第46話 悪役令嬢は主人公を助ける

準決勝が終わってから少しして今は夕刻。私とリリーは一緒に二人で帰る約束をしていた。


「ごめん、ちょっとお腹痛くなってきちゃった」

「じゃあ私待ってるよ、行ってきて!」

「助かるよ、ローズ。ありがとう!」


と、リリーはトイレの方に走っていった。にしても……やっぱりふとした時に気になっちゃうんだよね。確かに私がゲームだとできない行動ばっかして本来のルートとは大きく逸れたんだけど……ルートが違うからって性格まで変わるものなのかなぁ?……まぁいっか。私は現状に満足しているし?まぁ不満……とまでは行かないけど欲を言うなら紗蘭にもそばにいて欲しかったってのもあるね。


「紗蘭に会いたいな……元気してるのかな」

「今の私を紗蘭が見たらなんて言うんだろう……『先輩、ローズ様になっちゃったんですか!?羨ましいです!』とか言いそうだなぁ、ふふ」


と、大体20分くらいかな?ローズを待っていたのだが……


「……リリー、遅いな。もしかして何かあったのかな」


遅い。一向に来る気配がない。だいたいこういう時リリーはすぐに来るはずだ。つまり……リリーに何かあった可能性が高い。だから私は急いでリリーが向かってった方に走っていく。すると、トイレ近くの倉庫から声が聞こえる。


「リリー……あなた本当に目障りなのよ」

「……」

「ふふっ。その不細工なボロボロの醜い顔、とっても似合ってるわね……そう、あなたはずっとそのままでいいのよ。そうして、リアン様達から除け者にされればいい。私ね、ずーーっっとあなたのその容姿が気に入らなかったの。その美しさが、本当に本当に……」

「……リリー!」


途中で私が思い切りドアを開けて割り込む。リリーを見ると、手足を拘束されその顔にはたくさんの火傷の跡があった。

……はぁ、いじめか。容姿がどうこうって本当にくだらないな。確か本来のローズ様もこうやってリリーのことをいじめてたんだっけな。


「……ローズ?」

「リリー、気づくのが遅くなってごめんね。あと……治すのがちょっと遅くなっちゃうのも。とりあえず……あなたに質問なんだけど……リリーに何をした?」

「はぁ……何で言う必要があるのかしら?私がリリーに何しようと私の勝手じゃない。縛り付けようが顔を炙ろうが、ね」

「なんで?理由は?」

「リリーのその容姿が気に食わないから、ただそれだけよ」

「嫉妬か……くだらない」

「ええそうね。嫉妬したからいじめる、なんて正直くだらない話だと思うわよね。でも……それでも一度憎い、妬ましいと思ってしまったら何をしたって消えないのよ。だからその気持ちを消すためにリリーをメイクしてあげてたの。ほら、見て?この醜い顔。これだけ醜かったら嫉妬なんてしたくても出来ないじゃない」

「……は?」


……何を言っているんだろう、こいつは。……何でだろう、リリーの事だからなのか、それとも以前の事が強く頭に残ってるのか……どうしようもないほどに頭に来た。一言一言が私の癇に障る。……いや、落ち着け。最後まで話し合いを貫き通そう。


「リリーに会うまでは誰も彼も私が一番の美貌だって私を沢山褒めてくれてた。なのに……なのにリリーが来た途端に皆私を褒めてくれなくなった。私はそれが……それが、至極不快だったわ」

「ただ多くの人から持て囃されたいからリリーにこんな事をしてる、と?ねぇ……はっきり言うけどさ、あなたバカなんじゃないの?自分自身の為に他人を傷つけて蹴落とすとかほんっとにくだらないし反吐が出る」

「ローズ、そういうあなたも一度は思ったことがあるんじゃないの?リリーの容姿が羨ましい、妬ましいって」

「確かに私もリリーの美しさが羨ましく思う時だってある。けど……それがなんで妬みに繋がるの?」

「なんで……って、簡単な事じゃない。誰も自分を見てくれなくなる……自分が一番じゃなくなるからよ」

「はぁ……話すだけ無駄みたいだな。とりあえず……炎鎖」

「……なに、これ……」


私は手から炎の鎖を出し、その名も無きモブをがんじがらめに縛り付ける。……あまり武力行使はしたくなかったんだけど……どれだけ話しても無駄みたいだし、まぁしょうがないよね。


「さっき言ってたよね、リリーの顔をメイクしてあげてるって。だからさ……私もあなたをメイクしてあげる。とぉっても美しく、ね?……燃えて」

「ぐっ……あっ……熱っ……」

「ほらほら、喜びなよ。今のあなた、とーっても可愛くて、美しいよ?」

「……聖女と呼ばれているあなたがそんな事をしていいのかしら?」

「聖女?違う違う。私は……」


個人的に聖女って呼ばれるのもそこそこ良かったんだけどやっぱり一番はこれだよね。だって私が転生したローズ・コフィールは……


「悪役令嬢、だよ?……はい、メイクおしまい。それと……はい鏡」

「これが……私……?う、嘘っ……嫌、嫌!」

「これが、リリーの気持ちだよ。じっとしてて、今治してあげるから」


私は炎の鎖からモブを解放し、その火傷の痣だらけの顔を鏡で見せる。すると、彼女の顔はとてつもない勢いで青ざめていった。これで少しは反省してくれたらいいな、と思い私は彼女の顔に手を当て火傷の痣を治していく。


「……次、リリーに何かしたら顔だけじゃなくて全身火傷させるから……分かったら行って」

「は、はい!」


流石の彼女も恐怖を覚えたのか、私に敬語を使うようになりすぐさま倉庫から逃げていった。


「……やりすぎだよ、ローズ」

「あはは……ごめん。今治してあげるからね、リリー」

「……ありがとう」


私は私の後ろで座り込んでいるリリーの顔に手を当てて、同じように火傷の痣や傷を治していく。……はぁ、明日決勝戦なのに……


「……かった」

「ん?」

「……怖かったよぉ」

「……そっか。遅くなっちゃって本当にごめんね、リリー」


リリーは立ち、私に抱き着いてきた。から私も抱き返す。……ふふ、リリーの背中って案外あったかいんだな


「ううん、謝らないで……ローズ、助けてくれて本当にありがとう」

「……ショッピングモールの時の恩返しだよ。さ、早く帰ろ。明日いよいよ決勝戦だよ?」

「……うん、そうだね。帰ろっか。……明日、楽しみだね」

「そういえば、なんで拘束されてたの?リリーなら圧勝できると思ったんだけど」

「それは……私のトラウマ、かな。私ね、容姿に嫉妬されるのがすごい怖いんだ。前に同じような経験をしたことがあるから」

「そっか。私はリリーの容姿好きだよ。とっても綺麗で美しくて、可愛い。え、っと……あはは、ごめんね。上手く言葉が出てこないや」

「ふふっ。もう、慰めるなら最後までちゃんと言ってよ……でも、ありがとう。ローズがそう言ってくれて、私嬉しい」

まだ少しだけ涙を零しながらそう笑ったリリーの顔は、どこか紗蘭に似ている気がした。……そういえば容姿に嫉妬されて虐められてたって前に紗蘭も言ってたな

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