この世で意味の分からない生物

@Nekomoppu

この世で意味の分からない生物

足元を見つめると、猫がいた。にゃあ、と私を見て鳴く猫。茶毛がふわふわと風に揺れて、月色の瞳が細められる。

(其方から話しかけてくるなんて、人懐っこい。どこかの飼い猫かもしれん。)

住宅地から少し離れた道を歩いていた私は、首を180°動かして飼い猫の家を探す。当然見つからなかったので、未だに私を見つめる猫の前にゆっくりと膝をおった。

「にゃん。」

猫が鳴く。甘えているような声だ。

「ふむ、私は猫は嫌いなのだが。君のその、ふんぞり返ってる姿が憎らしい。鳴けば餌が貰えるとでも思っているのか?全く、その餌は我々人間様が必死こいて働いた金だぞ。」

「にゃー。」

お互い、なんと言ってるか分からない時間の無駄とも取れるやり取り。私は餌なんて持っていなかったので、代わりに腕を上げて猫の頭を撫でた。途端、鳴き止んだ猫に気を良くした私は、耳の付け根、首の下と撫で続けた。数分後、流石に上腕が疲労する。私はそっと手を下ろすと立ち上がる。

「にゃ。」

猫が見上げてくる。

「ふん、残念だったな猫よ。餌を貰えると思って近づいたのだろうが、世の中はそんなに甘くないのだ。せいぜい人間様に媚びると良い、そのうち物好きが餌をくれるかもな。」

私はそう言い捨てると、歩き出す。3歩、振り返り見ると猫の姿ははるか彼方だった。

(餌目当てではなかったのか……?)

しっぽを揺らしながら、数軒先の住宅に姿を消す猫に私は鼻を鳴らしたのだった。

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