第2話 高揚
世にも珍しく、高価なものを手に入れたいと願う人々が集うザルダーズのオークションハウスは、終盤にさしかかり、異様なほどの熱気と興奮に包まれていた。
「それでは、オークションを開始いたします!」
ダン! ダン!
シワ一つ無い燕尾服を隙なく着こなしたベテランオークショニアは、年代物の木槌――ガベル――を高く振り上げ、これまた年代物の打撃板――サウンドブロック――に二度、強く叩きつける。
ベテランオークショニアの宣言により、本日最終となる『ストーンボックス』のオークションがはじまった。
(さあて……開かない箱は、誰の手に落ちるのかなぁ?)
サウンドブロックは、誰にも悟られないよう、意地の悪い笑みを口元に浮かべる。
気持ちの昂りを抑えることができない。
歴史と品格のあるザルダーズのオークションが、これほどざわめくのも珍しいことだった。
たったひとりの参加者のせいで、会場は色めき立っていた。
それをコントロールするはずの若手オークショニアはグダグダで、事態を収拾させることもできなかった。それどころか、さらに参加者を煽ることとなった。
これはまずい、と判断したオーナーは、前倒しで中堅オークショニアと交代させる。その後を同じく前倒しでベテランオークショニアが引き継いだ。
このふたりの努力によってなんとかオークションはプログラムをこなしていったが、厳粛で厳格さがウリのザルダーズのオークションではなかった。
ベテランオークショニアも珍しく手こずっていた。
ではあったが、じわじわと会場の支配権を取り戻し、最後の出品物となった頃には、なんとか持ち直すことに成功していた。
ガベルとサウンドブロックは、いつも以上に働いた。
若手オークショニアなど、ずっとガベルを叩き続けて煩いだけだった。
酷使されたガベルはさぞかし疲れているだろう。
ベテランオークショニアは開始と終了時にしかガベルを手にしなかったのだが、今回はずっとガベルを手に握りしめ、たびたびガベルを叩いている。
だが、それも本日最後の品『ストーンボックス』が落札されさえすれば終了だ。
サウンドグロックは心をはずませながらほぼ満席状態となっている参加者席をぐるりと見渡す。
仮面を被り、豪奢で豪華な衣装をまとい、高価な香水の香りを漂わせている。
オークショニアの口上と、自分たちの干渉によって、振り回される無知で愚かな参加者たちだ。
必要以上の付加価値を見つけ出し、出品物の値段を釣り上げるザルダーズと、それを疑いもせずに信じ込んで踊らされる滑稽な参加者たち。
その姿を高みから見下ろすのが、サウンドブロックの楽しみだった。
生真面目で優しいところがあるガベルは、驚愕の値段にいちいち驚き、落札された品物の行方をずっと心配している。
自分以外のモノに心を奪われるガベルにいらつくこともあるが、サウンドブロックはこの状況を存分にたのしんでいた。
今もそうだ。
ほとんどの参加者にとっては、代理石でできた石の箱。
開かない箱だ。
使い方を知らない者にとっては、ただの石だ。
だが、この広い世の中には、奇妙なモノを欲しがる奇妙な者がいる。
競売人がおごそかに入札開始を告げると、恐るべきことに、いきなり本日最高の金額が提示されたのである……。
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