第14話 悪役令嬢は軽く実力を見せる
やがて炎の柱は完全に消えていき、そこには跡形もなく消え去った的と、その傍に倒れているマイがいた。
「先生、マイさんのことは私に任せてください。」
「そうですか。それじゃあ……ローズさんに任せますね。」
と先生に話して、私は飛行魔法を使い、マイのそばまで降り立ち、木陰の方へと運ぶ。
「はぁ……まったく、マイったら。まぁ私も私だけど……柱魔法を使うなんてはりきりすぎだよ。」
「えへへ……すいません、ローズ様に応援されたのが嬉しくてつい……」
「どう?歩けそう?」
「元々私はあまり体力がないので……ちょっと厳しいかもです」
「そっか。…………はぁ。あまりこれはしたくなかったんだけど……マイ、今回だけだよ。」
「……え?あ、んむっ!?」
……正直自分で気持ち悪いと思ってるからあまりやりたくなかったけど……私に任せてと言った以上すぐ保健室に連れて行くのはプライドが許さない。なのでこれが最初で最後の試みだ。それは……魔力の口移し。マイは魔力を使いすぎたのでそれが大きな疲労となり、倒れて動けなくなっている。だからまぁ魔力を分け与えればマイはすぐに治る。が、問題はどうやって分け与えるか。正直言うとほぼ全て忘れており何故か頭に深く刻み込まれていたのがこの魔力の口移し。キスすることで相手の体内に自分の魔力を少々流し込むことが出来る。自分で言うのもあれなのだが、私……というかローズ様はそもそもに魔力量が多すぎる。のでこの少々でもマイにとっては大きな回復となる。ただ欠点をあげるとすれば……魔力を流し込むのだから少々長めのキスになってしまうため、羞恥心がえげつない。
現に今、私の顔はとてつもなく赤くなっている。する前はなんともないと思ってたが……いざしてみるとだめだ。凄い恥ずかしい。
「ぷはっ!……ろ……ローズ様……?」
「ま、マイ……もう、大丈夫……?」
「も、もう大丈夫です……ありがとうございました……」
「ならよかったよ……それより、ごめんね……これ以外に思いつかなくて……嫌……だったよね……ほ、本当に……今回だけ……だからね……?あまり無茶、しないでね……」
「い、いえ……全然嫌じゃない……です……それと……次から気をつけます……?」
……あぁやばいやばい!凄い恥ずかしい!実行した私もあれだけどそれ以前になんでこれしか思いつかなかったんだ私~!!!ほら、マイも凄い顔赤くなっちゃってるじゃん!もう私のバカ!
「そ、そういえばそろそろローズ様の番じゃないですか……?」
「た、確かにそうだね……ちょっと行ってくるね!」
「ろ、ローズ様……ローズ様には不要かと思いますが……が、頑張ってください!」
「……ありがとう、マイ。全然嬉しいよ。」
と、私はマイに笑う。……大丈夫かな、私今ちゃんと笑えてるかな……。
「次、四十番のローズさぁん。」
「は、はい……」
私は木陰から戻り、私に続いてマイも戻る。
「……マイ、大丈夫ですの?顔が赤いような気がしますけれど……」
「ぜ、全然大丈夫ですよイリア様!それよりも、ローズ様はどのような魔法を使うのでしょうか?」
「ローズの魔法は全てすごいとしか言えませんから……何が来ても不思議ではありませんね。」
「……ローズ様って、とても凄い方なんですのね。」
「はい!ローズは、火・水・風の三つの属性魔法に、全ての基礎魔法が使えるんですのよ!」
「それは……本当にすごい、としか言えませんね……」
「……落ち着け私。さっきのことは一旦忘れよう。十分に加減して……十分に加減して……」
……ダメだ!どうしてもさっきのことが頭から離れない!あれ!?加減ってどうやってするんだっけ!?と、とりあえずもう適当でいいから撃とう!
「水よ……!」
私が今かなり落ち着けない状態だからなのか、唱えて出した水は瞬く間に的を打ち壊した。全ての詠唱において肝心となってくるのが使用者の意識の問題だ。落ち着いていればその分正確性等々も増して、威力も良くなる。今の私はお世辞にも冷静とは言えない為、魔法も自ずと先走ってしまった。多分ほかの人からしたら見えない速度だったので、勝手に的が壊れた事になってるだろう。威力も凄まじいものになっていた為、誰かに当たっていたら怪我じゃすまなかったかもしれない。
「え……!?」
「な、何が起きたんだ今!」
「ローズ様が立った瞬間に的が壊れたぞ!?」
と、他のモブ達が騒ぎ立てる。……いやまぁ、そりゃそうなるよね。イリア達は普通だけどマイは……うん、もう忘れよう。平常心平常心!!
「流石ローズ様ですね!魔法を行使する瞬間が見えませんでした!」
「ローズ・コフィール……あいつ面白ぇな!略唱で的をぶっ壊しやがった!」
「流石ですね、ローズは……魔力の底が見えませんわ……」
「ローズ様は全てがすごいのですが、水魔法は特に凄いんです!色々水魔法を応用して行使するんです!私を助けてくれた時は、水を槍にして助けてくれました!」
「以前魔物と遭遇した際は弓にして戦っていましたよね。」
「そういえばさっきのローズ様はどこか落ち着いてないように見えたのですけれど……マイ様、何かご存知で?」
「い、いえ……私は何も知りませんよ……?」
やはりさっきの事はどうしても忘れられなくて、まだ少し恥ずかしい気持ちもあるけれど……でも、そんな気持ちを消してしまうくらいに目の前の光景が微笑ましい。本作に登場するキャラクターにはそれぞれルートによってハッピーエンドとバッドエンドがあり、全てのキャラクターも絶対にバッドエンドのひとつに自ら命を絶つものがある。そして私はそれら全てを知っている。イリアとマイ、どちらも悲惨なルートで、思わず枕を沢山濡らしてしまったほどだ。だからこそ、こうやって彼女達が笑えているのが嬉しい。きっと私は死ぬまで同じことを言うだろう。「あの時頑張ってよかった」、と。
「あはは……ちょっと失敗しちゃった」
「やっぱりローズからしたらあれで失敗なんですのね……」
「ローズ、お前すごいな!まさか略唱であそこまでの威力を出すとは!」
「お褒めに預かり光栄です、リアン様。」
「リアンでいいぜ。せっかく同じクラスになったんだからよ、お前の好きなように話してくれよ。」
「そっか。ありがとう!改めてよろしくね、リアン!」
「おう!よろしくな!ところでローズ、この後空いてっか?」
「え?うん、空いてるけど」
「だったら放課後、俺と戦え!お前と戦ってみたくなった!」
「まぁそれは全然いいんだけど……大丈夫?私かなり強いよ?」
「だからだよ、だからお前と戦いてえんだ。」
「ちょっとリアン様、ローズ様もお疲れになられてるんですよ?」
「全然いいよ、マイ。私もちょっと戦ってみたいし。」
「でしたら……まぁ。」
「うっし決まりだな!」
「兄様、いつもですけど特にローズは生半可な気持ちで挑むとろくな目に会いませんよ。」
「安心しろラーベル、俺も本気で行くからよ!」
「だったら、私も本気でいったほうがいいかな?」
「ローズが……本気……?」
「や、やめてくださいローズ様!辺りが吹き飛んでしまいます!」
「冗談だよ、冗談。だからイリア、マイ、そんなに慌てないでよ。」
「……ローズなら本当に出来うるから怖いんですわ……」
「まぁいいや。それじゃあリアン、放課後に校舎裏でね。」
「おう!」
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