第31話 動乱

 ラスマータ王国とガリバリアル帝国の境界線に辿り着くと、奥側にはガナッド中佐が所属している第七騎士団1000人程が待機しているのが見えて来た。


 「ガナッド中佐!お役目お疲れ様です」


 「出迎えご苦労ギャッジマン大尉、聖樹国の皆様をお連れした。今日はマガヤール要塞に泊まってから明日出発するので手筈を頼む」


 「はっ!」


 ギャッジマンと呼ばれる男はこちらにも丁寧に挨拶を述べ、すぐに要塞へと走ってゆく。どうやら今日は、ここからでも見る事が出来るマガヤール要塞に泊まるらしい。ここは重要な北の守りの地として、兵隊10000人が常時詰めているそうだ。

 そのまま第七騎士団の後ろをついて行くと要塞の全貌が見えてくる。城壁の高さも10mはあるのではないか、守ることに特化した要塞はまるで来る者を畏怖させるように感じられる。ラスマータ王国と比較するのはあれだが、さすが帝国と言わざるを得ない。


 「オレも帝国に来るのは初めてだが、城壁の色がまさか黒色とはな、何か特別な鉱石でも使っているのか?」


 傭兵のザルバローレは、あまり見たことのない城壁に感嘆の声を上げている。


 「帝国に来られる方はいつも驚かれますな。ワシもそこまでは詳しくないですが、帝国で産出されたクロム鉱石が使われているのは間違いないですな」


 城壁の事を聞かれ、満更でもない様子で答えてくれるガナッドは、使われている鉱石の一部を教えてくれる。どうやら帝国は鉱石の産出も豊富らしく、工業関連も盛んだそうだ。ただ、あまり農作物に関してはそこまで進んで無いようだ。


 ガナッドと帝国の事を聞きながら、その日は要塞内で一泊する事となった。


 次の日からは、第七騎士団が先導してくれる事になり帝都へ真っ直ぐ向かう事になるのだが、マガヤール要塞から出発して5日後の夜、街の宿に泊まっている最中、上級木人のエルジュから嫌な報告を聞く事になる。


 「主人よ、お休みの所申し訳ありません。ラスマータ王国に潜入しているヤエから緊急の連絡がありました」


 上級木人は、木人同士の念話みたいな物が使えるらしく、それでヤエから連絡があったというがあまり聞きたく無いが仕方ない、エルジュに先を促す。


 「ラスマータ王国で動乱が現在起こっているそうです。どうやら原因は魔物の先遣隊らしく、王都内に避難できない獣人が魔物に攻撃されて、なんとか王都に逃げ込もうとした所魔物を引き連れて来てしまったそうです。その結果、王都内はかなり混乱している様で、後続の魔物が来るのでは無いかと怯えてる様です」


 「いやはや、これは参ったな…。ちなみに先遣隊の数は分かる?」

 

 「およそ5000程と聞いております。ただ先遣隊と予想したのはヤエだそうで、現在は城壁より大分外に陣取っている様です。ただ王都内では獣人達の暴動が起き、飢えからか略奪も相次いでいるようです」


 「うーん、王都内の状況は最悪か…。あとアーバレスからは報告はない?」


 「あちらは特に変わった事はない様です」


 自国は無事と聞いてホッとするが、ラスマータ王都にさらに魔物の本隊が来たらどうなる?これが本当に先遣隊なら、これから後続の魔物が追随してくるはず…。王都内は混乱の最中でまともに防衛出来るはずが無い。

 ラスマータ王都が魔物に本格的に攻められでもしたら、この状況では1日で陥落してしまうのでは無いか。そうなると、ラスマータ王国は事実上終わりを迎える事になってしまう。

 何かいい考えが思い浮かばないか、頭を捻るが今回ばかりは帝国領土内にいるため難しい。


 「ヤエには命を大事にと伝えて。それと王都からの脱出は無理せず出来る時にして欲しい。ただエルフの女王もこの際一緒に逃げれたら良いんだけど」


 エルジュは、ヤエに念話しているのか少し黙っているがすぐに返事を返す。


 「ヤエから返事が来ました。エルフの女王は既に見つけております。脱出するのは如何いかようにでもなるとの事で、まだ王都内にて情報収集をするとの事です」


 さすが忍としか言いようが無い、諜報関係はお手のものだ。

 明日は漸くガリバリアル帝国の帝都に着くそうなので、明日ガナッド中佐にもこの事を伝えないといけないだろう。

 報告を聞き終わり、ベッドの中で思考を纏めようとするが上手く行かない。あまり考えたくは無いが、最悪の想定もしておかなくてはならない。しかし、身体は思っていたより疲れていたのかベッドの中で、ゴロゴロとしていると眠気がゆっくりと降りてき、睡魔に身体を委ねる。

 

 しかし幸せな微睡まどろみは、夜明け前に最悪な報告により打ち消されるのだった。

 

 

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