第10話 悪役令嬢はデートをする
……あれから10分程、マイは私の胸で静かに泣いていた。
凄い辛かっただろうに、ちょっと可愛いと思った私をぶん殴りたい。にしても……なんか妹みたいだな。
「……ありがとうございました、もう大丈夫です。」
「そう、なら良かったわ。また辛い時はいつでも頼りにきてちょうだい。私の胸で良ければいつでも貸すわ。」
「流石に毎度ローズ様のお胸を借りているのはとても恥ずかしい限りですよ。けど……ローズ様のお胸、とても暖かかったです。だいぶ気分が楽になりました。」
「そう言って貰えて嬉しいわ。……本当に辛い時は泣くのもひとつの手段なのよ?」
「ローズ様は私の唯一の"友達"です。なので……ローズ様の前だけですよ?弱い私を見せるのは」
と、泣き腫らした目でマイは微笑む。
「それは嬉しいわね。けど……いつかは私以外に頼れる人を見つけないとダメよ?」
「頼れる人……もしそうなる時が来たら、ローズ様に頼っても良いですか?」
「ええ。その時が来たら、私も全力で手伝わせてもらうわ。」
「……!ありがとうございますっ!」
再びマイは私に満面の笑みを向ける。
……やっぱりとっても可愛いな。なんというか……眩しすぎる。本当に直視したら目が潰れちゃいそうなくらい。
「そろそろ私、帰りますね。ありがとうございました、ローズ様。」
「あー……ちょっと待って。またあんなことになったら危ないでしょ?だから……私も着いて行っていいかしら?」
「……いいんですか?」
「ええ、もちろんよ。もうこれ以上あなたに辛い思いはさせたくないもの。」
「ローズ様が良ければ是非!……本当にありがとうございます!!」
……と、パパっと私はマイを家まで送り届けて、またすぐ家に戻ってきていた。
「……さてさて?マイはこれでOKね。にしても……なんて言うか本当に友達っていうか妹みたい……」
まぁ、とやかく言ってもとりあえずこれで問題は一つ解決。
次の問題は……いやまぁ問題っていうほどのものじゃないんだけど……アベルか。
ここ最近ずっと、というか出会った時からアベルはいつもどこか不安そうにしている。もしかしたら彼女も彼女なりにずっと悩んでいるのかも?確かに、彼女は誰に対しても一度もその笑ったことは無い。……何か悩んでるんなら別に私に聞かせてくれたっていいのに。一応こんなでも主人なんだからさ?
まぁこのままずっとアベルを悩ませるのも私が気に食わないから、ちょっと明日、気分転換にアベルとデートをしよう。
それで私の入学準備は終わりだ。
……そして翌日。私は、アベルの部屋の前にいた。
「アベル~、いる~?」
「はい……どうなされましたか?お嬢様」
「私ね、もっとアベルと仲良くなりたいの」
「……はい?何ですか急に」
「って訳で一緒にデートしよ!」
「デート……ですか。……かしこまりました。支度をしてまいりますのでしばしお待ちを。」
なんとかアベルをデートに誘うことはできた。だからあとはアベルにめいっぱい楽しんでもらうだけだ。
「支度が出来ました。お嬢様、今参ります。」
「はいはい……ってアベル、凄い似合ってるじゃない!とっても可愛いわ!」
これが……アベルの私服……?とても可愛いすぎる……。
私服のアベルは髪型を三つ編みではなく、お団子にしている。
それにいつものメイド服とは違ったワンピースもとても似合いすぎている。……もうほんとに何着ても似合うんじゃないかなアベルって。
「ありがとうございます。お嬢様も、とても似合っておりますよ。」
「そう?ありがとう。それじゃあ、早速行きましょうか。」
今日行く場所は、前世で言う遊園地だ。昨日マイと出会った街から観覧車がチラチラ視界に入っていたので、もしやと思って調べてみたら案の定遊園地で、しかも特にそう大した金も要らないとのことなので、ここがうってつけだと思った。
「ところで、本日はどちらに……?」
「……この世界ではなんて言うんだろうな。んー……アベル、遊園地ってわかる?」
「遊園地、ですか。ええ、存じておりますとも。」
……普通に遊園地だった。この世界でも通用するのね、遊園地って。……いやまぁ、確かに以前どこかで製作者の一人に超がつくほどの遊園地マニアがいるって聞いてはいたけど……
「アベルは好き?遊園地」
「好きかどうかで聞かれると……お答えできませんね。私、遊園地には一度も行ったことがありませんので」
「そう。なら今日が初めての遊園地ね。きっと楽しい思い出になるわ」
「楽しい思い出……ですか。ええ、そうなるといいですね。」
「……さて、着いたわ。にしても……本当に大きい……!」
「これが……遊園地、ですか……。なかなかに大きいですね……」
「ええ、そうよ。さぁ、一緒に楽しみましょう。」
と、私がアベルに言うと、後ろから誰かに声をかけられる。
「……ローズ様?」
「あら?マイじゃない!マイも来てたのね!」
「はい。実は……私、遊園地が大好きでして……」
「お嬢様、この方は……?」
「紹介がまだだったわね。紹介するわ、アベル。彼女は私の友達のマイよ。」
「初めまして……マイ・サヴェリスと申します。」
……まさかマイが自分の名前をフルネームで他人に語るなんて……私が思ってるよりも強いのかもしれない、マイって。と、そんなマイに続けてアベルも自己紹介をする。
「初めまして、マイ様。私、お嬢様のメイドをしておりますアベル・スターリアです。どうぞ以後お見知り置きを。」
「……メイドさんなんですね。てっきり、お姉様かと思いました」
「まぁ、私の世話は基本アベルがやってくれるから……感覚としては姉の方が近いかもしれないわね。あ、そうだ!もし良かったら、マイも一緒に回らない?」
「え?私はそれで嬉しいんですけど……よろしいでしょうか、アベルさん」
「ええ、私は構いませんよ。何よりお嬢様の決定ですから。」
「アベル、ありがとう!それじゃあマイも一緒に楽しみましょ!」
「はい!」
まず、最初に私達はメリーゴーランドに乗ることにした。
とりあえず頑張ろう。今日の目的はあくまでアベルに笑ってもらうこと。私が楽しみ過ぎないようにしなければ……。
「お嬢様、これは一体……?」
「これはメリーゴーランドっていってね。音楽に合わせてこの馬がクルクル回り出すからそれを楽しむのよ」
「音楽に合わせて……?」
とアベルが疑問に思った時、メリーゴーランドが動き出した。
「メリーゴーランドなんて久しぶりに乗ったわ!」
「私も久しぶりですね。いつもは人が多すぎて乗れないので……」
「あの、お嬢様……これだけなのでしょうか」
「ええ、そうよ。でも、そのこれだけがとても楽しい人だっているのよ。」
「そう……なのですか。」
うーん……これはあまり気に入って貰えなかったみたい。
それじゃあ次よ次!
「次は……そうですね!ジェットコースターとかどうでしょう!」
マイが提案する。
「ジェットコースター……いいわね!……あ、そうだ。アベル、高いところは平気?」
「え?はい、全然平気ですが……」
「なら大丈夫ね。次はジェットコースターっていって、高いところから凄い勢いで落ちるのを楽しむアトラクションなの」
「ところで、ローズ様はジェットコースターはお好きなんですか?」
「私は……ええ、好きだわ。」
確かに好きだが……得意かと言われると首を縦にふれない。
おかしな話、あのビュン!って感じの感覚は好きなのだが……
頭の中に真っ先に勢い余って衝突やら落下事故やらが浮かんでくる為流石に声……というか悲鳴?はあげてしまう。
だから苦手の方が若干勝っている。……それと今日は平日なのであまり人は少ない。そして身長に関しても私は145、マイは143なので問題はない。だから割とすんなり順番が回ってきた。
「思ったよりも早く来たわね。さ、アベル。乗るわよ。」
「はい、かしこまりました。……ところであの、お嬢様。これは一体?」
と、安全バーをつかみながらアベルが聞いてきた。
「それは安全バーっていって、私達が落ちないように支えてくれるものなのよ。アベル、それを腰の辺りまで下げてみて。」
「えっと……こう、ですか?」
「ええ!危ないからちゃんとそれを掴んでるのよ」
「わかりました。」
「ローズ様、楽しみですね!」
「え、ええ……楽しみね。」
そして動き始めた。そして今になって急に怖くなってきた。……くっ、もっと前世で紗蘭と行ってればよかった。あ……待ってダメだこれ。怖い怖い怖い怖い!!ここのジェットコースターってこんな怖かったっけ!?無理無理無理無理!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ばんざーーーい!!!」
思わず叫んじゃった……けど、アベルも叫んでた気がする。
マイは元気にばんざーーーい!!!って言ってた……よね?
こんな怖いのに凄いな……。
「……はぁ、はぁ……思ってたよりもずっっと怖かったわ……」
「こ、これがジェットコースター……まさかこんな怖いものだったなんて……。」
「えへへ……思い切りきゃーーー!って叫んでるローズ様、とっても可愛かったです!」
「あ、ありがとう……?……そういえばアベル、どうだったかしら?ジェットコースターは」
「楽しかった……けど怖かったです。」
「あはは……それは同感よ」
「でもその怖さがジェットコースターの面白いポイントなんですよ♪」
マイは凄い笑顔で、とても楽しんでいる様子だ。
流石にジェットコースターではしゃげるのは羨ましいけど……。
「次は……ここにしましょう!ローズ様!」
「ええ、いいわよ……って……お、お化け屋敷……」
いつか来るだろうとは思ってたけどまさかこんなに早く来るなんて……
私……ほんっとーーーにお化けは苦手なんだけど!?
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