第11話 悪役令嬢はデートをする その二

どうしよう!もう既にあそこに見えてるお化け屋敷特有の禍々しい雰囲気が少し怖い!怖いのダメすぎるから家族で行く時もお化け屋敷は断ってたけど……流石に今日はアベルに楽しんでもらう計画だから私が行かない訳には……!


「ふふっ!お化け屋敷、楽しみですね、ローズ様!」

「え、えぇ……そうね、楽しみね。」

「あの……お化け屋敷とは一体……?」

「おば……けやしき……は」

「アベルさん、お化けってわかりますよね?」

「はい、存じております。」

「これは、そんなお化けがいっぱい驚かせて来るのでそれを楽しむアトラクションです。」


少し私が不安に思っているのを感じてか、マイがアベルに説明する。……えちょっとまってもしかしてだけどマイに気づかれた!?


「マイ?も、もしかしてだけど……気づいてたりする……?」

「はい?何のことでしょうか?わかりませんね~♪」


と、マイは私に向けてにこにこと笑みを見せる。それはいつもより楽しそうな小悪魔のような笑みだ。まさに例えるならば、頭の上に音符マークが跳ねて浮かんでいるような感じだ。

……可愛い。小悪魔なマイもすごい可愛い。ただ……ただどこか弄ばれているような感じがしてどこか

気恥ずかしい。


「く……小悪魔なマイも可愛いけど……けど……!」

「どうしたんですか?ローズ様。早く行きましょうよ!」

「わっ!ちょっと待ってマイ!手を引っ張らないで!まだ心の準備が!」

「待ってくださいお嬢様方!勝手に行かれては危ないです!」


と、私はマイに手を引かれてそのままお化け屋敷に入り、私たちの後を追ってアベルも入るのだった。

なかなかに怖い……。ちょっと怖いけど……マイなら、いいわよね……?


「……どうしました?ローズ様」

「もう言わなくてもわかっているのでしょう?……だから、その……手を離さないでちょうだいね……?」

「はい、もちろんですよ。逆に、ローズ様の方から離れないでくださいね?」


やはりどうしようもなく怖いため、マイの手をぎゅっと握りしめる。……ちょっと、暖かい。


「……きゃあっ!」

「お嬢様……?」

「アベルさん、きっとローズ様は怖いものがとーっても苦手なんだと思います。だからいつものローズ様とは違うローズ様が見れるかもですね♪」

「……そうですか。」


ついにマイに言われた。というかいつもの違う私ならもうさっきジェットコースターで見せたはずじゃ……ってそういうのはどうでもいいのよ。今、今……アベルがうっすら笑った気が……!


「……やっぱりマイ、最初からわかっていたのね……?」

「はい、お化け屋敷を見た時からちょっと震えてる様子でしたので!」

「そんなに震えてなんか……って、きゃぁぁ!!」

「……ほら、いつものローズ様とは全然違いますよね」

「は、はい。お嬢様、この前屋敷で幽霊が出たって言ってた時は平気だったのに……」

「それはきっと強がりですよ。本当に怖い人はこんな感じでとても可愛いですから」

「……ですね。今のお嬢様にはどこか可愛さを感じます」

「そんな言うほど可愛くないわよ……それと二人とも。ちょっとうるさくなると思うけど……ごめんなさいね。」

「私は全然大丈夫です!こんな可愛いローズ様、きっと滅多に見られるものじゃないですし!」

「私も大丈夫ですよ。まだ私の知らないお嬢様が知れるのですから。」

「……そう。ありがとう」

「さぁさぁ!それでは進みましょうローズ様!」

「あちょっとマイ!だから走らないで……ってきゃっ!」


お化け屋敷は本当になんというか……私からしたら本当に酷かった。特に私が。ずっと私は「わー!」だの「きゃー!」だの叫んでるばっかりだった。そしてそれを笑っているマイと、少しどこか楽しそうになってきている(私の主観)アベル。

二人は怖い物平気なんだ……少し羨ましいわ。

そんなこんなでいっぱい叫びながらもお化け屋敷を何とか抜け出した。


「はぁ……ちょっと疲れたわ」

「楽しかったですね、ローズ様!」

「お嬢様って、あんなふうに驚くのですね」

「あれは……お化けだからであって普通はあんな驚き方はしないわ!」

「それと私の手を必死に握っているローズ様、とても可愛かったです♪まるで妹みたいでした!」

「……ふふっ。」


ゲームでは、あんなに楽しそうなマイは絶対見られなかった。

確かに攻略対象にはあの街で男から助けられるし、その後も何かと彼らと関わっていくのだが……腕の事は一切知られていない。私が持ってたファンブックにも「実は彼女には大きな秘密が……?」としか書かれていない。つまりその腕の傷は気づかれずに消えていってたという事だろう。今はこうして私がマイの事を受け止めるって話をしたからこうやってすごい笑えているが……私と会ってなかったらその笑みもきっとどこか悲しみに包まれており、また腕の傷もどんどん増えていく一方だったはずだ。……そうなると、本当に色々頑張った甲斐があるな。


「……どうなされました?お嬢様」

「なんでもないわ。それより次よ、次。」


それから私達は他にも色々楽しみ、気づけば、時計の針は午後18時を指していた。


「次は……ってもうこんな時間なのね。」

「それじゃあ最後に観覧車に乗りましょう!きっとここを一望できたら綺麗だと思いますよ!」

「お嬢様、観覧車とは……?」

「観覧車は……そうね。口で言うよりも見てもらった方がいいかもしれないわ。……あれよ!」

「あれ、ですか。」

「ええ!」


最後に、私達は観覧車に乗って帰ることにした。


「……とても綺麗ですね。」

「でしょう?それがこの観覧車の素晴らしいところなのよ。」

「最後に観覧車に乗ると、そのとても綺麗な眺めから一日の事を振り返りやすくなるんですよ。」

「ねえアベル、今日は楽しかった?」

「……はい。とても、楽しかったです。たまにはこういった息抜きも良いのかも知れませんね。」


と、アベルは笑う。……ようやく笑ってくれた。初めてちゃんと見たかもしれないアベルの笑顔。とっても可愛くて、美しい。


「……やっと。やっと笑ってくれたわね、アベル。」

「……え?」

「アベルって、いつもどこか不安そうな顔してるじゃない?だからなにか思い悩んでるのかなって思って。だから今日はアベルに笑って貰いたくて、楽しんでもらいたくてデートに誘ったのよ。」

「そう……だったのですね、すいません。…………実は、メイドは私がなりたくてなったものじゃないのです。正直なところ私は前々から何も目指したいものがありませんでした。昔からずっと私は『生きてさえいればそれでいい』という考え方だったので、したい事や目指したいものや夢なんて何一つとしてありませんでした。それを危惧した父の決定で、私はコフィール邸のメイドになりました。」

「だったら凄いわね、アベル。何もわかんなくてあそこまでこなせるのも、そもそもに急な決定でもメイドをやろうと思えるのも。きっと、まだ不安に思うところがあるのかもしれないけれど……私は、いつもあなたに助けられてるわ。いつも、ありがとう。」

「……そう言って貰えて光栄です。そして私がお仕えするのが、お嬢様で良かった。これからも精一杯、お嬢様のメイドとして精進して参ります。」

「ええ。これからもよろしくね。」

「そういえばローズ様……それだったらよかったのですか?私もご一緒してしまって」

「もちろんよ。というか、マイがいなければアベルは笑ってなかったかもしれないわ。」

「ローズ様のお役に立てて何よりです。……あ、着きましたね。」


と、私達は観覧車を降りた。少しだけ風が強く、目の前に立っているマイの髪がふわっと揺れて、それで私は気づく。


「そういえば今更だけどマイ……フードは?」

「もう、気づくのが遅いですよ?ローズ様。……フードはもう、被りません。確かに街の人からは色々言われるかもしれませんが……私にはローズ様がいます。それに……私は呪われてなんていませんし、忌み子なんかでもありません。ですからもう私を隠すのはやめました。これからは、精一杯私を誇ります。『今、私は誰よりも幸せなんだ』って。」

「そうなのね。あなたって……本当に強いのね、マイ。」

「全部全部、ローズ様のおかげですよ。」


そんなやりとりをしてから、私達はすぐに別れて帰った。あの様子なら、マイの事は心配するだけ杞憂だろう。

……さてさて。入学準備はこれで全ておしまいだ。あと四年は少々気楽に推し成分補給だけを楽しめる。


「やれることはもう全てやったわ。次はいよいよ本番……」

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