第23話 悪役令嬢達のダンジョン試験 その二

度々出てくるモンスター達を倒していきながら歩いていると、私達は広い空間に出た。

恐らく、第一層のボスエリアだろう。この魔巣のダンジョンには第五層まであり、各層の最奥にボスがいる。覚えている限りだと、第一層は巨大なゴブリン、第二層は巨大なスライム、第三層は巨大な骸、第四層は巨大化した三体、第五層に魔族を生み出している名前がわからない魔竜となっている。まず最初は巨大化ゴブリン。


「随分広いところにでましたね……ってあ!見てくださいローズ様!巨大なゴブリンです!」

「任せて!ここは私がやる!」


と、私は走ってゴブリンのほうに向かっていく。巨大化したところでゴブリンはゴブリンなのだから攻撃パターンは変わらずただ棍棒を振り回すだけ。魔法もちゃんと通じるみたいだし……折角だから私も雷魔法を使おうかな。確かゴブリンの弱点は背中だから……背中目掛けて放つ!


「雷よ!……はぁっ!」


略唱で雷の剣を五つ作り、それをゴブリン目掛けて突撃させる。ジジジ、と音を発する雷の剣はゴブリンに突き刺さり、その体の中で雷を暴れさせて中から壊していく。


「うん、大体こんなものかな」

「やっぱりさすがですローズ様!あんなにいとも容易く倒してしまうなんて!」

「超適正なのもあって言葉にするのが難しいくらいですわ」

「二人共ありがとう。さ、次に行こっか!」

「うん!にしても……ちょっと早すぎたかもね」


ゴブリンが守っていた奥のほうに下へと続く階段があったので、またみんなで話しながら降りていく。


「まぁまぁ、でもリリーのおかげでこんなにもスムーズにいけてるんだし。そもそもにこの試験自体ダンジョンを見つけれずにそのまま一日を終えるか、ダンジョンを見つけてぬるっと突破するかの二択だと思うし。まぁほかの人たちには申し訳ないけどね」

「こう言うのも失礼ですけど、果たして他の人たちに攻略できるんでしょうか?ラーベル様やリアン様ならともかく」

「そう言われるとちょっと難しいと思いますわ。私の完全詠唱で驚いていた人も何人もいましたもの」


そう。これはすべて運営が仕組んだ罠なのだ。このダンジョンは、リリーが先に挑むことだけを想定して作られたダンジョン。つまりは、リリーが基準になっているのでリリーよりほんの少し下、もしくは同等かそれ以上の実力がないと攻略できないようになっている。というか本来通りであればリリーがボスを倒したのちローズ様が乱入し、リリーと決闘。そしてローズ様の圧勝に終わり剣は奪われるというシナリオなので私とリリーがいる以上この班は合格を約束されている。つまるところ出来レースといっても過言ではない。


「巨大化したとしても攻撃パターン自体は変わらないからいける人は何人かいるんじゃない?スライムもゴブリンもそんな強くないし」

「あ、着いたね。ここが第二層かな?」

「みたいですわね……ってローズ!あれ、なんですの?」

「以前本で見たことがあるんだけどあれは骸だね。見た目のまんま骸骨の騎士だよ。ゴブリンやスライムよりも強いから気を付けて!」

「よし、じゃあ今度は私が!……はぁぁぁぁ!」


リリーが前に出る。次の瞬間、二体の骸は粉々になっていた。


「……え?リリー様、一体何を……」

「んっとねー、説明すると難しいから内緒!」

「……やっばい。すごい早い……」


私には見えていた。リリーが何をしたのか。それと同時に思い出した。リリーのもう一つのチート能力を。さっきリリーは、身体強化の魔法をかけて骸を殴った。ただ、それだけだ。そう、リリーの主人公補正というのは凄まじく、もう一個運営からチートを貰っている。それは、身体強化の効果が三倍になる、というものだ。リリーは以前攻撃魔法は苦手、と言っていた。そしてそれは紛れもない事実だ。なぜなら、その分チート能力に割かれているから。リリーはどちらかといえば超近接タイプなので、その分私みたいな強い魔法を連発する相手にはちょっと弱い。……まぁ超速からの趙火力パンチで全て何とかなるんだろうけど……リリーは剣を持ってからが本気だ。はっきり言って怖い。っていうかこんな強くてこんな美しいってさ、推しにならない訳なくない?


「あれ?ここはもうボスなんだ。思いのほか短いね」

「本当ですね……ってうわぁ!今度は巨大なスライムです!」

「なら、私がやりますわ!さっきのローズみたいに……雷よ、降り注げ!」


と、イリアが雷の剣を出した時だった。どこからともなくスライムが出てきた。


「あ、スライムが!援護します、イリア様!……水よ、薙ぎ払え!」

「ありがとうございます、マイ。助かりましたわ。……はあっ!」


マイがすぐさま水魔法で辺りのスライムを蹴散らす。……やっぱりさすがはマイだ。完全に独自の詠唱を使いこなせている。そして、がら空きになったスライム目掛けてイリアの雷の剣が突撃し、突き刺さる。そして同じように体内で暴走する雷に耐え切れずスライムは壊れていった。

イリアもすごいな。まさか私の魔法を速攻で真似できるなんて。ゲームのほうであまりフォーカスが当たってなかっただけで二人共物凄い強いじゃんか。


「凄い良い連携だったよ!イリア、マイ」

「ありがとうございます、リリー様」

「じゃあそうだね……次は私達も連携しよっか、ローズ!」

「うん、いいよ!」

「二人が連携したら敵がすぐに死んでしまうんじゃ……」

「まぁ攻略する、という点で言えばこの上なくありがたいですけどね……」


と、また同じように階段を進んでいく。このダンジョン、不思議なことに下に行けば行くほどどんどん綺麗になっていくんだよね……。まぁ、ローズ様とリリーの決闘なんだから華やかな舞台じゃないといけないのはわかるんだけど。でも最下層はドラゴンだよ?


「……なんか、どんどん階段が短くなってきてません?」

「あれ、ほんとだ。もう着いた。」

「!見てくださいローズ!骸の大群ですわ!」

「うわっほんとだ!めんどくさいな、もう!」


私は目の前にいる三十体くらいの骸の大群に炎魔法を放つ。が、まったく効いてる様子じゃなかった。

……あ、そうだ。忘れてた。なんで前世の私は骸を嫌っていたのか。骸は、基本的に大群で襲いかかってくるので個々はそんなに強くないんだけど……骸が持ってるほんとにめんどくさい能力。それは、魔法攻撃が一切効かない事だ。ほんとに多い量で襲ってくるくせに、一切魔法が通じないから私は骸が大っ嫌いなんだ。


「な、効いてない!?」

「骸は、魔法を完全に無効化する能力を持ってるの!だから直接攻撃じゃないと厳しいよ!」

「これはまた……めんどくさい敵ですわ、ねっ!」

「よし、これで全てかな」


なんとか私たちは三十体の骸を倒すことができた。けど……なんでリリーが骸の事を知ってるんだろう。本来だとリリー班の魔族に詳しい子から教えてもらって倒してたはずなのに……


「やっぱりボスまでの道も短くなってきてますわね」

「でも、今までの流れから考えると……」

「……やっぱり、巨大な骸だよね……」

「私が巨大な骸を叩くから、ローズは周りをお願い!」

「わかった!」


見る限り四十体ほどか。たぶん行けないことはないけど……めんどくさいな、もう!

身体強化の魔法を使い、速力と力を重点的に強化して私は次から次へと骸を倒して回っていく。


「一発で決めるよ!……はぁぁ!」

「よし、これで終わり!」

「……やっぱり、思った通りでしたね」

「……ええ。何も見えないまま、すぐに終わりましたわ」

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