第11夜 アーガナと日本

大根の料金分の金をエスカーがギリギリ持ち合わせていたからいいものの、危うく裕生とエスカーは大根一本の為に働かなければいけなくなるところだった。




「あー!!!!ユーキの所為で持ち金無くなったー!!!!危うく働かされるところだったー!!!!」


「いや、お前が悪いだろ…!!!!」


「だからって店の新聞パクって殴ることないじゃん!!!!あれは絶対ユーキの所為ですー!!!!」


「ああああ!?!?」




そう2人は言い争ったかと思うと、二人は見つめ合い肩を落としこれからをどうするか考えることにした。




「これからどうするの?もう夕方になるよ」




とエスカー。




「ああ、持ち金もないし宿に泊まるわけにもいかないしな…、お前はどーすんの?」




と、チラと裕生はエスカーを見た。


家に転がり込むつもりである。




「えー?ユーキこの町出るんでしょ?宿に泊まらないの?」


「金がないんだよ」




頭のところで手を組みブラブラとする裕生。




「そうだよねー、大根買う金もないんだもんねー。でもこの先どうすんの?」


「お前んちどこにあんの?」




裕生は直球を投げた。




「え!?うち来るの!?!?」


「行っていいか…?」




裕生は少し含みのある顔でエスカーを横目で見つめた。


裕生のおねだりである。


それにエスカーは戸惑いつつ嬉しそうな顔を見せた。




「えー?俺の家はこの町の端っこにあるけど…えー?どうしようかなー????」




チラチラとエスカーは裕生を見ながら話を続けた。


まるで恋人同士の会話である。




「ま、無理にとは言わないけど」


「!!!!いいよ!!!!」




プイと裕生が顔を背けたかと思った瞬間、エスカーは咄嗟にOKを出した。


しめたとばかりに裕生はにや~~~~と笑うと




「じゃ、決まりな!」




とエスカーの家に泊まることに決めた。




まさに裕生の 計 画 通 り である。




—――――――――――――――――――――――――――――――




エスカーの家庭は、エスカーの父母と2人の双子の兄弟で構成されている。


双子の兄弟はザムザとアザムと言う。




そう、清教のザムザと盗賊団ヒールのアザムである。


なんと2人は双子だったのだ。


しかし二卵性らしく容姿は似ていない。




なんという偶然であろう。


そしてもっと偶然なことに裕生は岡本紗生の双子の弟である。


2つの家族が別々に仲良くなったことになる。






ところ変わってエスカーの家の前まで着いた。


もう辺りは暗く夜になっていた。




「ただいまー、母さん父さーん。息子が今帰ったよー!!!!」






エスカーは無表情でデカい声を出しながら実家へと帰宅した。


両親は夕飯を今まさに食べるところで卓に付いていた。






「エスカー…!!!!」


「エスカー!!!!おかえり…!!!!どこに行っていたの!?!?5日も帰らないで…!!!!」






両親は口々にエスカーを叱りながら迎えた。






「この放蕩息子!!!!」






と母親が罵りながらエスカーの頬と腕に手をやった。






「お前5日も帰らなかったのか?」


「まーね。友達んとこ点々としてた」


「ホント遊び人だな」






などと裕生とエスカーが掛け合いをしていると、エスカーの両親が2人の間に割って入った。






「エスカー…この人は?」


「外国の人のようだけど…」






それにエスカーが答える。






「ああ、この子ユーキって言うの。今日仲良くなった!!!!」


「「今日!?!?!?!?」」






そのエスカーの突然の言に、エスカーの両親は驚嘆の声をあげた。


彼らの世代には信じられないことである。






「今日出会って今日家に連れてきだって正気が!?!?おめ何考えでんだ!?!?しかも外国の人を!!!!何があったらどうすんだ!!!!」


「そうだぞエスカー!!!!おめえは少しまともになっでぐれ!!!!」






いきなりなまったエスカーの両親が機関銃のようにエスカーをガミガミ叱りだした。


当たり前である。


当のエスカーはというと、へいへい、と何食わぬ顔である。


そこに裕生が割って入る。






「す、すみませんいきなり…ぼく怪しい者ではなく…」


「「十分怪しいが!!!!」」






そうエスカーの両親が裕生に嚙みつくと2人はハッと我に返った。






「ご、ごめんなさいねぇ、旅の方かしら…?いえね、うちしがない農家で旅の方をそうそう泊めないので…しかも外国の方だし…」


「ど、どこの国の方かな…?松平和まつのひらわかな…」






2人は訝し気にそう裕生に話しかけた。






「いえ、いきなり押し掛けた僕が悪いんです…!!!!じゃあ…」






そう言うと裕生は外に出ようとした。


それをエスカーが引き留める。






「待って!!!!どこに行くの!?!?これから遅くなるのに!!!!盗賊に襲われちゃうよ!!!!野獣だっているんだよ!?!?泊まっていきなよ!!!!」


「でも…」






裕生は悪いな、という態度を示した。


それをエスカーが遮る。






「いいからいいから!!!!」


「ちょ!!!!おま!!!!」






それを両親が遮ろうとする。


それをエスカーが押し通す。






「いいから!!!!俺の部屋泊まりなよ!!!!いいでしょ!?!?野宿するわけいかねーじゃん!!!!」






と、エスカーは両親と裕生の双方を説得した。


両親は仕方ない…と折れ、裕生はそこまで言うなら、とエスカーの家に留まった。




裕生は悪いな、と思いつつ、それとはまた別に、助かった、と胸を撫でおろした。




――――――――――――――――――――――――――――――――




手を洗わせてもらって、裕生はエスカーと共にエスカーの母親の料理を頂いた。


一品父親が作ったらしいが、大半は母親が作ったという。


異世界の食事は案外美味くて、日本人の裕生にも味覚があった。






「美味い?」






とエスカーは口をモグモグさせながら裕生に聞いた。


母親の前で美味い?とは失礼なやつだな、と思いながら裕生は






「美味しいです、有難う御座います。すみませんご馳走になっちゃって…」






と背を少し丸めながらエスカーとエスカーの母両方を見ながらエスカーの母に話しかけた。






「気にしないでよ~、ユーキと俺の仲じゃない!!!!」






とエスカーは食べながら裕生に言った。


肩身が狭いな…と思いつつ、メシは美味いな、と裕生は思った。






「それで、あんたどごの人なの?外人さんなのに私だぢの言葉がわがるなんてさ…」






とエスカーの母が聞いてきたので裕生は






「あ、はい、僕は日本という国から来ました…ここはどこなんですか?」






と冷や汗タラタラ答えた。


それにエスカーの母はギョッとした。


ここがどこだか分からないのにその知らない町で知らない人にご飯と宿を厄介になっているのか、図々しい、と。


それにエスカーが朗らかに答える。






「ここはアーガナ国の首都のアガナって町の端っこだよ。二ホン?ってどこにあるの?


聞いたことないけど…松平和まつのひらわ?遠いとこから来たんだね!!!!」






食べながらデカい口を開けてエスカーが喋るので食べ物が裕生のところまで飛んできた。






「きったねぇなぁ…松平和まつのひらわって何?確かに日本っぽい響きだけど…。


日本は日本だよ。知らねえの?俺もアーガナなんて国は知らないな。ガーナなら知ってる」


「ガーナ?ガーナっとどこ?アーガナだって笑。二ホンて国も全然知らないよ笑」






笑いながらエスカーがそう答えると、えっ…と裕生ははたと食事する手を止めてポカンとエスカーとエスカーの母を見つめた。






「…?どうしたの?」






とエスカーも食べている手を止め口だけモグモグさせる。


エスカーの母は






「あんた…本当に…どごの誰なの…?」






と訝し気に、困惑した表情で裕生を見つめた。


ふいに重い空気が周りに立ち込めるが、それを不意にエスカーが破った。






「まあまあまあ!!!!


どこの誰でもいーじゃない!!!!ユーキはいー感じの奴なんだからさぁ!!!!」






そう言ってエスカーは食べ終わり口をモグモグさせながら彼の母親を父のいる寝室に押して行った。


そうし終わるとエスカーは裕生が食べ終わるのを見届けてから急いで彼の分も食器をテキトーに洗って皿を乾かす所に置くと裕生を押して自室へと連れて行った。




――――――――――――――――――――――――――――――――






エスカーの部屋に着くと、裕生はエスカーにエスカーの普段着を借りパジャマ代わりにすると、2人で歯磨きをすることにて洗面所へと行った。


エスカーが予備の歯ブラシを棚から探し出して裕生に渡した。


歯ブラシは日本の歯ブラシとは少し違い、似ているようで少し古めいたデザインだった。


知らない文字で書かれている。






「ここ、ホントに外国なんだな。俺の国とは違う文字で書かれてる」


「そうなのー?そりゃ外国だからじゃない?二ホン?はどんな文字なの?ここのとはそんなに違うの?」






と、エスカーが歯磨きしながら裕生に話しかけた。






「ああ、聞こえる言葉は同じなのに文字が違う。


変だな。どうなってるんだ?先進国の日本を知らないなんて」


「せんしんこく?ってなーに?」






ブクブクぺっと口の泡と水を吐き出すと、口をタオルで拭きながらエスカーが聞いた。






「お前…先進国もわかんねーのかよ…。「文化が進んだ国」のことだよ!!!!」






と裕生が歯をワシワシと歯を磨きながら答えた。






「ふーん?割とここも進んでると思うけど?アーガナって言えば、世界でもそこそこ有名だし」


「洗濯板で洗濯しているのにか?」






と裕生は風呂場の洗濯板とタライと石鹸を見ながら言った。






「?普通じゃないの?違うの?」






そう言えばビルも見当たらなかった…と裕生は思った。


こんな後進的な国が先進国だと?と裕生は訝しんだ。


そして裕生はブクブクペッと口の中の水と泡を吐き出すと、エスカーに提案をした。






「お前んち、この世界の世界地図ある?」






いきなりのことにエスカーは吃驚したが、それもそうか、と納得して






「あ、あるよ。見る?」






と答え、世界地図を見せてあげることにした。


裕生はああ、と答え2人はエスカーの家の居間に行き世界地図を探すことにした。

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