第20話
ななは己を鼓舞し、悪霊の棲み
改めて言いたい。怖くて仕方ない、と。
もし自分が霊でなければ漏らしていた。全身が拒否反応を示している。
だが、もう後には引けない。
大見え切っての背水の陣だ。確実に結果を出さねば。
悪霊が出現すれば御の字。すぐに駆郎とバトンタッチして、強制浄霊すれば試練クリアの万々歳。一応霊同士なので、意思疎通も微粒子レベルで可能かもしれない。もしもやり遂げたら、ななの評価も
――見てなさいよ、駆郎!
すり抜けてすぐ鉢合わせは嫌なので、実体化してから手動で引き戸を開ける。
――大丈夫、そんなに怖がる必要はない。
自分は霊であり、常に宙に浮いている。つまり、いきなり足を掴まれないはず。足元は気にせず、上方からの攻撃に注意しよう。
固唾を呑み、ベランダへと足を出す。
右足が外気に晒されるも、ぬるい夏の風だけが吹き抜けていく。
問題なし。続けて左足を出す。こちらも変わらず、異物が触れる様子はない。
頭上はどうかと視線を向けるも、年代物の
ほっと胸を
――って、出てくれないと困るんだけどね。
警戒心の強い悪霊らしい。か弱い少女が丸腰でやってきたというのに。元幼児だから臆病なのか。口ほどにもない。と、またも自身を棚に上げていると、足に
痛み。否、それよりも先に湧き上がるのは恐怖。
もしかして。もしかしなくても。
※
何をそんなに張り切っているのか。
ななは生意気にも「自分一人に任せろ」と豪語した。
前日に“キューティア”をリアルタイム視聴したせいだろうか。テンション据え置きとは、やはり幼稚と言わざるを得ない。
聞き分けのない子どもか、と
ななの方が適任かもしれない。
土倉友子との関係が良い例だろう。見ず知らずの霊とも仲良くなり、いとも簡単に情報を引き出していた。
偉そうな態度は気に入らぬが、彼女なしでは浄霊もままならない。
――女児霊ありきの仕事なんて、霊能力者として未熟だな。
あくまでも、野良の霊をうまく利用しているだけのはず。間違っても、ななに依存している訳ではない、絶対に。と、内心言い訳に終始していたのだが、
「ひぎゃあああああああああっ!」
ベランダから響く絶叫により思考が中断される。
その主は無論ななである。
意気揚々とベランダに出てすぐコレだ。原因は間違いなく悪霊にある。立ち上る悪しき気配からしてそれは明白だ。
同じ霊の訪問が嬉しくてつい顔を出したのか。それとも、弱者の登場にこれ幸いと襲い掛かったのか。
どちらが正解か分からない。考えても仕方がない。
やるべきは強制浄霊一択のみ。
駆郎はお札片手にベランダへと駆け出す。机と椅子を掻き分け教室を横断し、開けっ放しの窓へと飛び込む。長方形の
悪霊はどこまでいっても悪霊だ。
善良な少女の霊相手でも、闇に引きずり込もうとしている。悪意の
――させてたまるか。
お札ごと拳を握りしめる。
浄霊の念をその手に宿し、悪霊の背中へ垂直に振り下ろす。
ずぶり。
霊体を突き抜け拳がめり込み、貫通痕より力が染み込んでいく。
「ウガァ、アァァッ」
一撃で致命傷――否、致浄傷と言うべきだろうか。不可逆の傷を負った悪霊は、びくびくとのたうち回る。撒き散らすのは悪意ではなく、崩壊する自身の霊体だ。濁った
「く、くくくくく駆郎っ」
ななは身を
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