第45話
「急場しのぎかもしれないが、お守りを渡そう」
お札を一枚取り出した駆郎は、慣れない手つきで折り鶴を作成。不器用で味のあるクオリティ。大地が作った物と比べると雲泥の差だ。本当に効果があるのかと訝しんでしまう。
「あー、少々下手くそだが、これを肌身離さず持っていてくれ。丸腰でいるよりか幾分楽になるはずだ」
「あ、ありがとうございますっ」
それでも開夜は受け取ってくれる。
駆郎はついでとばかりに連絡先も伝える。明日から休日で二日間交流が途切れてしまう。そのため、万が一急を要する事態になった際、即時呼び出せるようにするためだ。無論、使わずに済むのが一番だが。
「これでやっと安心できます」
開夜は安堵したように自身の教室へ戻っていく。一方の駆郎は不安を募らせてか、冷や汗たらり固唾を呑み込んでいる。彼が去った後も、廊下には悪しき残り香が色濃く漂ったままだ。怖気で霊体が震え上がってしまう。
これまでの怪異とは段違いの闇だ。
一体、どんな悪霊が取り憑いているのだろうか。
※
日が傾き橙色に染まる頃。
さすがに体力の限界らしい。睡魔がもうすぐそこまで迫っていた。自身の魂は弱り切っており、このままでは
念のため、彼にはお守り代わりのお札を渡しておいた。一時的に悪霊を退ける効力はあるはずだ。それでも三日は持たないだろう。土日の間に浄霊作戦を立てて、週明けすぐに彼から引き剥がさなくては。
眠気でふらつく足取りのまま昇降口に辿り着く。と同時に、毎度お馴染み大地の登場だ。また嫌味たっぷりの小言タイムかと思いきや、彼はぞっとするほど真剣な面持ちをしている。
「例の祠について現時点で判明したことを報告しようかと」
「その分だと、よくある“良い知らせと悪い知らせ”ってやつか」
「九割九分悪い方ですよ」
残骸に染みついた悪意の時点で覚悟していた。
憑依された開夜が放つ瘴気を見て確信していた。
祠より解き放たれた悪霊――ぼろ布の霊は途方もなく大物なのだと。
「残念ながら祠の出自については一切不明。誰が作り何を封じ込めていたのか、手掛かりはほとんど残っていませんでした。木材の劣化具合からして時期は百年前後、と
「要するに、凄く昔に作られた謎の祠って訳だな。“分からない”のが分かっただけマシか。それで、封印されていた悪霊の規模はどうだ?」
「そちらに関しては、新人の手に負える代物ではない、というのだけは間違いないですね」
「ああ、最悪だな」
濃密な悪意から察するに、悪霊は人の姿からかけ離れた怪物と化しているだろう。邪悪な思念に支配されて欲望のままに動き回る。もはや妖と大差ない駆除必須の害獣だ。
問題なのは、そう簡単に倒せる相手ではないことだろう。封印されていた奴は
――それこそ、俺の母親レベルの技術は必要だろうな。
かつて神童と謳われ、現在でも第一線で活躍する駆郎の母。彼女が討ち取った悪霊はどれもが人型からかけ離れた怪物ばかり。そして例外なく、両手の指では足りぬ規模の犠牲者を出した連中だ。
祠に封印されていた悪霊も、それに匹敵する相手かもしれない。今はまだ開夜の体内に潜んでいるが、いつ本格的に動き出すのかと戦々恐々。一度暴れ出したら手が付けられないだろう。六年生はおろか学校中の児童が犠牲になる。漏れ出る悪意からそう思えてならない。
「まさかとは思いますが。この悪霊を浄霊する、なんて言い出しませんよね?」
「俺だってそこまで無謀じゃない。もう一度封印するまでさ」
「そうくると思っていましたよ……――でしたら、これをどうぞ」
投げ渡されたのは新品の祠だ。
簡素な見た目の既製品だが、対霊用品としては一級品の品質を誇っている。提供してくれたのは大地の勤め先だろう。対妖の一件といい世話になりっぱなしである。
「せっかく用意してあげたのですから、誠心誠意土下座してもいいのでは?」
「土下座はしないが、有り難く使わせてもらうよ」
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