第6話鵺の鳴く夜

東の山に向かう道中 小さな集落がありそこで一休みする事にして 集落の長に挨拶に出向く 長は巫女様を見るなり一段下の廊下に下がりひれ伏した

「頭を上げて下さい 東の山に向かう途中で少し休ませて頂きたいので寄らせてもらっただけなのです」巫女様がそう言うと

「東の山には 今 魔物が出ますので今一度お考え直しをされた方が良いかと思います」村長が恐る恐る進言する

「魔物?」俺が言うと

「はい 顔は猿 身体は虎 尾には蛇がついている化け物です 夜な夜な奇妙な鳴き声を上げて山を徘徊しているそうです」やや震えながら村長が教えてくれる

「世間的に言う鵺のことかな?」俺がそう質問すると

「左様でございます 既に村の者が二人ほど襲われて死んでいます」村長が悲し気に呟くと

「討伐しましょう」巫女様がキッパリと俺を見て言う

「そうですね お困りのようですしね」

俺が言うとユカリも頷きながら「畏まりました」俺を見て答える


明朝 山に入り 鵺の痕跡を探すが目ぼしいのは見つからない 陽も高くなったので開けた場所で昼飯を食っていると「グキャー ギュフー」と気味の悪い鳥か獣か分からない鳴声が聞こえてきた それまで聞こえていた鳥や小動物のものとは明らかに違う異質のものだ

木々がざわめき 木を伝って何かが俺達に向かってくる

「シロ 巫女様を守れ!!ユカリは警戒を!!」木を見ながら言い それが出て来るのを待つ 勢いよく飛び出てきたのは 猿の顔だった カウンター気味に顔に剣を叩きつけ横に飛び退く 顔を半分に割られた状態でも俺に圧し掛かろうとするが虎の胴体にユカリが薙刀で切りつけ 鵺の注意を自分に向ける その隙をついて尻尾の蛇の頭を切り飛ばす 呻く鵺の腹にユカリが薙刀を突き刺し剣先に爆炎の魔法をかける

鵺の身体が一瞬膨らんでバタリと倒れる

鵺の身体から黒い靄が出て 飛んで行く 

「ユカリ 追いかけてくれ!!」ユカリに声を掛け 俺は巫女様がシロに乗るのを手伝う

俺等はユカリを追い 古びた社に辿り着く 崩れ落ちる寸前で禍々しさに覆われ荒れ果てている

「これは!!」巫女様がそう言うと シロから飛び降り 社の前に立ち 祝詞を上げ始めた

社を覆っていた 禍々しいものは霧散していき「入ってみなしょう」巫女様に言われ

三人で入ってみると 中央に黒い塊があり その奥には鈍く光る物がうず高く積み重なり一番上に宝玉と思わしきのがある

「切り伏せて 消滅させて下さい」巫女様に言われ 黒い塊を粉々に切り刻むと それは霞となり またどこかへ逃げようとするが巫女様が取り出した錫杖の一振りで淡い光を放って消え失せた

「誰からも忘れられた社などには 良くないものが憑きやすいのです あれはそういうのが具現化したものだったのでしょう」巫女様が錫杖を鳴らしながら四隅を周り説明してくれた

奥に積まれた金貨や宝石を次元収納に放り込み 宝玉も丁寧に入れる

まさか 宝玉を鵺が盗んでいたとは

全てを収納した後にはポツンと御神体と思われる彫像があった

「誰からも 祈られなくなった御神体ですね 多分 長い時間山を守り 人々を守ってきたのでしょう それがいつの間にか信仰を失い 力が弱ってしまわれたのでしょう このままでは同じ事が起こってしまいます」


俺達は里に戻り一連の流れを話し 次元収納から取り出した金や宝石を長に渡し

「これで 社の修繕をして下さい それと月に一回は供物を捧げて 山に入る時は必ず社に挨拶をして入って下さい そうすれば もう二度とあのようなモノは出ないでしょう」

「そう言えば 社で遊ぶ時は獣や魔物が出てこなかったよな」長の後ろで巫女様の話を聞いていた村人が呟く

「畏まりました 早急に社を修繕し 供物を捧げるようにいたします」

長が言うと巫女様がニッコリと笑った

俺は 先に龍に宝玉を返してくる事を巫女様とユカリに伝え転移する

湖の畔に立ち龍を見ると雨は止んでいるが 湖の中央で小さく蹲っている

龍の所へ水面を歩いていき 声をかける

「宝珠とはこれのことか?」懐から宝を出し彼に見せる

「うん!!それだよ!! ありがとう!!」宝玉を龍に渡し 事の顛末を教える

「そうだったんだね!!本当にありがとう もう絶対に失くさないようにするよ」言うと 宝玉を胸の前に押し当てて そのまま宝玉を身体の中に取りこんだ

「じゃあ もう失くさないようにな」言うと

「えっ!もう行くの?」

「ああ 旅は始まったばかりだからな また帰りにでも寄るよ」

「ちょ ちょっと待って こんなにしてもらってお礼も出来ないなんて駄目だよ!!竜は尻尾の先を折り 手に持って何やら呪文みたいのを唱えいる すると手に持った尻尾の先が眩く光り一振りの剣になった「「草薙の剣」だよ 信じられる者に生涯一度だけ与えることが出来るんだ これを貰ってくれないかな?」言いながら俺に渡してくる

「いいのか?」受け取りながら言うと

「もちろん 君以外考えられないよ」

「有難く頂くよ」草薙の剣を帯剣し龍を見てもう一度「ありがとう」と言い龍の鼻先を撫でる

「じゃあ また会おう」転移する瞬間に「きっとだよ」と龍の声が小さく聞こえた







 

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