ヤヨイ

「あなたの名前は何というの?」少女に向かって巫女様が問いかけると

「わ 私はヤヨイと申します 巫女様 本当に私を巫女見習いにしていただけるのですか?」

突然の巫女様の提案に驚いて聞き返すヤヨイ

「修行は厳しいですが あなたなら乗り越えられるでしょう」

巫女様がヤヨイの手を取り微笑みながら言う


「この子が巫女になれるなんて」老婆も驚きながらヤヨイを見る

「お任せ下さい きっと立派な巫女になれるように指導いたします」

巫女様は荷物入れから お金の入った袋を取り出し

「お婆さんは 心配せずにこれで健やかにお暮し下さい」言いながら袋を渡す

「はい ありがとうございます この子を宜しくお願い致します お前も頑張るんだよ」袋を押し頂きながら 老婆は言いながらヤヨイの頭を撫でる


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 私が五歳の時に両親は病で亡くなった

最初は色々と面倒を見てくれていた村の人達も 月日が経つにつれて自分達の生活で一杯になり 誰の助けも得られず一人で生きていくようになった 春から秋までは山に入り果物や山菜で食いつないでいたが 冬は両親が残した家の裏の小さな畑で採れた芋だけで過ごしていた

両親が死んで二年経った頃の冬に食料も無くなり あまりの空腹に倒れてしまった

「ああ お父さんとお母さんの所に行くんだ」ぼんやりと考えながら意識を失くした


目を覚ました時 暖かい部屋でベッドに寝ていた 「ここが天国?」と思いキョロキョロと目だけ動かし父母を探していると暖炉の前で何かをしている老婆が見えた

この老婆は知っている 変わり者で村の端に一人で住んでいる人だ

視線に気付いたのか こちらを見て 近寄ってくる

額に皺くちゃの手を乗せ「熱も無いみたいだね これを食べな」パンとスープをヤヨイの目の前に差し出した

久し振りの食べ物の匂いにお腹が鳴るが 恥ずかしいと思うより 食欲の方が勝ち

無我夢中で咀嚼した 

「焦る事は無いよ ゆっくり食べな」老婆は優しく言いながら 背中を撫でてくれる

「ワシも一人 お前も一人 今日からお前もここで暮らしな」

それからお婆さんとの暮らしが始まった お婆さんは若い頃 大きな街の商会で働いていたらしく 私に読み書き 計算 簡単な礼儀作法を教えてくれた

昼は畑で農作業 夜は勉強の日々が続いた 


 「なんで こんな事もできないんだい?」 「お前はノロマだね」 「早くいしなクズ」

きつい事も言われたけど 何かを覚えるのは新鮮だった

ただ お世話になり始めて三年ぐらい経った頃から お婆さんの体調が悪くなってきた 動くのもきつそうになり ベッドで過ごす日が多くなってきた

ある日 突然旅に出ると言い出し 昔世話になっていた商会に私を奉公させる為に離れた街に行くそうだ

私は お婆さんの体調が心配で一人で行くと反対するが 今の商会頭を自分の目で確かめたいと譲らない 私はここでお婆さんの面倒を見たいとお願いするが

「お前の優しい気持ちはよく分かっているし 嬉しいけど 若いお前がこんな所で暮らしていても何も良い事は無い 一度は広い世界を見ておく事だ」 

そう言われて 私は渋々了承した


そんな事考えていたら お婆さんが慌てて巫女様に訴える

「一応 相手に会いに行く旨の手紙を出しておりますので 一度会ってからにしていただけませんか?筋は通しておきたいのです」

「分かりました 私達もご一緒しましょう」

お婆さんを俺が負ぶって ヤヨイはシロの上で巫女様の隣に座って 街道に戻る

途中 宿場町で一泊すれば 明日には着けるだろう 

宿屋でユカリが「あの子は 何か不思議な感がします 主様と少し似ているというか ああ 魔力は全く似ておりませんが身に纏う生気というか雰囲気ですね」

食後の茶を飲んでいる時に思い出したように言う

「そうか?」俺には全く分からない 巫女様 老婆 ヤヨイは別部屋で既に休んでいる

次の日の夕刻前には街に着き 早速商会を訊ねる

少年に取次を頼むと 顔色の悪い痩せた商会頭が出て来る

「今の商会頭様でしょうか?」老婆が頭を下げながら問う

「ああ 俺が今の商会頭だ で? 何の用だ?」横柄に答える商会頭

「先日 手紙で奉公のお願いをした者です」

「ああ 奉公の申し込みが多くていちいち覚えてないんだ それで その娘が奉公人か?」爬虫類みたいな目で上から下までヤヨイを見て薄く口角を上げる

「合格だ 来い!!」ヤヨイの手を掴もうとするのを老婆が商会頭の手を杖で叩く

「挨拶も無しでは 不義理と思い参りましたが奉公の話は無かったという事でお願いします 失礼いたしました」言うや ヤヨイの手を取って宿に歩き始めた

商会頭が何か喚いていたが 無視して俺等も二人の後を追う

夜と夕闇の狭間で 晩飯の事を考えながらのんびりと歩く


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