第14話
「夕暮れ時だからって、なーに
頭上より逆さまで、なながずいと割り込んでくる。
「うるさい。計画が成功してほっとしてるだけだよ」
「なら、別にいいんだけど」
「おにーさん、誰と話してるの?」
つぶらな瞳を
彼女は霊能力者ではない。諸事情で友子のみ感知できただけ。そのため、ななを認識しておらず、大の男が一人で会話しているのを不思議がっているのだ。
「ここにもう一人、
「じゃあじゃあ、風羽が倒しちゃってもいい?」
「おぅ、いいぞ」
「勝手に許可しないでほしいんだけど」
どうせ霊体なのだ。一般人に殴られる心配はないだろう。
駆郎はぷんすかご立腹の助手を放置し、教室中央へと視線を移す。
再会の奇跡は、既に佳境へと差し掛かっていた。
「ごめんね。友子ちゃんのキーホルダー、私が持っていたんだ」
「そっか。あはは、道理で見つからない訳だ」
「返すの遅れちゃったけど、許してくれるかな?」
「もちろんだよ。だって私達、親友だもん」
紅花から友子へと、友情の証たるキーホルダーが受け渡される。
それが
未練の解消。一年二組から解き放たれる瞬間だった。
友子の霊体が光に包まれていく。
「ありがとう、紅花ちゃん。また会おうね」
後悔の念がなくなれば自然と霊体も消滅する。それが浄霊だ。
夕日に溶け込んでいく親友を前に、紅花の
「約束……約束だよっ」
声を震わせながら紅花は小指を立てる。友子もそれに応じ小指を突き出すと、生身と霊体を絡み合わせる。消えゆく霊相手では触れ合う願いは叶わぬも、二人の指は確かに結ばれていた。
「「ゆーびきーりげーんまん、うーそついたらはーりせんぼんのーます。ゆーびきーったっ」」
誓いの言葉が教室に染み込むのと同時に、友子の霊体は虚空へと帰っていった。
後に残るのは、一対のキーホルダーだけだった。
※
土倉友子は無事浄霊されて、一つ目の七不思議が解決した。
大鳥親子を見送った後、ななと駆郎は家路につく。
日はとっぷり暮れて、校舎の大半は暗闇の中。心許ない明かりがぽつぽつ灯っているだけだ。相棒の背中に貼り付きとぼとぼ浮遊する。
浄霊の瞬間を初めて見た。記憶喪失なので当たり前なのだが、衝撃で言葉を失ってしまった。
自分も同じように消える。
あの光景は、いつか訪れる未来なのだ。
霊になってしまった理由――未練の正体が分からぬ内は、遥か先の話と気楽な
「お疲れ様です、天宮駆郎君」
昇降口に差し掛かった瞬間、下駄箱の陰よりスーツ姿が飛び出してきた。
試験の監視役を務める大地だ。すれ違いざまにすりの手口よろしく、滑らかな手捌きで折り紙を回収していく。
「まずは一つ解決したようですね。随分じっくりと時間をかけていたようですが」
折り紙を手帳の間に挟みつつ、大地は挑発的に口角を釣り上げる。
「何が言いたい?」
「いえいえ。
「ここから
「期待せず待たせてもらいますよ」
ひらひらと手帳で扇ぎながら、大地は夜の闇へと去っていく。
幼いななでも、今のやり取りが
「あの大地とかって人、感じ悪くない?」
我慢ならず、大声で悪態をついてしまう。相手に聞かれても構うものか。むしろ
「昔、色々あったからな」
しかし、駆郎ははぐらかすばかり。肯定も否定もせずにいる。
良好な関係とは言えないのだろうが、かといって
二人の過去に、一体何があったのか。
根掘り葉掘り聞く手もあるが、地雷原に飛び込むようなものだ。下手すれば強制浄霊されかねない。まずはマザコン疑惑と初恋相手について教えてもらおうか。それも逆鱗に触れそうだが。
――もっと駆郎のことが知りたいな。
胸の片隅にどっしり居座り離れない。
一目惚れの恋心はまやかしだったが、では、この気持ちは何だと言うのだろう。
ただの好奇心か、それとも……。
気持ちの整理がつかぬまま、ななは相棒の背を追うばかりだった。
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