第29話 帝国の使者

 帝国の第3皇女のサナリーとの約束からおよそ2ヶ月後、夏も真っ盛りの頃に帝国と聖樹国との国交樹立の調印式について便宜を図る使者が到着した。


 「お久しぶりでございます、精霊殿」


 「ガナッド=ワールワンさんどうもご無沙汰してます」


 第七騎士団の副団長ことガナッド=ワールワン中佐が丁寧に挨拶をしてくれる。どうやら以前の縁もあり、わざわざガナッドが今回の使者として名乗り出てくれたそうだ。


 「そういえば、エルフの国から聖樹国に変わったとお聞きしました。やはり君主は精霊殿になられますか?」


 「まあなし崩しと言いますか、色々とありまして」


 少し苦笑いを浮かべながら、そう答える。獣人達の事もありエルフの国とは言え無くなってしまった旨も伝える。その後も軽い近況も交えて雑談するが、帝国も特に変わないそうだがラスマータ王国が少し不味いそうだ。 以前のマーバイン王国への救援で、ラスマータ王国は魔物に苦渋を飲まされてしまった。その時に農民兵の多くがやられてしまい、国力が下がっているようだ。また王都では治安もだいぶ悪化しているそうで、受け入れきれない獣人の避難民は盗賊になってしまった者もいるそうだ。


 ガナッドと色々な話を交えながら、雑談も終わると本筋へと進む。


 「それで我が帝国と聖樹国との調印式についてなのですが、こちらとしては1月後位はどうかと思いまして、勿論聖樹国の都合もあるかとおもいますので、その場合は擦り合わせられるように致します」


 どうやら帝国は1ヶ月後に調印式を執り行うのはどうかと、こちらの日程の擦り合わせのため訪問してくれたらしい。また調印式が終わり次第、一時預かって貰っていた獣人達5000人をこちらに引き渡す用意があるとの事だ。

 こちらの都市拡張もまだまだではあるが、新しく作成している城壁も大分形になりつつある。北側に住んでいるエルフ側は拡張せずに、南側を主に拡張している。

 また土木工事自体は順調に進んでおり、何とか家を建てて行ければ良いが、5000人の家は時間がかかり難しそうだ。


 取り敢えずは、帝国の提案通り1月後で了承するが思ったよりこちらの顔色を伺って来たなというのが本音だ。帝国からすればこちらなんて吹けば飛ぶまでは言わないが、まだまだ新興国なわけで。これがラスマータ王国だったら間違いなく見下げられていたに違いない。


 「では、出立はいかがされます?もし良ければ、このまま帝国まで御案内させて頂き観光等されて調印式まで滞在されるのは如何かと思いまして」


 本題の日程も決まった事でガナッドも安堵しているようで、声色もやや明るくなった。しかし、帝国の観光か…。まだ聖樹国も万全とはいかないために、あまり穴は開けておきたくはないのだが、招待されてしまっては仕方ない。それに帝国は意外と話がわかる人もいるので知己ちきを得られるかもしれない。


 「それは有り難いですね。帝国とは良い付き合いをしたいですから、観光できるのであれば望外の僥倖ぎょうこうです」


 そのまま話もとんとん拍子に進み、お互いの意見も交換し終わり対談も終わると、取り壊さなかった前の領主館に一泊して貰い、次の日に早くも出発する事に決まる。

 ただ帝国に行くと言っても、最低限戦力を引き連れて行かなければ駄目だと言う事で、執政官である上級木人のアーバレス以外と、獣人達を率いるムーラム隊長と兵士100名に中級木人を400体と、傭兵団からは暁炎の夜明け10名程来て貰い、最後にネイシャを加えた編成になる。

 あまり多すぎても不和を起こすかも知れず、少なすぎても問題になるかもしれないためこの位に調整する。また、魔物が攻めて来たように戦力を残しておかないと怖い部分がある。


 しかしこの時は、帝国と長年敵対しているロズライ連合国の事をすっぽり忘れており、その事で巻き込まれて波乱の幕開けとなるのであるが、全く知る由もないのであった。

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