第27話
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だが、待てど暮らせどチャンスは訪れない。むしろ、刻一刻と状況は悪化し追い詰められている。荒野の四方八方よりにじり寄ってくる。
もはや、停滞は死を意味する段階に入った。袋の
一か八か、決死の賭けに出るしかない。
駆郎は岩陰より
後を追ってきた。
狙われている。
捕まったらおしまいだ。
駆郎は全速力で荒野を駆け抜ける。ズルズルの地面に足を取られそうになるも、気合と根性でバランスを保ち猛ダッシュ。転倒すれば一発でタッチアウトのゲームセット。全神経を集中させて走るしかない。
「くそ、こんな訳分からん場所で死んでたまるかっ」
その時、前方に稲妻走る。
青白い光の亀裂はジグザグ暴れながら、歪な円を描いていく。中心に生じるのは黒い穴だ。漆黒という言葉も生ぬるい、深い深い純粋な黒。それはまるで次元を
極限状態の脳裏をよぎったのは、ワームホールという概念だった。
離れた二つの空間を繋げるトンネルであり、解神秘学でも未確認の絵空事。存在の証明に躍起な研究者はいるが、現状は机上の空論でしかない。
だが、その虚構こそ眼前の穴ではないだろうか。
もしかすると、自分はあそこを通ってしまい、この異空間に迷い込んだのでは。人形霊探しに夢中で知らぬ間に空間跳躍した。とすると、もう一度潜れば元の世界に戻れるかもしれない。
だが、これ以上論理的に考える余裕はない。
黒き次元の穴こそが出口と信じ、がむしゃらに飛び込む。視界が暗転。次の瞬間、硬い物に激突した。
「いっつッ!?」
激痛に
視界がぐらつく。チカチカと星が瞬いている。頭部を強打したせいだ。痛みで熱を帯びる
鉄製の棚が
ということは。
薄暗く狭苦しいその場所は、一時間前までいた教材倉庫。
元の世界に戻ってきたのだ。
※
命からがら喉もカラカラ、どうにか帰ってこられたらしい。埃まみれで不快な倉庫も、極彩色の世界の後では楽園だった。
人形霊に誘われるがまま倉庫に入り、知らず知らずのうちに異空間で遭難してしまった。頭から爪先までずっぽり罠に嵌まった訳だ。分かっていたとはいえ、あまりにも綱渡りで無鉄砲な行動である。
だがそのおかげで、ExOUを揺るがす大発見をした。
魂とは無関係の未知なる世界。そしてそこに住まう謎の生命体。新たなオカルトの発見は、人類が超えるべき試練の誕生なのだ。
すぐに報告しなくては。いや、その前に倉庫が危険と周知した方が良いだろう。生徒が迷い込めば行方不明、向こう側で野垂れ死ぬのが目に見えている。
「ん」
倉庫から出ようとするも、引き戸には鍵がかかっている。この一時間の間に誰かが閉めたらしい。そろそろ夜になる。助けを呼んだところで誰も来ないだろう。蹴破って出口を作る。後で校長に謝罪しておこう。ついでに完全封鎖も進言しておかなくては。
窓から差し込む夕暮れは、遭難以前と変わらずそこにある。元の世界の空はこんなにも美しかったのか。極彩色の空模様は二度と見たくない。
いつもの景色に生を実感する。無事でよかったとほっとした瞬間、
「駆郎のバカー!」
左頬に小さな拳がめり込んだ。「ぐふぉ」と間抜けな悲鳴を上げて、よろめき
「……ってぇな。いきなり殴るなよ」
ついさっきまで危険地帯にいたんだぞ。と、続けようとしたのだが言葉は続かない。グーパンチの主であるななが、血涙をだばだば滝のように流していたからだ。
「な、なんだよ」
「それはこっちの台詞だよ。すっごく心配したんだから!」
「一時間離れた程度で泣くなって。幼児じゃあるまいし」
泣くほど寂しがるとは、ななの幼稚さは相当だ。本当に元三年生なのか。試験の相棒として心配になってくる。
「天宮駆郎君。今までどこで油を売っていたのですか?」
今度は大地の登場だ。普段は昇降口で待ち伏せているのに、校舎の中まで追ってくるとは珍しい。
「どこも何も、この階にずっといたぞ」
「丸一日もですか? 遊びたがりの大学生だからって、冗談も大概にして下さいよ」
「待て待て。そっちこそふざけているだろ」
「私は試験の監視役です。嘘で
「だから、本当に話が見えないんだって」
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