第38話 主人公は悪役令嬢を探す

「うわっ……人多くてあまり動けない!」


私はローズとマイの後ろをゆっくりついて行ってた。

……ついて行ってたはずなんだけど……人混みに飲まれてはぐれてしまった。リアンもラーベルもいない。


「いや……これはだいぶまずいかもしれない!早めに探さないと!」


いくらマイが側にいるとはいえ、またショッピングモールの時のようなことがあれば非常にまずい!これ以上、ローズに……いや、先輩に辛い思いはさせたくない!急いで探さないと!とりあえず試せることはとことん試さないと!


「強化……聴力!」


耳に強化魔法を使い、聴力をあげる……が、ダメだ。人が多すぎて話し声や下駄の音にかき消されてしまってる。こうなったら飛ぶしかない……けど!


「くっ、飛ぼうにも人が多すぎて!」


人が多すぎてろくに動けない!とりあえず人が少ないところまで行こう!


「……よし!ある程度少ないところに出てこれた!ここなら大丈夫そうだ!」


跳躍力を強化して、近くにあった木の上に乗る。多分ここからなら探しやすいはず。そして念の為に視力も強化しておく。


「……え嘘、いない!?もしかしてもう遅かった!?」


やっぱり人が多すぎて、ちょっと目が痛くなるけど木の上からある程度祭りの会場を見渡す。がいない……。どれだけ探しても先輩とマイがいない。

……もし遅かったのならだいぶまずいはず!


「ん?あれは……リアン達だ。ちょっと何か知らないか聞いてみようかな。あそこなら特に人もいないようだし……飛び降りても大丈夫そう。……えいっ」


幸いにも三人はあまり人のいない場所の石垣の様なものに腰をかけていたから少し遠くに着地すれば大丈夫そう。


「そいやぁ、リリーとローズはどこ行ったんだろうな……うおっ!?」

「そんな風にこられては危ないですし困ります、リリー」

「あ、リリー様。どうされたんですか?」

「誰かさ、ローズとマイ見てない?」

「いいや、知らねぇな。さっきその事で話してたらお前が来たわけだし」

「ローズ様達は射的をするというのは知ってて射的屋は通ったんですけど……二人はいませんでしたね」

「……おっけー、わかった。二人は私が探すから三人とも絶対そこから動かないで!」

「お、おうわかった。……珍しいな、お前がそんなに焦ってんの」


そしてまた木に飛び乗って、3人がいたところを後にする。……やっぱり三人とも見てない、か。念の為にもう一度、聴力強化を……。


「……これからどうしましょう、ローズ様」

「……!今のはマイの声だ!」


つまりまだ二人はどこかにいる!かつまだ何も起きていない!声が聞こえてきたのは……多分こっち!

人混みは苦手なんだけど……まぁ、仕方がないか。

よし、じゃあ行こう!


「……あ、リリー!探してましたわ!」


飛び降りようとしたら、イリアに声をかけられる。私が気づかなかっただけでイリアも私の近くにいたみたいだ。


「あ、イリア。ね、ローズとマイ知らない?」

「いえ、見てませんわね。……もしかして、二人とはぐれてしまったのですか?」

「うん、まぁね。でも大丈夫、二人は私がさがすから。イリアは反対側の方で待っててくれるかな?そこにリアン達もいるから」

「はい、わかりましたわ。特に心配はしてませんが、念の為にお気をつけて」

「ありがとう、イリア」


そうして、イリアがゆっくりとリアン達の方に行ったのを確認して私は木から降りて、マイたちの方へ歩き始める。


「ほい、っと。よし、大きな被害はなし!じゃあ急いでマイ達の方に……!」


と歩いていると、誰かに肩を掴まれる。まぁ、ナンパだろう。……うわぁ、今度は私か。私は特に問題ないんだけど……めんどくさいなぁ、本当に。こうしてる間にも先輩達が同じ目にあう可能性があるのに……


「君可愛いね!見たところ一人みたいだし、俺と一緒に祭り回らない?なんでも奢るからさ」

「すいません、私今人探しで急いでいるので」

「そうつれないこと言わないでさぁ~、いいでしょ?」

「私、今、急いでいるので」

「別にいいでしょ、多分その子も無事なんだから」


……これまたほんっとにめんどくさいタイプのナンパ師だな。本来のリリーであれば自らの名前を武器として使うような真似はしないだろう。何せものすごい優しいのだから。……だが。私、鈴乃紗蘭はそう優しくはない。だからリリーには少し申し訳ないけど……


「無事?勝手に決めつけないでくださらない?……これで最後ですわ。私、リリー・クレスアドルは人探しで急いでいるの。……その手を離してもらっても?」


と、自ら名乗った上で要件を伝える。いくらしぶとくてめんどくさい輩でも、クロッセオの民なら私の名前は知っているはず。それも平民だったら尚更。


「り、リリー様!?す、すいませんでした!どうか、どうかお許しをー!!!」


ほら、この通り。大抵私の名前を聞いたら逃げていくんだよね。ま、手を出さないタイプの輩で良かったよ。こちらも反撃せざるを得なくなるからね。……思わぬタイムロスがあったけれど、急いでまた先輩達を探そう。


「ねぇマイ……どこにも行かないでね?」

「はい、大丈夫ですよ。私はずうっとローズ様のおそばに居ますから」


……よし、確実に声が近づいてきてる。にしても……やっぱり先輩って可愛いな。ほんとにずるいくらい。

でも先輩に恋してるって知られたらちょっと変な風に思われちゃうよなぁ……


「……あ、いた!ローズ!マイ!」

「あ!リリー様!来てくれたのですね!」

「遅くなってごめん。ちょっと人が多すぎて」

「ううん、大丈夫……リリー、他のみんなは?」

「反対側で待機してもらってるよ」

「そっか……リリー、ありがとう!」


そう言って先輩は私に笑う。……ほんとにずるいな、先輩は。知られてないよね?私が今ドキドキしてること。


「あと、またはぐれたら行けないから今度はちゃんと手繋いでこっか」

「うん!」


それから私は先輩と、先輩はマイと手を繋いで再びはぐれることも無くリアン達の所へ着いた。


「お、来たか。お前ら、大丈夫だったか?」

「うん!心配させちゃってごめんね、リアン」

「三人とも無事の様でなによりです!」

「ええ。特に怪我とかもなくて良かったですわ」

「ジークもイリアもありがとう!」


……はぁ、焦った。とりあえず本当に二人が無事でよかった。


「お祭りはまだもうちょっとあるみたいですが……どうしますか?」

「俺はどっちでもいいぜ。もう十分に満足したしな」

「私もですね。兄様達と色んなものを食べてお腹もいっぱいですし」

「またあんなことがあっても嫌ですし……」

「……そうだね。今日はここで解散にしよっか」

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