第三章:正体不明の人形霊
第22話
昨日の体験は胸に大きな
掴みかかる悪霊の男の子。ギョロつく四つの瞳とギザギザの歯。そして、紙やすりみたいな灰色の肌。奮い立ったはずの心は瞬く間に
――凄く眠い。霊も睡眠不足になるんだ。
目の下に
彼は
男の子の悪霊は確かに
結局、あの子は強制浄霊で無に帰してしまった。
――なんで悪霊なんかになっちゃったんだろう。
きっと、自分でも制御できない怨念があったのだろう。
――ななもいつか、あんな風になっちゃうのかな。
今はまだ記憶喪失の白紙状態。まっさらで透明感溢れる霊に過ぎない。だが、全てを思い出した時、自分は変わらずにいられるだろうか。
もし、忘れていた方が良い記憶だったとしたら。悪意の激情が奥底に封じられているとしたら。身も心もどす黒く染まり、悪霊になってしまうかもしれない。
その時に引導を渡すのは、きっと駆郎なのだろう。
考えたくもない、最悪の結末だった。
「今日から三年生編に突入だね」
嫌な想像を振り払い、明朗快活な少女を装う。
階段を上がった先に広がるのは四階――三年生の教室が並ぶフロアだ。ここの廊下では度々人形の霊が目撃されているらしい。その謎を解き明かすことこそ、次なる課題であった。
「もしかすると、想定より早くお前の浄霊ができるかもな」
「それって、ななが三年生だったかもって話?」
自身が何者なのか記憶も記録もない。しかし、体格や性格からして、ななは小学三年生の可能性が高い。というのが、駆郎の見立てだった。故に、三年生に纏わる怪異を調べれば、
「いいかんじのヒントが見つかるといいね」
「なんで
未練の正体が判明して、後腐れなく浄霊される。
それこそが待ち望む結末だ。そのため駆郎に依頼して、見返りに試験の助手を務めている。手間賃を払い終えるより早く目的が達成されたら儲けもの。嬉しいことこの上ない。
はずなのに。
何故か、
せめて、七不思議を全て解決するまでは一緒にいたい。
訳もなく、そう願っている自分が不思議でたまらない。
※
放課後。
三年生達が
駆郎は子ども達の流れに逆らい、校舎の奥深くへと入り込む。行き先は
三年生の廊下を遊び歩く人形の霊。
その正体は、空き教室の主と化した市松人形である。と、まことしやかに
「じゃあ、その人形をどうにかすればいいの?」
「呪物の類なら適切な手順を踏んで処分するだろうな」
しかし、その人形は呪物ではない。それ以前に解神秘学とは
そもそも、人形は駆郎が小学生の頃から存在し、怪談も当時から
解神秘学の進歩により、様々な超常現象と怪異の存在が認められた現代。とはいえ、見間違いや勘違い、嘘と噂の一人歩きは往々にしてある。そのため、早とちりで浄霊の依頼が舞い込むのも日常茶飯事。怪事件が頻発する学校となれば尚更だ。不安が不安を呼び、ありもしない怪異が噂になる。
つまり、三つ目の七不思議は中身のない噂だった。というのが真実かもしれない。嘘か誠か、その確証を得るためにも、改めて人形の調査は欠かせないだろう。
「うん、やっぱりただの人形だな」
もっとも、
当時と変わらぬ、ちょっと怖いだけで何の変哲もない市松人形。相違点を挙げるなら、劣化が進み顔面が
予想通り空振り三振。
やはり、虚構の存在が七不思議入りしただけのようだ。
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