第52話 休眠

 世界樹の実を食べたラズーシャはポロポロと涙を溢しながら呟いた。繋がりが帰って来たというのは世界樹と繋がり、魔法が帰って来たと捉えていいのだろうか?集まった全てのエルフが啜り泣いているため、場の雰囲気は一変し葬式のように感じてしまうが、エルフ達はきっとこの日を、待ち望んでいたんだ。

 そして皆が泣き終わると、今度は一斉に繋がりを確かめる様に魔法を使い出す。風魔法を使い飛び上がる者や、土魔法で身体強化をする者、水魔法で周りに薄い膜を張り巡らせたりまるでマジックショーのように見える。

 どうやら使える属性の魔法は、世界樹の実の色と関係しているみたいで、火魔法や氷魔法なんかを使っている者は見当たらない。


 「改めましてぺぺ様、誠にありがとうございました。お陰様でこうして皆魔法が使える様になりまして、失った誇りを取り戻すことが出来ました」


 「ああ、世界樹の実を生み出すなんて初めての事だから、少し心配だったけど皆が喜んでくれて何よりだ。こうして今みんなが魔法を再び使えているわけだから無事成功というわけだ。ただ、前よりは魔法の力は弱いと思うんだけどその辺はどうだろう?」


「確かに以前頂いた世界樹の実は、両手を出さないと受け取れないくらいの大きさでしたので、大きさだけで言えば確かに小さくはあります。ただそれでも、世界樹の実は唯一無二なものでありますので、魔法の力が多少落ちた所で問題ありません」


「それなら良かった。これからは魔物との戦闘は増えることはあっても減る事はないから、エルフ達のみんなにはこれから一層の働きを期待しているよ」


 「お任せください!」


 今まで覇気の無かったラズーシャが、ここまで変わるのだからやはり魔法は凄い。その

立役者は、普段なら何か言い出すはずなのだが世界樹の実を生み出し、今は疲れているのかも知れないためそっとしておく。

 その後エルフ達は、エルフ区域に戻り皆で果実酒やエールを飲み酔い潰れるまで過ごしたそうだ。これで約1500人のエルフが何かしらの魔法を使えるわけだから、一気に聖樹国の戦力は上がったと言える。ある意味世紀末に近いこの情勢では、戦力は多いに越したことはないため少しは安心できるが、他国がこれからどうなって行くかを注視していかなくてはならない。


 だがしかし喜びも束の間、次の日から身体に異変が起きる。


 今まで何も食べずとも日光浴だけで空腹感は満たされていたのだけど、何故かお腹が減っていってしまう。そして寝不足の様な眠気が常時襲いかかってくるのだから、たまったもんじゃない。その間にも、ポポに呼びかけてみるのだけどやはり無反応のままだ。

 そのような症状が5日程続いた所、最後にはとうとう身体が殆ど動かなくなってしまう。相変わらず、世界樹であるポポに話しかけるが全く返答はないため、不安が募るのだがどうしようもない。


 そして世界樹の実を生み出してから6日後には、皆が心配して集まって来る。


 「主人よ…。お加減は如何でしょうか?」


 「いやあ…。もう目も開けられないからねぇ、悪いけど後は任すよ… 少し長く眠るかも知れないけど、多分…大丈夫だから」


 声の感じから、ドレークが語りかけてきているのは分かるのだが、口も殆ど開かない。この身体の異常にあらがっているのだけど、そろそろ限界が来そうだ。

 なんとか、ドレークの了承する声が聞こえて来たと同時に、とうとう意識を保っていられなくなり、まるで電池が切れた様に眠りについてしまうのであった。








 揺ら揺らと、まるで大海に漂うクラゲのように彷徨さまよ微睡まどろむ。卵にいた時はチリチリと焦がされる悪夢であったが、ここはその真逆で凄くリラックスが出来、いつまでもゆったりと揺蕩たゆたっていたくなる。

 自分が皆に見送られ、眠りに着いたところまでは記憶に残っているので、恐らく夢の中かもしれない。ポポが休眠状態に入った影響で、ドラゴンの身体もそれに引きずられて同じ様な状態になったと感じているが、真相はポポに聞いてみないと分からない。今は動けなくても、頼りになる皆がいるから、最初の1人の時に比べたら雲泥の差である。

 しかし、この空間は居心地がとても良いため身体に戻った時に、時間があまりにも進み過ぎていて、浦島太郎にならないか心配だ。


 (ウラシマタロウは分からないけど、大丈夫)


 (ポポ!?良かった…。返事がないから多分眠ってたと思ったんだけど、無事そうで良かった)


 (ごめん、世界樹の実を作るのに予想以上に力を使ったのもあるけど、少し別の事情もある)


 ポポの声はつい最近まで聞いていたのに、何故か久しぶりのように感じてしまい嬉しさが溢れてくる。ある意味一心同体なため、居なくなると途端に寂しくなる。だがそれとは別に、ポポが発した別の事情というのが見過ごせない。


 (その別の事情というのは?)


 (大丈夫。もうすぐ眠りから覚めるから、そうしたらすぐに分かるから)


 どうやらポポは秘密にしておきたい様だ。まあ、起きた後に分かるのであれば良いのだけど。このリラックス出来る空間にいたのは短く感じてしまったが、もう眠りから覚める様で少しだけ残念である。ストレスもなくぬるま湯の生活は快適ではあるが、何処か物足りなさもあったため、人生にはある程度刺激が必要らしい。


 (じゃあ起きるよ)


 (うん。またね)


 ポポとお別れの挨拶をすると、急にドクンドクンと鼓動を打つ音が聞こえてき、そして漸く短い世界は終わりを告げるのであった。

 


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る