落チル!

@tsutanai_kouta

第1話

現在、俺は50mはあるであろう高さから水面に向かって落下してる最中である。

何故こんな事になったのか?

まるで思い出せない。飛行機事故?

酔っ払った末の愚行?なんかの罰ゲーム?

もしかしたら世を儚んでの入水自殺?

てか下方に見えるのは湖なのか?海なのか?あ、そろそろ水面に激突する。

 

「・・・・・ッ」

 

・・・またか。恐怖で硬直した身体が水面に当たるその瞬間、まるで編集されたVTRみたいに50mの高さに戻っていた。つまり俺は、さっきから何度も「落下」のみをループで味わっているのである。

この有り得ない状況から夢、それも悪夢を見てると思うのだが、奇妙な臨場感がある。

なんにしても、もう限界だ。さすがにイライラしてきた。いい加減に眼覚ませよ俺!─と悪態をつきながら、何回目かの50m地点へのリセットを果たした時、変化が見られた。


落下してる俺の真下の水面がゴボゴボと泡立ち始めたのだ。何だか嫌な感じ、と思った瞬間、泡の中から巨大な岩のようにゴツゴツした何かが真上、つまり俺の方に向かって突き出してきた。そしてそれは真ん中から二つに別れ、中には肉食獣のものと思われる尖った牙がズラリと並んでいるのが見えた。これはワニ・・・か!?いや鰐にしてはデカすぎる。浮上しながら開いていく口は奥行き5mはありそうだ。まるで『ジュラシックパーク』に出てきた恐竜─。


俺は巨大な口に向かって落下しながら、全身の血の気が引くのを感じた。本能的な恐怖に支配され、パニックになった。

は、早く、早く、め、目を、覚まさ、なきゃ、きゃきゃ、きゃーーーーーっ!!!

  


俺はガバッと布団の上に身体を起こしていた。全身が汗で濡れてる。

やーっぱ夢だったじゃん、とグッタリとしつつ心底安堵した。目覚し時計を見るとバイトの時間が迫っている。俺は気力を奮い立たせ、手早く身支度を整えると部屋を出た。


外はいい天気だった。俺は大きく伸びをしながら青空を眺める。上空の鱗雲うろこぐもがキレイだ・・・。あれ?なんか空の雲、あれって何だか白波に見えなくも無いな?

そう思った瞬間、青い空の中を巨大な鰐に似た生き物が身をよじって泳ぐ姿が見えた気がした。呆然としたまま空を見上げてると身体が「ふわり」と浮き上がるような浮遊感を感じる。驚いて足元を見ると、俺の足は重力から解き放たれたように地面から浮き上がっていた。オロオロしながら周囲に目をやると、路駐してる車・犬小屋・自転車・ゴミ箱等々、辺り一面様々な物が俺と同様に宙に浮いていた。

 

そして、俺達はタイミングを合わせたように一斉に空に向かって落下を開始した。

   


  -了-

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