さらには運営資金など少し踏み込んだ話だ。

 パトロンとなる貴族がいないようで、なかなか厳しい中で運営しているらしい。


 孤児院の子でいえば、例えば今俺が背負っているミィちゃん。この子は純エルフではなく、ハーフエルフであり、捨て子だったとのこと。

 ハーフエルフだからといって差別されるような世の中ではないが、親に恵まれなかったらしい。巡り合わせの問題だろう。

 驚いたことに孤児院には魔族の子もいるようだ。魔族領はここから非常に離れているのに、不思議なこともあるものだ。

 現在孤児院には人族と亜人族が二人ずつ、あとはハーフエルフ、魔族、天狐族が一人ずつで七人の子がいる。俺は、天狐族については生まれてから二十年、一度も見たことがない。


『今日は本当にありがとう。君がいなければどうなっていたことか……』

『頭をお上げください。これも王国騎士団の役目ですので』


 あっという間に孤児院に着いてしまった。レスターさんの話を振り返ると、今後の不安がとても大きいことが伺えた。

 特に孤児院の後継者が見つからないことで悩んでいるようだった。


『ディルにーちゃん。ありがとー』

『どういたしまして。もうあまり遠くには行かないようにね』

『うん、わかったー』


 孤児院からの帰り道、俺は自分の気持ちの変化を感じた。『誰か一人でも多くの人を救う』ため王国騎士団の一員として生きていくと決めていたのに。

 きっと孤児院の子の話に亡き妹の姿を重ねてしまったのだろう。みんな年齢は六歳から八歳であり、妹が亡くなった年齢とそう変わらない。

 俺の自己満足、エゴでしかないかもしれない。それでも救いたい対象が不特定多数の人ではなく、『孤児院の子たち』に明確に変わっていった気がしたのだ。

 救うというよりは、『あの子たちが幸せな将来を掴むための土台になりたい』といったところかもしれない。妹の姿を重ねてしまったこともあるだろう。

 それでも今動かないと後悔する、直感でそう感じた俺は、帰還後すぐに団長室へと向かった。


『団長、夜分にすみません。少しよろしいでしょうか』


 その翌日は休暇だったため、すぐにレスター孤児院へと足を運び、レスターさんに俺の意向を伝えた。一か月後から働かせて欲しい、と。

 まさか泣いて喜ばれるとは思ってなかったし、孤児院のみんなも人懐っこく、一か月後が待ち遠しくてたまらなかった。






「よし、まずはギルドに登録してから孤児院に向かうか……あとはお土産も買っていこう」




 そうして一か月後。ディルのレスター孤児院でのてんやわんやな生活がスタートする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 初投稿作品となります。

 先を読んでいただいて作品の今後が気になったり、ご期待いただければ、フォローや★レビューをいただけるとモチベーションになります!


 近況ノートにキャライメージを載せているのでそれも見ていただけると嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/users/popoLON2114/news


 今後とも何卒よろしくお願いします。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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