第19話
「駆郎もそんなに落ち込まないで。日曜日には“キューティア”が放送するんだし、ななと一緒に元気出そ!」
「それ、お前が見たいだけだろ」
いや、さすがにそれはないだろう。
ななの行動にそこまで深い意味はないはずだ。勝手気ままに自分本位、至って能天気そのものである。
「やっと見られるんだもん、テンション上がり過ぎて鼻血出ちゃいそうだよ!」
「血涙流す奴が何を言う。それに、しこたまサブスクで楽しんだだろ」
「リアルタイムは格別だって、友子ちゃんに教えてもらったもーん」
「左様か」
厄介な置き土産を残していったな、あのオタクっ娘。
土倉友子との交流以降、ななは魔法少女ものアニメに興味津々。しかし、“見習い魔天いろは”は二十五年前の番組だ。とうの昔に最終回を迎えており、代わりに現在放送中なのが“キューティア”シリーズだった。
そのまま諦めてくれればよかったのに。
おかげで現行作品の履修にとスマートフォンを占領された。
子どもの霊らしい
なんだかんだ言って、年相応の無邪気さなのかもしれない。
いや、むしろ幼稚な方だろう。
※
休日は“キューティア”をリアルタイムで
控えめに言って最高だった。
躍動するヒロイン達に感じた高揚感を、誰かと語って共有したい。と思ったのに、駆郎はさして興味ない様子。いくら勧めてもなしのつぶて、解神秘学の参考書ばかり読みふけっていた。勉強熱心なのは良いのだが。
――面白いんだから、一緒に見ればいいのに。
おかげで語りたい欲求が
話し相手になってくれる霊友達は既に浄霊し、かといって自分の声は一般人には聞こえない。あとは知り合いの霊能力者だが、大地と仲良く感想戦なんて絶対あり得ない。たとえ、あちらがその気だろうと断固拒否だ。
結局、ななに残されているのは駆郎だけ。
快い浄霊のためにしろ、悠々自適な
胸のもやもやが解消されぬまま休日は過ぎ去り、月曜日を迎えてしまった。
先週に続いて二年三組を訪れる。逃がしたベランダの悪霊を確実に浄霊するためだ。駆郎は今度こそと躍起になっているらしく、朝からずっと口をへの字に曲げていた。
――ずっと隠れているつもりなのかなぁ。
机と椅子だけの
どうやら非活性化状態らしい。悪霊はきっと、駆郎を警戒して引きこもりを決め込んだのだ。などと、現実逃避気味な憶測に走ってしまう。
そんなはずはない。獲物を引きずり込む機会を
――あんな見た目になっているんだもん。話し合うなんて無理だよね。
悪霊の姿が脳裏をよぎる。
バツ印に並ぶ四つの眼球。灰色一色で鱗のようにガサガサの肌。伸ばす両腕は骨と皮だけで小枝の如し。背丈からして相手は幼児だが、あまりにも悍ましい容姿に震えが止まらない。
意地を張り平気なふりをしてきたが、内心ビクビク、歯の根が噛み合わずガチガチガチ。見かけで判断するのは良くないが、本能的な恐れから来るものなのだ。同じ霊同士でも、分かり合える気がしない。
――ううん、こんな調子じゃ駄目だ。
怖気づき怯えてばかりでは駆郎に笑われてしまう。浄霊の対価として助手になったのだ。口だけ達者の役立たずなんて
一騎当千の活躍をして、超絶優秀な助手としての地位を確立してみせる。
「あちゃー。悪霊は出てこないみたいだねー」
「また不意打ちをしてくるのか、それともずっと息を殺し続けるつもりか」
「霊だから殺そうにも既に死んでいるけどね」
「ただの比喩表現だ。さっきから何が言いたいんだお前は」
「ふふん。今日はなな一人でベランダの調査をしてあげようかと思ってね」
なので、つい強がって挑発してしまう。
「どういう風の吹き回しだ?」
「だーかーらぁ、代わりに悪霊と会ってあげるってこと。駆郎が行っても多分出てこないだろうし、ここはななに任せてもらえないかな?」
「何を偉そうに……」
一瞬、眉を
「いや、そうだな。お前は曲がりなりにも俺の助手だ。試しにやってみてくれ」
意外にもあっさり許可を出してくれた。
「そうこなくっちゃ!」
鳴らないフィンガースナップを一つ。
怖がってばかり、守られてばかりのヒロインはもう古い。主人に並び立つ助手として、有能っぷりを披露してみせる。
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