第2話 -死にたい私は死にきれません-

「ええええええええええええええ!?!?」

私は今、目の前にいる彼に殺された、そのはずなのだけれど、なぜこんなにもピンピンしている……?


……それは簡単なことだ、と思う。

というのも、自分でも確証がない。

だけど、今視線を少し下に向けると、見えてはならないものが見える。


なぜ私が倒れている……?


いや、うん。多分そういうことなんだろう。

「ねぇ、君、もしかして、私幽霊になってたりする?」

聞こえるはずはないけれど、私を殺した彼に尋ねる。


「そうだね。」

「やっぱりかー。」

いやあ、認めたくもないけれど、あれだなぁ、死に損なった気がしてくるなぁ。

……ん?


「えなんで私と話せてるの?!」

驚きながら叫ぶように言う。

「まあ、そんなもんなんじゃない?」

冷静に私の死体を異空間へ入れながら、彼はそう言った。


「え!異空間ってあの高等魔術の?!本当に?!」

「いちいちうるさいなぁ。そうだよ、所謂空間魔法ってやつだ。」


「なんでただの学生のはずのあなたにそんなことができるの?」

こんな状況なら誰でも浮かぶような疑問を投げかける。

「───いろいろあったんだよ。君だって、ただの学生じゃないだろう?」


「っ。そ、そうね。というか、そもそもとして、なんで私を殺したの?初対面のはずの私を殺す理由って?」


「……。まぁ、君になら言ってもかまわないかな。そうだなあ、簡単に言えば、宣戦布告、かな。」

「宣戦布告、って、何と戦うつもりなのよ。」

「世界。」

「世界か〜〜なるほどね〜〜。」


……


「世界?!」

「そうだよ。僕は世界と戦う、そのつもりだ。」

「あ、あなた、魔王にでもなるつもりなの?」


「そう、かもね?」

はぁ?

それは意味のわからない回答だった。

だが、もしそれが本当なら、納得がいく。

この私を殺せた理由も。


「なるほど、だから私を殺したのね。この『』である私を。」

「そうだ。」

彼は、それがさも当然かのように言った。


「でもわからないことが一つだけあるわ。何故私が勇者だとわかったの?」

「……簡単な話だ。そういうスキルだよ。」

へーなるほど。鑑定?心を読むとか?はたまた未来を読むとか?

私に考えられるのはそれくらいかな。


「ところで、こんなに私の話を聞いていていいの?」

「死人に口無し、だよ。それに君に抵抗しようと言う気持ちはないだろう?なんせ、君は死にたがってたのだから。」


っ。なぜそこまでバレてる?

「それも、さっき言ってたスキルの影響?」

「そういうことにしておけば?楽でしょ?そういうの。」


まぁ、楽なのは否定できない。


「さて、そろそろ帰るとするかな。」

彼はそう言って、家へと足を向けた。

そこで、

「死にたかったのは間違い無いけど、こうなっちゃあ意味がないわ。だって、本来の目的を果たせてないんですもん。」

わざとらしく、私は告げる。

だって本当にそうなんだもの。

まだ、私の目的は果たされていない。


「え〜っと、つまり?」

「家まで着いて行ってもいいかしら?まぁ、拒否権は無いのだけれど。」

「……まぁいいよ。ただ会話は無いものと思ってくれ。」

「はぁ〜い!」

こうして、私は彼の家へと行くことになった。


「……ところで、あなたの名前は?」

「名前も知らずにラブレター送ったのかよ。」

呆れるように彼がそう言うと、

「エンディ・ルーパだよ。」

その名前を教えてくれた。


さて、前言撤回しておこう。

どうやらこの物語は、『私が彼に殺されるまでの話』ではなかったらしい。

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