第12夜 紗生の目覚め

紗生は目を覚ますと寝床にいた。


洞窟のところにベッドのように木で土台を作りマットが敷かれていて、体には毛布がかけてあった。


傍には華留美が寝ていた。






「…どのくらい寝ていたんだ…」






そう呟き体を起こすと、紗生は華留美を起こすことにした。






「カルミん、カルミん…」






そう言いながら華留美を揺すると、程なく「ううん…」と言いながら目をこすり華留美は目を覚ました。






「まだ眠い…あ、紗生姉…!!!!」






思い出したように華留美は驚きそう叫んだ。


その顔は煤が付いている。






「カルミん…顔に煤が付いてるけどそれはもしかして…」


「ああ、これ?ふぁ…。煤が取れないの…」






やはりか…と紗生は落胆した。


自分と同じく呪いがかけられているのか、と。






「それより紗生姉、体の方は大丈夫なの?すごく長い間寝てたよ」






やはりか!!!!と紗生は思った。






「どのくらい寝ていた!?!?」






と紗生は華留美に迫った。






「えーと…?」






華留美は指折り数えながら首をかしげた。


そこへ声を聞きつけたジャンがやってきた。






「おー、あんた起きたの?ここ狭いからよく聞こえるよ。


 あんた丸々一週間寝てたぜ。


体の方大丈夫なの?かなり弱ってるだろ。立ってみろよ」


「ジャン!!!!」






華留美がジャンに反応し、紗生もそう言われて立ってみることにした。






「…………ッッ!!!!」






うまく歩けない。


当然だ。






「どうしようジャン…!!!!紗生姉歩けないみたい…ずっと寝てたから…」






と華留美。






「それだけじゃない。ドーピングが解けたんだ。


 ここに来た時私は23日間寝ていた。


 それに加えて一週間。


 その前にかなり動いたから筋肉が少しついているようだが、


 私の体はかなり鈍っている。暫く歩く練習が必要だ。


 …申し訳ないが暫く厄介になっていいか…………?」






とジャンをチラチラ見ながら紗生は華留美の方に話しかけた。


どうもバツが悪い。






「ジャン…」






紗生の言を聞いて華留美がジャンに懇願する。






「いやオレが決めることじゃねぇんだけどなあ…。


 ルドさんが…総長がまだ帰って来ねえ。


 総長が帰ってきてから決めることだから、それまでならいいんじゃねぇ…か…」


「!!!!そうか!!!!すまない…!!!!暫く厄介になる」






そうジャンが紗生と華留美を交互に見ながら紗生に話しかける。


それに紗生が答えた。




どうやら少しの間ならいさせてもらえるようだ。






「?いいって?」






よく分からないがいいのかな?という風に、華留美は紗生に問いかけ、ああ、良かった、と紗生は華留美に返した。






「いいのかねぇ…」






とジャンは呟いたが、多分大丈夫だろ、と、ジャンは華留美と紗生を朝メシに連れ出した。










ところ変わってここは妖精村。






「さて、腹ごしらえをしたところでお前さんらには魔法を授ける」


「「魔法!!!!」」






ザムザとラムソスは妖精村のキノコと野菜の料理を食べ終わると、ベルデにそう告げられた。


驚くのは当たり前である。


彼らは聖職者なのだから…。






「待ってください、僕ら聖職者ですよ!?!?魔法を使えと言うのですか!?!?」






2人が口々にそう言うと、ベルデは






「ザムザは光魔法、ラムソスは闇魔法じゃな!!!!」






と手に持った水晶をのぞき込みつつベルデが言い放った。


ザムザの光魔法、のところで2人は「なんだ…」と胸を撫でおろしたが、ラムソスの闇魔法のところで2人とスミレとエナはギョッとした。


ラムソスはギョッとするどころかゾッとした。






「ザムザの光魔法は分かりますが、何でぼくは闇魔法…!?!?」


「そんな…酷すぎます!!!!ラムは聖職者ですよ!!!!」






と清教の2人は口々にベルデに抗議した。


やんややんやと妖精2人もベルデに抗議する。






「まあ待て、ワシが決めたことではない。


お前さんの属性がそうだとこの水晶が言っとるんじゃ」






「「壊れてますよその水晶!!!!」」


「オメーの水晶腐ってんじゃねーか!?!?」






清教2人とスミレが更に抗議する。






「まあ待て待て。水晶が過去のラムソスのことを映し出している。


これを見ると納得するんじゃないか?え?見てみようじゃないか」






とベルデが手にしている水晶をテーブルに置いて手をかざし光らせて見せた。


と、ラムソスがそれを止めに入る。






「や、やめて!!!!」


「?どうしたのラムソス…?」






ザムザはラムソスの顔を覗き込んだ。






「やめて欲しいか…?皆の前でお前の過去を見せるのを…」


「やめて…欲しい…」






ラムソスの顔は青ざめ、肩をすぼめ手を胸のところに持ってくると下を向いた。


ザムザは見て欲しくないんだな、と察して






「見て欲しくないんだね…?」






とラムソスに問いかけると、ラムソスはコク…と頷いた。






「でも…あのことが原因なら…ザムザには知って欲しいかもしれない…。


でもお願いです…ザムザだけに見せて…。皆の前で見せないで…」






そうラムソスは下を向いた状態から覗き込むようにベルデを見つめ言った。






「ワシも知らないことなんだが…お前がそう言うなら分かったよ。


ワシは見てもいいじゃろ…。ワシは年寄りのババアじゃ、今まで色々あった。


今更何を見ようとどうも思わん」






そうベルデがラムソスに言うと、ラムソスはコク…と小さく頷いて見せた。


見たいと文句を言うスミレをエナが宥めるのを横目にベルデが妖精達をはけると、ベルデはラムソスとザムザを連れ、ベルデの妖精村の住処の中に移動した。






――――――――――――――――――――――――――――――――――






ところ変わりここはアガナ、エスカーの家の居間。






「あ、あったよ」


「お?」






と、エスカーの世界の地図が描かれた世界の地理の本を本棚から発見したエスカーと裕生。






「何をしている!?」






と廊下の方からエスカーの父と、その陰からエスカーの母がこちらを覗いていた。


少し警戒しているようで、2人はそれを察知すると父母に弁明を始めた。






「あ、すみません世界地図を…」






と裕生。






「地図!?」






と敏感にエスカーの両親が反応する。






「まあまあ、ユーキが世界地図見たいってゆーから探しただけだよ。


 ニホンがどこにあっかしりてーし?」






とエスカーが両親に弁明すると、両親は少し落ち着いて納得したようだった。






「な、なるほどねえ…ニホンてどこにあるの…?」






とエスカーの両親が母を先頭に世界地図を開いて見せ裕生に急接近したので、裕生はついゴクッと唾を飲んでしまった。






「えーっと…ここがアーガナだよ」






開いた世界地図と指さされたところを見ると、どう見ても日本がある世界じゃなかった。


日本が見当たらなかった。






「えっ…ここはどこなんだ…!!!!」






そこは日本のある地球ではなかった。










紗生の寝床から、紗生、華留美、ジャンの3人で入口の方に歩き始めると途端にそこらに寝ていた女達がジャンの後に金魚の糞の様に付いて歩き始めた。






「な、なんだ…」






と紗生が戸惑っていると、ジャンが






「オレの仲間と部下達だ。心配すんな」






と紗生に返した。






「ジャンモテるから…」






とバツの悪そうな華留美。


女にモテる男女のジャンに気に入られているということから、華留美はジャンの取り巻きにあまり気に入られていないようだった。


とは言っても、ジャンに嫌われたくないのか手は出されないのだが。


口も少し嫌なことを呟かれるくらいであまり酷いことにはならない。


それでもやはり気になることは言われるのだが。


それでも華留美にとっては元の世界である日本よりは居心地がいいようだ。






「ジャンさん、目覚めたんスか」


「おはようジャン~~~~、その子目が覚めて良かったねぇ~~~~」






などと取り巻きの女達がジャンにガヤガヤと話しかけ始める。






((すごいな…))






と紗生と華留美は頭の中で呟いた。






「おうおはようさん~~~~、あんまオレとカルミんと女の邪魔すんなよ?」






とジャンはヘラヘラしながら女達に軽く圧をかけ、女たちは






「分かった~~~~」






などと言い従い金魚の糞の様に後をついてくる。


さながら百鬼夜行だ。




入口の近くまで行くと男達がいてダンテや先にいた女達と共にメシの仕度をしている。






「男もメシの仕度をするんだな、今風じゃないか」






と紗生は感心した。






「そうだよねぇ、イマドキだよねぇ」






と華留美。






「そりゃあな~、ここは女もつええからな!!!!」






とジャン。


ジャンを見れば成程、とも思うが、女おんなしい女子もいる。


かと思えばゴリラみたいな女もいた。




紗生は、女も強いのはいいなと思った。






「あ~!!!!サキぃー!!!!


目が覚めたんだねー、こっちこっち!!!!こっち来てよぉ!!!!」






とテーブルの方からスプーンを握りながらブンブンと腕を振っている者がいる。


ダンテだ。


紗生はふっと笑うと大股になりダンテの方に近づいて行った。


華留美はというと、






「ねえ」






とジャンの服をひっぱりジャンの注意を引くと、






「紗生姉の方に行こうよ」






とジャンに同席するのを誘った。


ジャンは






「そうか?じゃあそっち行くかあ!!!!」






と華留美に応じると、2人と取り巻き達は騒がしくしながらダンテと紗生の周りに座ったり料理の配り方を始めた。

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