第42話 武術大会二回戦目 元気弱令嬢VS元忌み子

ラーベルに勝って、私はすぐ観客席に戻った。


「ローズ、お疲れ様。」

「ありがと、リリー」

「やっぱりローズは強いね。私達以外みんな何が起こってるのかよく分かってなかったっぽいよ」

「えぇ?これでもめっちゃ手は抜いた方なんだけど」

「絶対手抜いてると思った。逆に楽しみになっちゃうな、そこまでローズが私のために色々隠してくれてると」

「楽しみにしててね、リリー。私絶対負けないから」


多分リリーもこの前より強くなってると思うんだよな。極限まで警戒は緩めないで、本気でリリーに勝ちに行こう。あ、そういえば次って……


「リリー、次って誰だっけ」

「次?次は確かイリアとマイだね。うーん……中々に面白くなりそうじゃない?」

「イリアもマイも本当に強いからなぁ。特にマイは魔法の応用とかが凄すぎるから」

「ローズの技を色々と真似してすぐ自分のものにできるのは多分マイだけだよね」


マイ対イリアか。なんだろうな……とーっても面白くなりそうな予感がする。最後に二人がやりあったのは五ヶ月前……私を巡っての喧嘩?だったからそこからどう変わったのか。


『さぁ初めて参りましょう武術大会Aブロック第二回戦!まずはこの方、数少ない雷魔法の使い手。イリア・ミシェンス選手!』

「二人で戦うのは久しぶりですわね、マイ。ですけど絶対にまけませんわ」


始まりの鐘の音と共にまた声が闘技場全体に響き出して、向こうからイリアが出てきた。


『相対するはこの方!才能溢れるちょっと変わった炎魔法の使い手!マイ・サヴェリス選手!』

「この五ヶ月で私も大きく変わりましたしローズ様からより多くの魔法を学びました。それを、今ここで貴方に証明してみせます。絶対に負けません、イリア様」


同じく声が響いて、イリアの反対からマイが出てきた。……確かに、この五ヶ月でマイはだいぶ変わった。私に対する憧れからなのか、私がやった応用はもう基本使えるようになっているしジークから聞いた話だけどマイもジークに魔力の応用の仕方とかを教えて貰っていたらしい。


『それでは……Aブロック第二回戦、始めてください!』

「すぅぅぅ……よし、大丈夫。炎よ!」

「それはもう何度も見ましたわ!雷よ、切り裂いて!」


マイは先制で三つの火球をイリアにぶつける。そしてイリアは雷を手に纏わせて手刀で切り裂く。


「おぉ、イリアってあんな応用するんだ」

「ローズの風魔法や私が特殊なだけで普通はあんな感じなんじゃない?」


「切り裂いてくる……ならっ!……炎よ!」

「っ!?」

「イリア様、油断してましたね?」


切り裂かれた三つの火球から、九つの小さい火球が出てきて……というより分裂してイリアに突撃した。

そして少しだけイリアの顔に傷がついていた。


「分裂……これで迂闊に切り裂くことは出来ない、という訳ですわね?」

「さぁどうでしょう。必ずしも火球が分裂する、とは限りませんよ?」

「……やっぱり凄いですわね、マイ。貴方には最初から全力で行かないと勝てる気が全くもってしませんわ」

「それは私もですよ、イリア様。貴方だってとても凄いです。ですから私も初めから全力でいかないとすぐにあなたに負けてしまう」


……久しぶりに思った。この二人、超尊い。最高のライバルってよくない?お互いを認めあっているからこそお互いに全力でぶつかり合う。なんて素晴らしいことなんだろう。


「イリアもマイも前と比べてほんっとに強くなってるね」

「うん、そうだね」

「ふふ、私が二人と当たらなくてよかったよ。絶対どちらかでも苦戦してた」

「リリーが苦戦するところとか想像できないんだけど?」

「私だってする時はするよ。特にローズとやる時は」


「……炎よ、咲け!」

「この花は……なるほど。雷よ、薙ぎ払え!」

「よし……ってうわっ!?」


黒い炎で作られた無数の花が絶え間なくイリアの周りに生える。そしてそれをイリアは雷で全て薙ぎ払う。すると、その花は全て爆発してその煙でイリアの視界が塞がれる。がイリアもマイの前に雷を落としてマイの視界を塞ぐ。


「なるほど……こっちの視界も塞いできますか」

「ええもちろん。そう簡単に隙を見せたりはしませんわ。……さっきの爆発を少し貰ってしまいましたか」

「ち……少し腕が痺れて」


爆発の影響でイリアの頬から少し血が流れ、雷の影響でマイの両腕が少し痺れている。……流石にこれだけどんパチやってれば怪我の一つや二つはするよね


「……炎よ、剣となれ!」

「流石マイですわね。少し腕が痺れた程度では特に魔法に影響が無い……雷よ、噛み砕け!」

「流石に剣なら少しは通ると思ってたんですけど……だいぶ甘かったみたいですね」

「その剣だって何度も見てきましたもの。さすがに防げますわ」


マイは炎を剣にして飛ばす。イリアはそれを雷を牙にして無理やり噛み砕いた。……少し私もイリアを甘く見てたかもしれない。まさかイリアもこんな応用ができたなんて……というかやっぱり毎度の事ながらめっちゃ強くない?あれ、ローズ様って本来はぶっちぎりの最強って設定だったよね?


「じゃあ……炎よ!断ち切れ!」

「……今度は斧ですか。雷よ、包み込め!」


今度は炎を巨大な斧にして、それをイリアに振りかざす。一方イリアは雷の巨大なヴェールでその炎の斧を覆って、やがて包み隠した。


「……ふふ。多分このままやってても埒が明きませんよね」

「そうですわね……本当はもう少し楽しんでいたかったのですが……終わらせましょう」

「……黒き炎よ、我が力の全てを解放せよ!」

「雷よ……我が命に応じて降り注ぎ、全てを打ち壊せ!」


……おぉ懐かしい。結局終わりは五ヶ月前と全く同じになるんだな。イリアの足元に、彼女を中心とした円状のくぼみができる。そしてそこから黒い炎が立ち上がり、イリアの全身を包み込む。一方マイの方はというと、荒れ狂う様に雷が彼女の周りに降り注いでおり何回かマイにも被弾している。本当にお互いの全てを出し尽くした最後の力のぶつけ合い。あの時は私が止めに入ったけどこうしてぶつかるとどっちが勝つのか。


「……炎よ、焼き尽くせ」

「たかが数回と言えど雷を直に浴びて、柱魔法を使っても尚まだ魔法を使えるなんて……やっぱりさすがはマイですわね。私の負けですわ」

「……はぁ、はぁ……イリア様も、本当に強かったですよ……」


炎の柱と雷が消え、私達の視界が開けてくる。すると、私の時と同じように炎の鎖で縛られてるイリアがいた。……イリアもそうだけどやっぱり強すぎるって。マイに至っては私の鎖を速攻で真似できちゃってるし。……それで、イリアが降参発言をしたのでこの勝負は……マイの勝ちだ。


『イリア選手から降参発言が確認できました!よって、この勝負はマイ・サヴェリス選手の勝利です!今回は両者お怪我が酷いので休憩時間を十分ほど増やしますので選手のお二人は保健室に来てください』

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