第15巫女様奪還
ユカリと二人で夕餉を囲んでいると
「主様」ふいに言うとユカリは薙刀を掴んでいる
「ああ 三人かな?」
俺も剣を取り出し 襖の方を見る
襖が音も無く開けられ 三人の武士が雪崩れ込んでくる
先頭の男は俺が剣の腹で顎を砕き 二人目はユカリの薙刀で脚を斬りはらわれ転倒し
三人目は 裏拳で軽く昏倒させる
足を切り払われ 呻いている男に事情を聞く 領主からの命令で俺達二人を誘拐に来たらしい 巫女様に何かあったのか?一平太は何をしている?
ユカリと共に領主の館に駆け付け 隠蔽の魔法と気配遮断で身を隠し 中に入って行く
門番の真横を通っても何も気付いていない
邸内に入った所で さて 何処を探したものかと考えていると 目の前に黒い影が下りてきた
「こちらでございます ご主人様」
黒装束で髪を後ろで束ねた者が先導しようとする 誰だ? 気配も姿も消しているのに 何故 俺達がわかる? 考えているとユカリはスタスタと後を追っていく
「ユカリ 知り合いか?」小声で尋ねると 「ええ 多分」と曖昧に返事をする
廊下を何回か曲がると 衛兵みたいのが立ってる扉の前に出た
黒装束が見事な手並みで衛兵を気絶させる
扉の鍵を開け中へ入る 薄暗い地下室への階段が続いている 黒装束を先頭に歩いていくと 地下室があり 中に誰かがいる 目を凝らしてみると 巫女様が一平太に治癒魔法を掛けていた
「巫女様!!」俺が声を掛けるがキョトンとこちらを見ている
そうか 隠蔽と気配遮断を解いて 再度巫女様に声を掛ける 一瞬ビクッとしたが俺達を確認して安堵の顔をし「一平太さんが……」と呟く
俯せになった一平太は背中をかなり深く斬られている 巫女様の治癒によって出血はしていないが 顔色は蒼ざめたままだ
「回復薬」を無理やり飲ませると顔色が戻って来た 何があったのか巫女様に聞くと隣国との戦争を起こすので「戦勝」の祈祷を頼まれたらしい それを断ったら襲い掛かって来たので シロを呼び出し守ってもらっていたが シロは巫女様と思念がリンクしているので守りはするが 人を傷付けるのは出来なかったそうで 攻撃してこないと分かったらシロに攻撃を加え影に戻った所を巫女様は捕らえられ この地下牢に放り込まれ 中を見ると 一平太が血塗れで倒れていたので 驚きながらも
治癒をしながら どうやって脱出するかを考えている所に俺達がやってきたそうだ シロを呼び出してもらい魔力を満たしておく よれよれだった毛並みも元通りになり目にも力が戻ったようだ
そうこうしている内に一平太が目を覚ました 未だ虚ろな目だが事情を聞く
「一平太 何がどうなってる?」少しきつめに問うと
「それがその……」暫く言い淀んだのち 話し出した
「ここの領主が隣国への戦の準備をしていて 我が主にも協力せよとの要請があったので 断りの書状を持って来たのですがいきなり背後から斬られこの様です」悔しそうに呟く
取り合えずここを出ようと話し 一平太を担ぐ 隠蔽と気配遮断を使って階段を上るが さっきまでいた黒装束がいない
領主邸を出て少し歩くと黒装束がまた現れ
「宿は危険でございます こちらへ」と先導してくれる
今にも倒壊しそうな小屋に着き 中を見ると多分山で仕事をする者達が使う休憩小屋みたいだ
一旦皆で腰を下ろし 巫女様には果物を一平太には握り飯と干し肉を出して腹拵えをしてもらう 黒装束はもういない 代わりに黒猫がいつの間にかユカリの膝の上で喉を鳴らしていた
「さて これからどうしたもんかな?」俺が言うと
「多分 ここの領主は我が領に戦争を仕掛け制圧し 物資を集め兵を募ると思います」一平太が細い声で言う
「そりゃ やばいな 早くお前の主に報せなきゃ」
「はい そうなんですが 多分街路は全て封鎖されてると思います」
「ならば 隠蔽魔法で送ってやるよ」俺が立ち上がると
「真ですか ありがとうございます」一平太がややふらつきながら立ち上がる
「でも なんで俺とユカリも襲って来たんだ?」俺が言うと
「私を脅す為に拉致しようとしていたのでしょう 使徒様とユカリさんを捕らえて 戦勝祈願をしないと殺すとか そういった人質として攫うように命じたのでしょうね」巫女様が静かに言う
「とんだ くそったれだな」怒りながら言うと
「大体 お二方を攫うなんて無理な話ですよ」一平太がおどけながら軽口を叩く
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