第35話




 巴大地との出会いは小学一年生の時だった。

 同じ学校で同じクラス。そして同じ霊能力者同士という偶然の賜物たまもの

 そんな二人だったが相違点が一つ。駆郎は代々霊能力者を輩出する家系に対し、大地は一般家庭出身にして天賦てんぷの才を授かった者。如何いかなる努力をもってしても覆らぬ現実だった。

 しかし、当時の二人にとっては些細ささいな違いでしかない。

 気付けば二人の距離は縮まり、共に過ごす時間はどんどん増えていった。


「なぁ、大地。二組に女の子の霊がいるよな」

「うんうん。僕も見た。たまに実体化もしているよね」

「それに上の階……二年生のベランダから嫌~なかんじするし」

「悪霊がいるんだよ。この前お邪魔したらね、三組のベランダで、四つ目の男の子が体育座りしてて」

「うわマジか、すっごい見た目してるな。三組だけは絶対なりたくない」


 盛り上がる話といえばもっぱら怪異絡みだ。

 土倉友子の霊を観察したり、ベランダの悪霊を怖がったり。あとは、散歩する市松人形の件だ。霊能力者同士だからこそ、「ただの噂なのに」「パンチパーマはあり得ない」と笑い合った。


「学校のどこかに秘密の隠し通路があるらしいぞ」

「何それ、面白そう。見つけてみたいなぁ」


 当時流行っていた探検ごっこにも参戦だ。蛮勇コンビとして腕白わんぱくに大活躍。その探索中、職員室の床下から呪物を発見したのをよく覚えている。伝統的なわら人形と五寸釘で、キチンと効果のある本物だった。当時は事件の経緯を有耶無耶うやむやにされてしまったが、実は職場恋愛による痴情のもつれだったらしい。犯人は「ネットオークションで落札した物」と供述したそうだ。霊能力者も悪事を働くのだから始末に負えない。


「大地ってさぁ、気になる子はいないのか?」

「僕は……うーん、まだいないかなぁ。ほら、クラスの女子は結構怖い子多いし」

「あー、それは分かる。なんていうか、飛び越えられない溝みたいなのがあるよな」

「だから、誰が好きってのはないかな。そう言う駆郎はどうなのさ」

「俺には初恋の相手がいるからな。また会う日まで浮気するつもりはない」

「うわ~、すっごい大人ってかんじ」


 余計なことを口走ったのは三年生の頃だったか。

 運命の出会いと一途に恋し、同い年に興味は一切ない。と、勘違いした格好良さをこじらせまくった少年時代。まったくもって度し難い。タイムマシンを逆走して、当時の馬鹿にドロップキックをかましたい。

 だが、それでも。

 かけがえのない時間だった。

 学年が上がるにつれ、二人の関係に暗雲が立ち込め始める。否、とうの昔から曇天だった。それに気付かぬほど互いに幼かっただけ。成長するほどに残酷な現実を察してしまう。大地もきっとそうだったのだ。あるいは、もっと早くに理解してしまったのか。

 名のある家系と一般人上がり。

 その差は酷薄にも二人の仲を引き裂いていく。


「僕と駆郎君は全然違う。永遠に相容れないんだ」


 先に拒絶の意志を示したのは大地だった。

 五年生の時だっただろうか。彼は霊能力者同士の仲良しこよしに終止符ピリオドを打った。

 それでも駆郎は食い下がった。他に友人がいなかったのもあるだろう。だがそれ以上に、大地という支えを失いたくなかった。気の置けない親友であり、互いを理解し合える家族同然の存在を。

 しかし、どんなに懇願したところで無意味。ギクシャクは加速し冷え切る一方。二人の時間の大半を苦痛が占めるようになっていった。


 諸悪の根源は、周囲の大人達が向ける無自覚な視線だった。

 天宮家随一の天才――その息子である駆郎に対する期待と羨望せんぼう

 一般家庭出身の新参者――後ろ盾のない大地に対する忌避きひと憎悪。

 霊や妖の存在が明らかになろうとも、霊能力者業界の風土は旧態依然としたまま。血筋原理主義がまかり通り、魂を垂れ流すだけの一般人を無能とさげすむ。そして、身内贔屓みうちびいき余所者よそものを極端に嫌う排他的な組織。風通しの悪さは天下一品の業界だ。ExOUと改名して印象を変えようとする姑息さも併せ持っている。どうしようもない大人達の巣窟そうくつだった。

 一度引き裂かれた仲は修復不可能に。

 六年生になると、大地は敵対心を剥き出しにし始める。

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