第2話 青春の影

悪友が帰ったあと、俺は机の上のモノを

どうしたもんかと考えた。


オヤジは何年か前に突然の連絡で

あの世に逝っちまった事を知った。

若い頃のオヤジの顔しか思い出せない。

知りもしない場所で勝手に逝きやがって。

しかし、あのオヤジらしい、最後まで一緒にいてくれた女性がいたらしい。

骨壷だけを引き取って、供養したんだ。

そん時、何かが終わったんだ、俺の中で。


なのに、今、こうして、もうひとつの封印していたモノがうづき始めた。


「ちくしょう。

何だって、今更、、。」

俺は、文箱にぶち込んで机の引き出しに

突っ込んだ。


それから、何をしていても、あの文箱が気になってしまう自分がいた。


「おーい!!還暦じいさんよ!

元気か?」


「バカやろう、還暦だって俺は何にも変わっちゃいねーよ。それどころか、ますますの

イケオジだ!!」


またしても訪ねてきた悪友に言い返した。

そして、ふたりでいきつけの喫茶店に行ったんだ。


「あのな、、。

アレ、どーした?」


「アレ?

アレってバニーちゃん達の事か?

そりぁ、還暦パーチーのあとに、

大歓迎されたに決まってんだろ?

可愛がってもらっちゃって〜。」


俺は奴のアレを茶化してやった。

いつもの奴なら、これで充分だったんだ。

なのに。


「いや、そうじゃねぇ。

今日は真面目だ。あの、ハンカチと絵、写真だよ。

なんで、今になって丸谷先生がお前に渡したんだと思う?」


きたなと思った。

ここは茶化すか?

いや、こいつの顔、真剣だぞ。

うぅー。

ここで逃げんのか?俺?


「わーってるよ。

だけど、わかんねぇんだよ。

今更、なんで丸谷先生がお前にそんなもんを託したのかなんてよ。」


「そうだな。

先生も歳だろ。去年はコロナが酷くなって入院したんだよ。その時、死も覚悟したってさ。

だからじゃねぇかなぁ、、。」


「そっか、、。

だけどよ、もっと早くに渡しゃ良かったんじゃねぇのか?

なーんで今なんだ?」


「そりぁ、お前だからだろうよ。

あの頃のお前、ハリネズミのハリーだったじゃねぇか。

だからじゃねぇかなぁ。」


「ハリーか、、。

うまいこといいやがるな、お前。

だけどよ、アレを貰ってどーしろってんだ?

あーん?」


「、、、。

それはな。

多分な、探してみろって事じゃねぇのかな。

今のお前なら探偵だって雇えるだろうよ。」


「なんだってぇーー??

おいおい、辞めてくれよ、何を今更。」


「あのな、実はお前の知らない事も

あるのかも知んねぇ。

俺達は子供だからよ、あん時のあいつらが

どんな状況だったかなんてわかんねぇよな。

先生は、もしかしたら知ってて、それを

伝えたいのかもな。」


「だったら、直接、俺に丸谷先生が教えてくれたらいいだけじゃねぇのか?」


「うーん。

そこは、きっと、俺達に決めさせたいんじゃないかな。

知るのに動くのか?

忘れたフリしていくのか?

をよ。」


「わかんねぇ。

わかんねぇな、、。」


「直ぐに決めなくてもいいんじゃねぇの?

ここまで来たんだ、ゆっくり考えろや。

そのかぼちゃ頭でよ。

先生が手紙で書いてたなぁ。

お前な、あの頃、絵を描くとな、絵の裏に

必ず、自分の名前とな、あの人の名前と

誕生日も書くだってよ。

先生、きっと、忘れて欲しくないって

願ってたんじゃないかってさ。」



その夜、タバコを咥えながら、窓を開けて

空を見上げてた。

ああ、そうだ、絵を描きましょうって

よく言われたなぁ。

そん時、裏にみんなは自分の名前を書いてた。

俺は、、。

俺は、自分とあの人の名前を書いてたんだった。

そうじゃなかったら、二度と会えない気がしたから。


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