第2話
※
弱々しい明かりの下、
懐かしい景色だ。つい六年前まで通っていたはずなのに。母校は思いの
古びた四階建ての校舎が南北平行に二棟、渡り廊下で繋がりちょうどアルファベットのH字になっている。現在地はその連絡通路の一階、昇降口と一体化した区画である。左手には当時と変わらぬ下駄箱が
「気合を入れないとな」
駆郎が母校を散策する目的。
それは一週間後に開始される試験、そのための下見である。
かつて自然科学と相反するが故
世間一般で言うところの教育実習に近いかもしれない。違いを挙げるとするならば、小学校側から依頼された点だ。怪異絡みの諸問題に関する問い合わせは全国各地で数多ある。その内、経験の浅い者でも対応可能と判断された案件が、実習の名目で学生の元に回ってくるのだ。
「しかし、母校が課題になるなんて。これが運命か」
ある程度予想していたがドンピシャリだ。
立地に問題があるらしく、この学校は怪異を寄せ集める性質を持つ。毎年のように怪事件が起こっては大騒動だ。駆郎の小学生時代以前から変わらぬ
「さて、どうしたものか」
シャツの胸ポケットより一枚のメモ用紙を取り出す。先ほど
メモは以下の通りだ。
・一年生:夕方、一年二組に出現する女の子の霊
・二年生:二年三組のベランダにうずくまる男の子の霊
・三年生:三年生の廊下を遊び歩く人形の霊
・四年生:二階渡り廊下の角に潜む見えない何か
・五年生:真夜中、勝手に開く五年生女子トイレの窓
・六年生:神出鬼没、四階に現れるぼろ布を被った女の霊
・職員室:午前四時四十四分四十四秒、職員室前モニターに映る怪現象
端的に表せば七不思議。七つの怪異全てを解決するのが試験の概要である。
といっても、
課された七不思議はぱっと見、よくある怪談の寄せ集めだ。
奇妙なのはその配置である。七不思議といえば、どこの学校でも発生する現象だ。しかし多くの場合、怪異の舞台は理科室や音楽室などの特別教室である。
実際、校長も困り顔で汗まみれになっていた。整然としているが故の不気味さを感じたのだろう。小心者なのは六年前から据え置きらしい。もっとも、怪異リテラシーが足らず、時折とんでもないことをする人なのだが。
人間早々変わるものではない――否、そうでもないだろう。
自分は当時と似ても似つかぬ変わりようではないか。と、
――気に病む暇はないのにな。
優先すべきは試験の突破だ。後悔している余裕はない。
一週間後の七月初日から夏休み開始までの約一ヶ月が試験期間だ。効率よく各階をクリアしないと、途端
――恐らく、一年生と二年生の霊は以前からいる奴だろうな。
噂と証言が真実なら、記憶にある二体の霊が正体だろう。知っている相手ならばスムーズに浄霊できるはずだ。締め切りに追われる重圧も幾分軽減される。
問題なのはそれ以降の怪異である。
駆郎はメモ用紙を折り畳むと、腕組み目を閉じ思考の海に飛び込む。
期間はたったの一ヶ月。しかも土曜日曜祝日は学校に入れないため、活動可能なのは二十日にも満たない。
それならば、よく知る霊から順番にクリアするのが定石だ。後に控える難題のため、時間に余裕を持たせたい。一番下の学年から順番に済ませていこう。
順調に進むか否か、五分五分だろう――と、脳内で予定を組み立てていると、冷たい気配が足元に滑り込んできた。
人ではない、と肌感覚で理解する。
ぱちりと開眼すると、そこには少女が一人。簡素な白いワンピースをはためかせ、ふわりと宙に浮いていた。
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