第六章:憑りつき混ざり合う邪悪霊
第44話
一睡もせず、駆郎は六年生の怪異調査に臨んでいる。度々職員室にてブラックコーヒーをがぶ飲み。カフェインを補給しながらの聞き込みだ。遅れを取り戻そうと必死である。
――寝ないで働き続けるなんて心配だなぁ。
ななは仮眠を取ったので幾分平気だが、駆郎の方は身が持つか怪しいところ。体を壊さないかと気を揉んでしまう。しかも、次の相手は強敵だろう悪霊だ。もっと自分の体を
「駆郎、大丈夫そう?」
「いや、あまり有力な情報は出てこないな」
「そうじゃなくて、体調の方だよ」
「滅茶苦茶眠いに決まっているだろ」
でしょうね、としか言いようがない。
早く家に帰ろう、ゆっくり英気を養おう。と助言したところで、聞き入れてくれるか甚だ疑問だ。聞き込みの結果も
「あのぉ、すみません」
活発な印象を与える一方で、本体の方はインドア派らしい及び腰。どうにもちぐはぐさが否めない。
それにしても、どこかで見た顔だ。聞き込みの最中ではなく、もっと前に出会っている気がしてならない。
――あ、図書委員の子だ。
二年生の怪異に挑んでいた頃、書庫を利用する際に顔を合わせている。正確に言えば、一方的に面識があるだけだ。一般人である女の子にはななが見えていない。
どうやら駆郎も気付いたらしい。「その節はどうも」と会釈を返し、胸元の名札に目を通す。
「えぇと。君は
「工藤
「開夜ちゃんか。俺に何か用かな」
「あの、ごめんなさい。一応男子なのでちゃん付けは……」
「それは、その。……すまん」
名前が読めず、しかも性別すら間違えるとは。これも寝不足が原因だろう。やはり家で大人しく寝るべきなのだ。
などと相棒を評価するななだが、自身も開夜を女子と思い込んでいた一人である。他人をどうこう言える立場ではない。
――しょうがないじゃん。だって可愛いんだもん。
実際、彼の可憐さは女子並みだ。下手すれば、その辺のアイドルと
しかし、それ以上に目を引くのは――否、注目せざるを得ないのは、開夜より発される禍々しい瘴気だ。六年生のフロアに
間違いない、彼こそが発生源だ。
霊として本能的に理解した。
「その、実は……七不思議の件で相談したいんですけど」
「ああ、是非とも聞かせてもらいたいね」
駆郎も悪しき気配の中心地と察したようだ。開夜の手を引き人気のないところへ。万が一の際、周囲に被害が及ばぬよう距離を取らせる。垂れ流される瘴気は収まらず、むしろ勢いを増して
渡り廊下を素通りした先、空き教室の前にて相談を再開する。
「実は僕、多分なんですけど。六年生の七不思議……ぼろ布の霊に取り憑かれているんじゃないかと思うんです」
「だろうな」
「即答ですか!?」
「君から漂う悪霊の気配は尋常じゃない。十中八九そいつに
開夜が異変に気付いたのは三週間ほど前。
最初は全身に軽い
悪夢の内容は決まって何者かに襲われるというシナリオで、下手人は青白い肌をした大人の女性らしい。絡め取られてじわりじわりと体が溶かされていく。まるで
異変開始の時期はちょうどぼろ布の霊が出現しなくなった頃と重なる。
悪霊に取り憑かれている。開夜は狙われているのだ。目的は何なのか。ななには皆目見当がつかないものの、十中八九ろくでもない理由だと分かる。
「どうするのよ駆郎。これって明らかに本丸じゃない」
「早いところ浄霊したいんだがな」
今すぐどうにかするのは難しい。
敵の正体が謎に包まれている上、駆郎は徹夜して本調子ではない。下手に挑めば返り討ちに遭う。それどころか、憑依されている開夜も危険に晒しかねない。そう簡単に浄霊の決断は下せないのだ。
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