第24話
※
駆郎の
普段は割と冷静沈着、悪霊に対しても淡々と仕事をこなす彼が
「あんなに怒る必要あったの?」
「大ありだ。あのままミツデ様を続けたら高確率で警察沙汰に発展だ。大騒動間違いなしだよ」
「マジで」
「マジだよ。毎年事件になってるし、以前その内の一件を俺の母親が解決した」
今から十二年ほど前。
当時最上級生の女子数名がミツデ様を実行したらしい。
仲良しグループで有名だったが、卒業を機に内一名が遠方へ引っ越すことに。そこで、思い出作りの一環に、放課後の教室にて開催する運びとなった。
当初は順調に進行していた。片思い相手への告白は成功するか、将来はどんな職業につけるのか。意外にも受け答えが成立しており、女子達は大層盛り上がっていたそうだ。
事態が急変したのは、儀式終了目前のタイミングだった。
突如、担任教師が戻ってきたのだ。ミツデ様をしていたと発覚すれば説教不可避。誰もが慌ててコインから指を離してしまった。降霊術の禁止事項ベストスリーに入る大失態だ。
本来であれば、正式な手順を踏んでミツデ様、もといその辺にいた低級霊に帰ってもらう必要がある。だが、順序を無視して強制終了したらどうなるか。当然、霊達は怒り狂う。ゲーム中に回線を切断されたら誰だってそうなる。失礼千万だ。
そこから先は
事態の収束に貢献したのが駆郎の母だ。あっさり手早く浄霊し、憑りつかれた女子から低級霊を取り除いた。歴戦の霊能力者らしい熟練の技だった。
結果的に犠牲者はなし。不幸中の幸いだったが、負傷者多数で病院送りは二桁に。女子達の友情も
以上が、駆郎が語る事件の
「うへぁ。とんでもないことになったんだね」
「遊び半分でも致命的な事態になるんだよ。魂の存在が公になり霊能力者は仕事しやすくなったが、逆に聞きかじっただけの連中が羽目を外して大問題になる」
三年生の女子達はギリギリ未遂で済んだ。今後は考えなしに霊と関わらないはず、と願うしかないだろう。呆れ果てるのも無理はない。
「一応、あいつらが無事下校できるか、見送ってくれないか?」
だからこそ、駆郎の頼みに耳を疑った。
「それって、どーいうこと?」
「霊が降りてくる前に中断させたとはいえ、あいつらはミツデ様に呼びかけてしまった。だから、せめて学校を出るまでは見守った方がいいかと思ってな」
「そうじゃなくって……」
と、反論しかけたが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
駆郎が相手を――しかも、悪ふざけをした子ども達を気遣うなんてびっくり。案外お人よしなんだね、なんて言えば機嫌を損ねるだろう。斜に構えた冷血漢に見えて、熱い心も備えているのが駆郎なのだ。
ここは黙って引き受けてあげよう。
「まったく仕方ないなぁ」
口では面倒そうに答えるも、頼られるのはやぶさかでない。
ベランダの悪霊相手では役に立てなかった。だからこそ、めげずに有能さをアピールし続ける。それが今できる最高の自分だろう。
――別に、駆郎のためって訳じゃないけどさ。
意外な優しさに
※
女子達の安全はななに任せ、駆郎は自身の職務に戻る。
ミツデ様は実行寸前で防いだ。見送り程度なら彼女でも大丈夫だろう。心配がないと言えば嘘になるが、それ以上に信頼が
深い付き合いでもない、相棒兼依頼主。しかも相手は記憶喪失で、一回り近く年下の霊だ。安心を覚える方がおかしい気もする。
「こんな調子じゃ大地に笑われるな」
余計なことを考えるのは一旦やめだ。
とにかく、今は七不思議の解決に集中する。三年生の噂について聞き込み調査を進めよう。
とはいったものの、周辺に生徒の影は見当たらない。ミツデ様の件で怒鳴ったせいだろうか。とばっちりを恐れ、他の居残りっ子達も全員下校したらしい。
人形霊について聞きたかったのだが。
もっとも、単なる噂なのはほぼ確定だ。市松人形に異常はないと報告して、次のステップに移って良いかもしれない。
「なな、早かったじゃないか」
視界の端で霊体が揺らめく。
どうやら見送りは無事に済んだらしい。ミツデ様の悪影響は
一言褒めて助手のやる気を伸ばしてやろう。と、思案しながら振り返ると、そこにいたのは――ななではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます