第14夜 ゴリラ

ヒール総本山。






ダンテとジャンと楽しく(あまり食べ物は美味しくはないが)食事した紗生と華留美は、ヒールの組員と一緒に皿片付けをしていた。


紗生はヨロヨロとしながら食卓の片づけをしている。






「紗生姉、あまり無理しないで」






と華留美が紗生に話しかける。






「あ、ああ…食事の礼をしないとな」






と言う紗生。






「無理しないで、私がやるからほら、あっちの隅の石に座って休んでなよ」


「そ、そうか…?すまんな、役立たずで…」


「そんなことないよ」






ニコッと紗生に笑いかけると、華留美は率先してテーブルの皿を洗い場の女子の所までジャンと運んだ。


早くちゃんと足と手を使い物に出来るようにしないと、と紗生は思い、食事の場の隅に移動した。


座れる石に座っていると、アザムが隣に座って来た。






「歩けたし食ったな」


「あっ?ああ…」






素っ気ない話し方をしてくるアザムを、紗生は繁々と見つめた。


最初に会った時には小さくて強いという印象しかなかったが、よく見ると子供だ。






「…そんなに見ないでくれるか…」






アザムはムスッとしながら紗生に話しかけた。






「あ、ああ。すまん」






と紗生。


殺りあった相手なので隣に座られても何を話していいのか分からないのだ。


紗生はバツが悪かった。






「…オレがガキなのがそんなに珍しいのか」






そのアザムの言に紗生はドキッとした。






「あ、ああ…まさか殺り合って負けた相手が子供だとは思わなかったから…


てっきり背の低い大人かと思っていたから…」


「ふんっ…こんなガキみてえな声の大人がいてたまるか…」


「いや…お前の声は少し大人びている…」


「?そうか…」






そんなやり取りを2人でしていたが、何で自分の隣に座ってきたのか紗生には皆目見当がつかなかった。






「あ、あの…何の用だ…」




そう紗生はやっとアザムに聞いた。


それにアザムは






「いや…お前女なんだな、と思ってな…」


「は?」






何を言っているんだこいつ、と紗生は思った。


自分はそんなに男らしいのか、と。






「わ、私はそんなに女に見えないのか?」






と紗生はアザムに尋ねた。


それにアザムは






「お前ゴリラみてえに強いから女として認識してなかったんだよ…それに…」


「ゴリラ…?」


「…お前ゴリラのくせに女みてえに笑うから…」


「は????」






アザムは顔を赤らめそう言うとその場を立ち去り人込みの中に姿を消した。


紗生はポカーンとしながら






「ゴリラ…?」






とアザムが消えた人込みの方を見つめながら呟いた。


納得がいかないが、人から見たら自分はゴリラなんだな、と思いながら。






――――――――――――――――――――――――――――――――――






ところ変わり妖精村、ベルデの住処の居間のテーブル。






あの後ザムザとラムソスは、ベルデとベルデが呼んだスミレ、エナ、その他妖精達とティータイムをしていた。


辛いことがあった後の一先ずの休憩である。


ベルデとスミレは紅茶、エナとザムザとラムソスはほうじ茶のようなお茶・ハウエ茶、その他の妖精たちはカモミールティーを飲んでいる。






「落ち着いたか?弟子ぃ」






スミレが紅茶を飲みながら紅茶にレモンのような果実・レモルを絞り、またすする。






「…うん、落ち着いてきたよ。有難うスミレちゃん…」


「スミレちゃんんんん!?!?!?!?」






ザムザにスミレちゃんと呼ばれ、スミレはカタカタとカップを持つ手を揺らしながら驚愕の声をあげた。


それをいつものようにエナが抑制する。






「ま、まあまあ、あんたもガキみたいなもんなんだからいいじゃない」


「す、すみません、敬語とさん付けの方がよかった…ですか…」






とザムザはおずおずとスミレに話しかける。






「ま、まあ別にいいよ。敬語とさん付けなんかしなくても。


スミレちゃんかァー、新鮮でいいじゃない!!!!」






とスミレはふんぞり返りレモルティーをすする。


ザムザとラムソスとエナと妖精達はホッとした。






「で、どんな内容だったん!?!?」






と、スミレはずずいっとザムザに詰め寄るが、ザムザの目に途端に涙が溜まり口をガタガタと言わせるのを確認すると、エナとラムソスがスミレを制止した。






「やめてよ!!!!ザムザのこんな状態を見て、


まだ内容を知ろうとか人の感情というものがないんですか!?!?


あっ!!!!スミレさん妖精だった!!!!」






とラムソス。






「おっ!?!?」






とそれに驚くスミレ。






「あんたバカじゃないの!?!?やめな!!!!」






とエナ。


当たり前である。






「わ、悪かったよ…」






とスミレはレモルティーを飲み干し、2杯目の紅茶を淹れるとレモルを忙しそうに絞った。






「スミレさん最低ェー」


「スミレさん酷い」






とモブの妖精達がスミレに言葉を投げつけた。


スミレは急いでレモルティーを口に運ぶと、アチアチ、と紅茶の熱さに舌を火傷させた。






「じゃあスミレさん、僕もスミレさんのことを「スミレちゃん」って呼んで…いい????」






とザムザを落ち着かせながらラムソスがスミレに問いかけた。


何気に敬語が取り払われている。




スミレはそれを聞いてレモルティーの2杯目をググイッと飲み干すとカップをテーブルにターン!!!!と勢い良く置き、






「あったり前じゃん弟子ぃ!!!!あたしとお前らの仲じゃん!?!?


あたしもお前らのこと「ラムソス」と「ザムザ」って呼び捨てていいよな!?!?」






とザムザとラムソスに問いかけると、ラムソスとザムザの顔は途端に晴れていき






「…!!!!当たり前です!!!!」


「ヤッター!!!!宜しくね、スミレちゃん!!!!」






と2人はスミレに怒涛の如く応えた。






そんな風に一同は和やかにティータイムを終えた。






――――――――――――――――――――――――――――――――――






所変わりここはアガナ、エスカーの家の居間。






裕生とエスカーとエスカーの両親は水を飲むと各々寝室へと行った。


もう夜が更けてきたからだ。






「まさかここが異世界だったとはなあ…」






と床に布団を敷きながら裕生がポツリ呟いた。


それに己のベッドに入ったエスカーが反応する。


どうやら客人にベッドを譲る気はなさそうだ。






「本当に異世界なの????冗談じゃなく????本当に????」






まだ半信半疑という風にエスカーが言った。






「本当に異世界なのかはまだ確証がねえけどな。


兎に角紗生達を探さねえことにはなあ…あいつらも難儀してるだろうし」






そう言う裕生の顔には、紗生と華留美のような煤がない。


着ていた服もどうやらこちらの服のようだ。


どうやら服屋から盗んだらしい。






「…本当は別の服着てたんだよな」


「え‟」






いきなりの言にエスカーの言葉が途切れる。






「え!?!?盗んだの!?!?」


「まぁーな」


「ダメじゃん!!!!」


「だって俺こっちの金持ってねェーし」


「そりゃそうかもしんないけどさぁ」






そうは言いつつ、エスカーは遊び人。


遊び人仲間で盗みをする奴は少なからずいる。




まぁそういう奴もいるし、ましてやユーキは異世界人かもしれないしなぁ、とエスカーはなんとなく納得した。






「前着てた服、汚れたの?」


「まぁな。少し燃えた」






そのユーキの言にエスカーはギョッとした。






「燃え!?!?」






だが裕生はそのエスカーの驚きを遮った。






「ほらほら、明日朝になったらメシ頂いてこの町出るから。


この町にあいつらはいねーようだし、どこに行こうかなあ。どこがいいと思う?」






と裕生はいきなりの事をエスカーに尋ねた。






「お前も来んだろ?」






そう言い裕生はニッとエスカーに笑いかけた。


エスカーは「!!!!」となり






「当たり前じゃん!!!!


そーだなー、弟が2人いてどっちも違う場所にいるけど。そいつら訪ねてみる?」






と裕生に言った。


裕生は






「お前弟2人もいんの!?!?」






とエスカーに尋ねると、エスカーは






「うん、双子。にらんせいだから顔似てないけど」






と言い、裕生が続けて






「そっかぁ、双子かぁ。俺の妹にも双子いるよ」






と言い、「そうなんだ」とエスカー。






「弟のザムザがいるダヂオは正直今やべぇーらしくて行きたくないんだけど…。


だから行くならアザムの方かな。でも…」


「でも?」






「アザムは盗賊団の一番隊の隊長らしいんだ」


「!?!?!?!?」








―――――――――――――――――――――――――――――――――










場面は変わり、ここはヒール総本山。






「アザムと何話してたのー?」






と、紗生の元にみんなの所からダンテが駆けて来て無邪気にそう尋ねた。


生粋の日本人のような見た目のその子は、小さな猫目をキラキラさせながら紗生に近寄った。






「あ、ああ。何かゴリラと言われて…」






と紗生はしどろもどろとダンテに返した。






「ゴリラ?サキが?」


「ああ…」






うーん、とダンテは紗生を180度見ると、






「サキ、ゴリラなのぉ?」






とニヤニヤし始めた。






「私はゴリラだと思わないんだが…やはりゴリラに見えるか?」






紗生のその言を聞き、ダンテは






「ううん!!!!ゴリラには見えないけど。でも、どこらへんがゴリラなんだろうね?」






と再びニヤニヤしてキキキっと笑った。






「はぁ…ゴリラか。闘う様子がゴリラなんだろうか…」






と紗生がため息まじりに落胆すると、ダンテがキャッキャッと笑った。


どうやらツボに入ったようである。






「でも戦ったとこ、オレ見てないけど。


そんなにゴリラなんだったらオレを持ち上げてよ!!!!」


「えっ!?!?」






いきなりのダンテの言に紗生はギョッとしたが、ダンテは見た感じ小2か小3くらいの見た目なので、年齢的に相応な反応なのかなと思った。




しかし紗生は歩くのもやっとな身。






「すまないがダンテくん…私は歩くのがやっとなんだ」






紗生がそう言うと、ダンテは「えー」と不満を表し、






「ちぇー、全然ゴリラじゃねーじゃん!!!!」






と紗生に言い放った。


そう言われると紗生は少しホッとして、






(やはり私はゴリラっぽくはないんだな…)






と納得した。


そう思っている紗生にダンテは






「あ、サキぃ、オレのことはダンテでいーよ。くん付けしないで」






と言った。


それを聞いて、紗生は






「そうか…」






とフッと笑って見せた。


人込みから皿の片づけの手伝いが終わった華留美と、金魚の糞を連れたジャンがやってくるのが見えた。






「おーい!!!!(皿の片づけ方が)終わったよー!!!!」






と言う華留美の声が聞こえた。




紗生の、ダンテと華留美とジャンとその他金魚の糞の付き添いの付いた歩き方の練習が始まるところだった。








―――――――――――――――――――――――――――――――








「ねえ、何を見てるの?母さん…」






太陽が注ぐ部屋からそう少女が「母さん」と呼ばれる人にそう尋ねると、奥の少し暗いキッチンのテーブルで水晶に手をかざし、「母さん」は






「姉さん達だよ…」






と少女に言った。


少女は腰まである長い三つ編みを揺らし、「母さん」と呼ばれる人はまるで「母親」なエプロン姿をしていた。

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