第54話 ウラゼーの決断

 長い休眠から目覚めたのち、軽くドレークから情報を聞くが、より周辺国の情報を知るため聖樹国で商いをしているウラゼーの元にドレークとアーバレスを派遣する。

 いつもの面子だとあまり気にしていなかったのだけど、さすがに腰蓑だけだと風聞もあるので全身に草を生やし、いつものギリースーツのような格好となる。


 ドレーク達を派遣してから30分ほどで帰ってくるが、わざわざウラゼー自ら出向いてくれたようで、一番後ろから着いて来るのを確認する事が出来た。


 「主人よ、お待たせしました。ウラゼー殿が出向いてくれるのを了承してくれまして、お連れしました」


 「そっか、わざわざありがとう。ウラゼー殿、こちらから出向こうと思ったんだけど手間をかけて申し訳ない」


 「あ、いえ…。ドレーク殿から事前に聞いていたのですが、本当にドラゴンのお姿では無く人型になられているとは…」


 「あはは。まあ、色々と事情があってね。それよりシーアルバの事を聞いたんだけど、港湾都市マガラカが陥落したって聞いたけど本当なの?」


 「はい…。お恥ずかしながら、陥落しているのは本当です。そこからシーアルバの首都にも、現在まばらに攻撃が加えられておりますがなんとか耐えているのが現状です。またこの現状を作り上げたのが、死の大海原から来たとされるクラーケンでして…」


 クラーケンは、元々西大陸と東大陸の間にある死の大海原に生息しているようで、今まで1匹たりとも東大陸に来たことが無かったが、休眠する前から1匹のクラーケンがマガラカ近海で暴れていた様だ。幸い、シーアルバ首都近海には来ていない様で、まだマガラカ近海に滞在している可能性が高いらしい。

 正直な所、シーアルバに倒れられると非常に困るのだ、マガラカが陥落しラスマータも不明なままでは聖樹国の立場は四面楚歌とも言える。


 「なるほど…ね。それじゃあウラゼー殿は、シーアルバに帰らなくて良いの?」


 「実は、聖樹国から売って貰えている作物により、シーアルバはかなり助けられてまして…。他の国は軒並み不作だったりしている中、聖樹国は何故か雪も積もらず気候は安定しており、作物も時期を選ばず豊かに実るとは今だに信じられません。また商人には商人の戦いがありますので、聖樹国に居させて頂いております」


 聖樹国の気候はどうやら安定しているらしく、きっとそれは世界樹であるポポのおかげなのはなんとなく分かる。

 作物で支援出来ているのはそれはそれで良いのだけれど、シーアルバが魔物に負けているのに、手をこまねいてる暇はない。長い休眠を経てなまりきった体を、久しぶりに動かすのも悪くないだろう。


 「ウラゼー殿の立場は分かったよ。聖樹国としてもシーアルバが危機なのは、こちらとしても宜しくないんだ。だから、魔物に対して反抗作戦を敷きたいんだけどどうかな?」


 こちらの反抗作戦の言葉を聞くと、ウラゼーは驚きに満ちた顔を一瞬するがさすが歴戦の商人、すぐに真顔になり賛同の意思を示す。

ウラゼーは古狸のような性格ではなく、意外と義理固い印象があるためなかなか信用出来るが、やり手でもある。


 「それはこちらとしては、大変有難いのですが…対価は如何程いかほどになりましょう?」


 正直なところ、対価はそこまでいらないがかと言ってタダという訳にもいかない。眷属であるアーバレスにチラッと目線を送り、バトンをタッチする。ここからの交渉は、アーバレスの方が間違いなく上手くやれる。

 アーバレスはこちらの意図を理解したようで、スッと軽やかに前に出るとウラゼーとの交渉に望む。


 「そうですね、港湾都市マガラカを聖樹国に組込むというのが対価でいかがでしょうか?」


 ウラゼーはアーバレスの提案に少し眉をピクリと動かしただけで、殆ど動揺は見当たらない。だが、マガラカ丸ごと頂きますと言うのはなかなかに手厳しい。


 「それはこちらとしては、中々に厳しいものがありますね。マガラカの港使用権で如何?聖樹国も、シーアルバに負けられると困るのは一緒なはずです」


 ウラゼーの提案には然程反応せずに、淡々とアーバレスは言葉を積み重ねていく。


 「ではマガラカの中心部から竜魔の森側である北端までを聖樹国に組み込むのはどうでしょう?これであれば、こちらの戦力を竜魔の森側に置いておけますので、マガラカ奪還後は魔物に頭を悩まされる事が少なくなると考えると悪くない提案だと思いますが」


 アーバレスの提案に、ウラゼーは少し間を置く。どうやら、一考に値するような提案らしく意外と悪くない反応だ。個人的には、港を使えたら嬉しいと思っていた位なのだが、都市の半分を貰うというのはかなり大胆だとは思うが、あちらも今のままでは魔物にしてやられているばかりなため手詰まりなのだ。

そして、決断したのかウラゼーはゆっくりと目を開ける。


 「分かりました、ただ奪還後はマガラカから聖樹国まで安全な街道を構築してもらいたいのと、それと作物の融通をさらにお願いしたい。であれば、大提督であるネラン様に話を通して見せます。あくまでも最終決定権はネラン様ですので」


 まだこの時点では、狸の皮算用のため仮の話し合いでしかない。ウラゼーが大提督を説得しなくては意味がないのだ。

そしてアーバレスは、話は終わったとばかりにこちらに振り返ると元の場所に戻り選手交代となる。


 「分かった、それで大丈夫。ネラン殿の決定待ちだけどウラゼー殿が、利を見出したなら大丈夫さ。こちらは、そのつもりで動くよ」


 こうして、港湾都市マガラカ奪還作戦が立案される事になるのだが、マーバイン王国のようにはならないように、気合いを入れていかねばなるまい。

 それから、ウラゼーは特急でシーアルバまで戻ると大提督から簡単に、聖樹国との港湾都市マガラカ奪還作戦了承の旨を受け取って来るのであった。

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