第36話
「天宮駆郎君はいいですよね。何もしなくても明るい未来が約束されていますから」
「いきなり何の話だよ」
「話を逸らしても無駄です。これまでずっと、内心私のことを馬鹿にしていたんでしょう?」
「そんな訳ないだろ。俺達はこれまでずっと」
「友情なんて所詮まやかしに過ぎません。結局、私とあなたは争い合う仲。どちらが上なのか、白黒はっきりさせる必要があるのです」
彼はすっかり変わってしまった。
フルネームで呼び他人行儀に徹し、わざと神経を逆撫でる言葉を並べ立てる。
生まれだけの霊能力者より自分の方が優れている、と世間に示したかったのだろう。化石じみた大人の偏見に晒され続けたせいか。成り上がるしか自分の価値を見出せない、と追い詰められたらしい。
もはや声は届かず。駆郎も次第に諦めてしまい、友情の断絶を受け入れるようになった。義務感から彼との勝負に臨む日々。灰色の学校生活だった。
中学校では勝負の機会すらなくバッサリと決別。口もきかず関わりもしない冷戦状態だ。高校に至っては別々の道を進むことに。友情は完全に崩壊していた。
以来、駆郎は人付き合いを極端に恐れ、広く浅く必要以上に関わらず。友達も恋人も作らない、作りたくない。仲を深めてもいつかきっと破綻する。失う度に心は傷だらけに。繋がりが強いほど重傷になる。それなら最初から諦めていた方がいい。あんな思い二度としたくないのだ。
そして、駆郎は孤独を好むようになった。
人を遠ざけるため仏頂面に。冷徹な人間だと装い、自分自身すら騙し続ける虚しい日々。己に残るのは母親を越えるという目標のみ。ストイックと言えば聞こえは良いが、実際のところ道を見失わないために立てた道標に過ぎない。
これが霊能力者天宮駆郎の現実だった。
しかし、大地は一つだけ勘違いしている。
駆郎は名門の出だが、才能は遺伝していない。
霊能力者としては平々凡々。一山いくらの雑兵程度。
母親はかつて神童と呼ばれていたのに。
期待されていた分、その失望は大きかった。周囲は「親の七光り」「名前だけの穀潰し」とあっさり掌返し。高校時代におけるバッシングは
だからこそ、学びたい。
天宮家とも、優秀な母親とも関係ない。自分だけの才を手に入れるために。
そして、願わくば。
霊能力者だとか、生まれの違いだとか。
周囲の評価なんて気にせず、また大地と親友に戻りたい。
決別はとうの昔。それからずっと冷え切ったまま、仲直りの機会を逸してしまった。
永遠に不可能だと諦観する自分もいる。
それでも、いつかはきっと。
誰も寄せ付けぬ鉄仮面の下、駆郎は
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