第13夜 異世界とラムソスの過去

「歩けたね」






そう華留美が紗生に言うと、






「良かった」






と華留美は微笑み、続けた。






「あ、ああ。そうだな」






と紗生。


スイスイ歩けたわけではなかったが、何とか歩くことは出来た。




2人は隣同士で食事をしている。


味はすごく美味しいというわけではなかったが、2人は食べられるだけでも有難いと食べた。






「あんまり美味しくないよね…」






と華留美はコショコショと紗生に耳打ちした。


紗生はフッと笑うと、






「そうだね…」






と以前の紗生のような口調で華留美に言葉を返した。






「…紗生姉そう言えば雰囲気変わったよね。


髪型も変わったし。…あんなことがあったもんね、ショックだよね」






と華留美は紗生に切り出した。






「あ、いや、確かにショックだったんだが…色々あったんだ…後でゆっくり話すね」


「そっか…」






そう2人がしみじみ話していると、ジャンが2人に割って入った。






「おうカルミん!!!!これ美味いぞ!!!!これ食え!!!!」


「サキこれも食べなよ~~~~!!!!」






とダンテも割って入った。






「「あ、ありがとう」」






と2人は有難く食べた。


なるほど先ほどの料理よりは少し美味しい。


美味しいね、と2人は少し笑い合って食べた。


その様子はただの普通の少女2人に見えた。




少なくとも、ななめ前に座っていたアザムには。




―――――――――――――――――――――――――――――






所変わり妖精村のベルデの住処。




ベルデの住処は小さな家だ。


小屋よりは大きく家よりは小さい、老人の終の棲家という感じだ。




そこにベルデとザムザとラムソスが水晶を囲んでこじんまりと集まっている。


いよいよこれからラムソスの過去が2人に披露されるわけである。






「ではゆくぞ」


「はい」


「ええ…」






ベルデの言にそう清教の2人が相槌を打つと、3人の前に水晶は幼いラムソスとその家族を映し出した。






何ということだろう、ラムソスらは盗賊に襲われている。


ラムソスは盗賊に犯され姉や妹、母は犯された後殺され兄と父と祖父は滅多刺しにあった後殺されている。






ラムソスは青ざめた顔を手で覆い横に顔を背け上半身をすぼめ椅子に座る。


ザムザもまた青ざめ、






「うわああああ!!!!」






と叫び声をあげると後ろに後ずさりし尻餅をつき、ベルデは






「うむ…………」






と言い顔をしかめながら続きを見つめた。






「ザムザ、来なさい。続きがまだある」


「う、うう…」






そう呻くと、ザムザはヨロヨロと水晶に近づき顔を青ざめさせ全身をブルブルと震えさせながら続きを見つめた。




そこには、汚れたシーツで裸の傷だらけの体をくるみながら砂漠を一人歩くラムソスの姿があった。


家から持ってきた水筒の水も空になりながら、只管砂漠を一人で歩く。




ザムザはその様を、体をブルブルと震わせ泣きながら見つめた。


ラムソスは顔を手で覆いながらチラチラと水晶とベルデとザムザを同時に見ている。


バツが悪そうである。




砂漠を歩いていくと砂漠の端の町に辿り着いた。




アガナの町である。




アガナの町に着くと、ラムソスはバタリと倒れてしまった。


そこに人が集まった来て軽く人だかりが出来る。


朝だったから近くのマーケットから人が集まってきていたのだった。




そこに現れたのが牧師様だった。




牧師はラムソスをゆすり、口に手を当て息をしていることを確認すると、周りの人々に目の前の少女のような少年に手を出さないようお願いすると、アガナの清教教会から水を汲んできて少女のような少年に水を飲ませた。




そして牧師ははだけたシーツをまた体に巻くと肩に担ぎアガナの教会へと連れて行き、食事を与えて傷に軽い手当てをすると一晩寝かせ清教徒の服を着せ、アガナの牧師に一晩世話になったことを礼を言うと足を引きずりながら歩く少年の手を取りながらダヂオの教会へ連れていき、ザムザに紹介したのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――






ここはアガナ、エスカーの家。






「えっ…ここはどこなんだ…!!!!」


「どういうこと?」






驚く裕生にエスカーが反応した。






「え?二ホンがないってこと?」


「ユーキくんのいる国がないのか…????」






とエスカーの両親もザワザワとしだす。






「ここは…ここは俺の知っている世界じゃない…です…。


ここは一体どこなんだ…!?!?!?!?」




「え!?!?」


「どういうこと!?!?」






よく分からないという風にエスカーの両親が混乱していると、エスカーが






「…っとゆーことは…………ユーキは異世界人ってこと…になるの!?!?!?!?」






と言い放った。


シーンと静まり返るその場、青ざめるエスカーの両親と裕生。


そんな中エスカーは体をブルブルと震わせ、






「すっげーーーー!!!!」






と叫び声をあげその場で立ち上がり天井の方を見上げた。






「えっ!?!?!?!?」






とどよめく一同。


当たり前である。






「はっ…?何…?」






エスカーの両親はエスカーをキョトンと見つめた。






「何って!!!!ユーキは異世界人ってことだよ!?!?


すっげーーーーじゃん!!!!こんなことってある!?!?


いや!!!!魔法のあるこの世界ですけども!!!!」






「はは…魔法!?!?」






と裕生がギョッとする。


これまた当たり前である。




エスカーの両親は呆気にとられポカーンと口を開けながらエスカーを見つめている。






「ま、まあ…小説みたいだがねえ…」


「絵本みたいだな…」






とエスカーの両親。


少しづつ納得しかけているようだ。


だがまだよく理解出来かねているという雰囲気である。


それはそうだ。






「待って待って!?!?


異世界の上に魔法があるの!?!?なろう系異世界アニメかよ!!!!」






「なろう系って何!?!?アニメって何!?!?」






とエスカーは興奮して食い気味に裕生に詰め寄った。






「なろうっていうのは、小説家になろうっていう、小説投稿サイトで、


結構流行ってて、アニメ!?!?もないの!?!?」






と裕生はたどたどしくなろうを説明した後アニメもないということに驚きの声をあげた。






「小説投稿サイト!?!?サイトって何!?!?


投稿は分かる!!!!で、アニメって何!?!?!?!?」






困惑する裕生に詰め寄る我が子をぽかーんと見つめながら、彼の両親は不意にお互いの顔を見つめ合い、あはは!!!!と笑い声をあげた。






「こ、こんなことがあるの!?わけの分からないことばかり!!!!」


「面白い、面白いなあ!!!!」






そう笑い合うエスカーの両親をエスカーと裕生が今度は2人がポカーンと見つめると、何だか楽しくなって、4人であははと笑い合った。




なんだか4人はすっかり打ち解けたみたいだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――






ところ変わり妖精村、ベルデの住処。






ザムザはブルブルガタガタと肩を震わせながら顔を青くしボロボロと涙を流し、ううっ…と呻きながら椅子に座りテーブルの上に肘をつき両の手を固く結んでいる。


12やそこらの少年には酷な映像だったか、とベルデは少し後悔していた。




と、不意にラムソスがザムザにゆっくり近寄りそっ…とザムザの両肩を抱いた。






「ゴメン…ゴメンね…あんなの見せて…」


「ラムソス…」






ザムザは肩を震わせ涙を流しながら弟弟子の顔を見上げると、ラムソスもまた涙を流していた。


見られる方も辛かったのだ、とザムザは思った。






「ラムソス…グスッ…。辛かったんだね…ッ。


ごめん、こんなに僕…ッグスッ…。不甲斐なくて…フッ…!!!!グスッ…」






ザムザは泣きながらラムソスにそう言うと、肩を抱いてくれた弟弟子の手の上にそっと自身の手を置いた。






「うん…。辛いんだけどね…今は…こんなになってるザムザを見るのが…辛いかな…」






そう言ってラムソスはザムザを後ろから抱きしめた。






「…ッ!!!!ヒック、うっ…」






泣きながらザムザは自信を抱きしめてくれるラムソスに温かさを覚え、両の手でその首に回された腕に手で触れた。






「ラムソス…グスッ…。あのね、ラムソス…グスッ。


僕が…、グスッ…僕が君を…グスッ。守るよ…!!!!」


「!!!!」






泣きじゃくりながらそう言い放ったザムザに驚きを隠せず、不意にラムソスは肩に回した腕を少し浮かせ、うずめていた顔をパッと離した。


そして






「嬉しい…!!!!


僕も…ザムザを守るよ。一緒に魔法習得がんばろ?」






ラムソスはそうザムザに言うと、嬉しくて照れて赤くした顔を隠すように、またザムザの首に腕を回し抱きしめ顔をうずめた。






「!!!!いいの?グスッ…。ラムソスは闇魔法なのに…グスッ」






ザムザもまた顔を赤らめそうラムソスに言った。






「いいんだ…。強くなりたいんだ…ボク…!!!!」






そんなやり取りを傍らで見ていたベルデは、2人なら修行についてこれるようなそんな気がして、頼もしい気持ちになりながら妖精を呼びティータイムの準備をしようとしていた。

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