第41話 武術大会一回戦目 悪役令嬢VS第二王子
「もう始まるね、ローズ」
「うん、そうだね。リリー、必ずこの前の借りは返すから」
リリーに負けてからまた数週間程が経ち今は九月。
この日は私が待ちに待っていた武術大会……前世で言うところの体育祭のようなものなので私達は闘技場に来ていた。
「そういえばローズ、リーグ表は確認した?」
「うん。私はAブロックで一回戦目から」
「おぉ、そうなんだ。それで、相手は?」
「……ラーベル様」
「ラーベルかぁ。でもローズからしたらなんて事ないんじゃない?」
この武術大会は任意でよくあるトーナメント制を採用しており、数日にかけてそれぞれがA~Dブロックに別れて戦い、その翌日に各ブロックの優勝者同士で準決勝、更にその翌日に最後に生き残ったふたりで決勝のシステムになっている。私、ラーベル、マイ、イリアがA、ジークがB、リリーがC、リアンがDになっている。今日はAブロックなので
「あまりリリーに手の内を明かしたくないからすぐ倒せる相手が良かったんだけどなぁ」
「まぁまぁ。あ、もうすぐ始まるみたいだね。行ってらっしゃい、ローズ」
「行ってくるね、リリー」
私とリリーが話してる間にも色々と進行し、早速Aブロック一回戦目が始まろうとしていた。
私は席を立ち上がり、下の方へと降りていく。
『それでは始めていきましょうAブロック一回戦目!まずはこの方、我らがムース王国第二王子、ラーベル・ムース選手!』
「はぁ……もう少し上を目指したかったのですが、最初からローズと当たってしまっては到底叶いそうにないですね」
『相対するはこの方!この魔法学校の中でも類稀なる実力と、誰に対しても笑顔を絶やさない優しき心を持った聖女!ローズ・コフィール選手!』
その紹介?的なのが終わるタイミングで私は闘技場の舞台の方へと進んでいく。……え待って私って裏で聖女って言われてたの!?いやまぁたしかにクラスの子の相談とかはたまーに聞いていたし転びそうになったりしてたら助けてたけど……一応私悪役令嬢だよ?
「何気にラーベル様と戦うのは初めてじゃない?よろしくね」
「はっきり言ってもう勝ちは諦めました。……が、例え勝てなくとも己の限界を知るために全力で行かせてもらいます」
『どちらかが降参した場合、もしくは戦闘不能とみなした場合勝負ありと判断します。それでは……始めてください!』
あまりリリーに無詠唱の事は知られたくない!からここは略称の数で攻める!
「水と炎よ!」
「開幕から飛ばしてきますね、全く……風よ、吹き飛ばしたまえ!」
水、炎、水、炎の順で交互に魔力で固めた球をぶつけていく。が、ラーベルの風魔法によって全て跳ね返されてしまう。流石にこれをもろでくらうのはまずいな……
「風よ!切り裂け!」
「忘れていましたが、ローズは素で三属性使えるんでしたね……にしても、流石ですね。風魔法をそんなふうに応用するとは」
「ラーベル様こそ、私の魔法を全部跳ね返すなんてね」
「そんな事を言って、まだ二、三割程度しか力を出していないのでしょう?」
「ま、長年一緒にいたら流石にわかるよね」
私は無詠唱でまた水の剣を飛ばす。そしてリリーにもバレないようにあえて極限まで加減する。こうすることによって以前と何ら変わらないように見せる。
「やはり剣や槍できましたか。でも無詠唱とは……ローズ、何か狙っていますね?」
「狙ってるわけじゃないよ?単にリリーが見てるからあまり手の内を明かしたくないだけ!」
事実まだ使ってない手は山ほどある。例えば融合魔法だとか、無詠唱だとか。……ラーベルなら普通に引っ掛からないと思うけど一回試してみようかな。
「追って、炎鎖!」
「鎖……それも追尾式ですか。これはまた厄介な魔法を……」
「うーん、やっぱり素直に引っかかってはくれないか」
炎の鎖は竜のようにラーベルを追いかけていく。ラーベルは、風魔法で宙に浮き、また風魔法で素早く移動をしている。多分炎鎖を振り切るのが狙いかな?
「ずっと移動してるだけじゃ私の炎鎖は振り切れないよ?」
「もちろん、それが狙いではありませんからね」
「おお、風で爆弾を……それが狙いだったんだ」
ラーベルはあえて風魔法であちこちを移動していた。が、それさえも彼の戦法の一つだったなんて。風魔法を行使した……三秒後に触れるか時間が経つと爆発する風の爆弾を生成するように魔法を応用していた。炎の鎖はその爆弾を全てもろに受けてちぎれた。
「この大会に出る以上あなたと当たることは避けられない、のでそれを想定して私なりに色々研究やら訓練やらを積み重ねてきたんですよ」
「あー……これはちょっとまずいかもしれないな。薙ぎ払え!」
私の四方にいくつか風の爆弾が置かれていた。のでそれをまた炎を剣にして薙ぎ払うんだけど……いや、思ったよりうるさいな。風ってこう、もっとしゅんっ!って感じなんじゃないの?普通の爆弾と変わらないどかーん!って音してたけど
「このままじゃ埒があきませんね。しょうがない、一気にいかせてもらいますよ!……風よ、我が力の全てを解き放て!」
「おお、柱魔法……なら少しだけあれを試せそうかな」
「風の柱ウィンド・ピラー」
私を中心として足元が円状に窪む。そして次の瞬間に大量の魔力でできた風が溢れ出して私を包み込む。
「柱だったら……私のすることは全て見えないでしょっ!」
「やはり流石ですね、ローズ。いとも容易く柱を破って魔法を行使するとは」
私は風の柱の中で極限まで魔力を弱めた炎の鎖を出してそれを一直線にラーベル目掛けて飛ばす。もちろん柱を破るくらいには強めてあるけどね。極限まで魔力を弱めたので、鎖はいとも容易く弾かれた。が……
「……つーかまーえた♪」
「なっ!?」
水の鎖がラーベルを捕える。そしてラーベルは鎖に拘束されて身動きが取れなくなった。風の柱がすうっと消え、私は拘束されたラーベルの前まで行く。
「……ふふ、なるほど。あの鎖は完全にフェイクで私は易々と引っかかってしまった、という事ですか」
「うん、ざっくり言うとそういうこと。柱魔法を使うならちゃんと全てを注視しなきゃダメだよ?」
なぜ極限まで弱めたのか、それはフェイクとして利用するため。極限まで弱めたものの鎖は鎖、当たったら拘束されてしまうので自然と注意はその鎖に行く。そうして鎖に注意を向けた隙に空に向かって水の鎖を放つ。水の鎖は自由に操れるので、柱の一番上からラーベルの背後をとって捕まえた。
「まさか、本当に手を抜いているローズでもこんな力の差があるなんて……。ふふ、私の完敗です」
『ラーベル選手の降参発言が出ましたので、Aブロック一回戦目はローズ・コフィール選手の勝利です!!』
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