第9話 悪役令嬢と忌み子 その二
「ありがとうございます……ローズ様……」
と、マイは私の手を取る。……繰り返し言うけど本当に生で見るとゲームで見てた頃よりもすごい魅力的すぎる。その黒と白のツートンヘアーもとても可愛いし、目元の黒い雫もとても可愛すぎる。
それから、私達は場所を変え、私の家にいた。
「……そういえばあの、一つ聞きたいんですが……」
「はい、なんでしょう?」
返答が怖いのだろうか、少し怖気付いた様子で彼女は私に聞いてきた。
「あなたは、私とも普通に接してくれるのですか……?」
「もちろんですよ。だってマイ様を軽蔑する理由なんてないじゃないですか。」
「それは……本当ですか……?」
「ええ。本当ですよ。失礼な話、私からしたら羨ましいくらいです。なんてったってマイ様はとーっても美しいですから!」
と、私はマイに微笑む。すると、途端にマイの目から涙がこぼれ落ちる。
……私もしかしてやっちゃった?マイ様泣かせちゃった!?
「す、すいませんマイ様!!」
「何も謝ることなどないですよ……私、初めて美しいって言われたのでそれが凄い嬉しくて……それに、羨ましいって思って貰えたのも嬉しくて……」
「そうですか……なら、それは良かったです!」
「そういえば名乗るのがまだでしたね。まぁ、もう知ってるとは思いますが……改めて私はマイ・サヴェリスです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!マイ様!私は先程言った通り、ローズ・コフィールです!」
と名乗ると、またマイは少し怖気付いた様子で私に聞いてきた。
「あの……ローズ様!」
「はい、なんでしょうかマイ様?」
「もしローズ様さえ良ければ、私の……お友達になってくれませんか?」
「……へ?今何て言いました?」
「……私のお友達になって欲しいのです!」
急な事を言われてびっくりしてしまったが全然普通の事だ。
まぁ……マイみたいな友達は欲しいと思ってたし、良いルートに向かうためにも重要な事だし……断る理由は無い。
「もちろんいいですよ!是非、お友達になりましょう!」
私がそう言うと、怖気付いたマイの顔がニパーって途端に明るくなる。……やっぱりすごい可愛いなこの子。
「本当ですか!?本当にいいのですか!?」
「ええ、もちろんです!大丈夫ですよ。マイ様に誓って嘘はついてませんから。」
「ふふ……ありがとうございます!」
と言って再び彼女は私に笑みを向ける。が、今向けられた笑みは微笑みじゃない、満面の笑みだった。……物凄く眩しく輝いて見える。目が痛い。本当に失明も有り得るんじゃないかなこれ。……もうとにかく可愛すぎるね。
「折角お友達になったのですから、ローズ様の話しやすい話し方で大丈夫ですよ。私の事も、気軽にマイとお呼びください。」
「……そっか、ありがとう!それじゃあ改めて……よろしくね、マイ」
「はい!よろしくです!ローズ様!」
と、無事に全てが解決したように思えたその時。
開けていた窓から少し強い風が吹いて、彼女のちょっと大きい袖が捲られる。
そこから見えたのは……
「……え?マイ?」
「あ……えっと……これは……」
「その腕、どうしたの……?」
彼女の腕についた、おびただしい量の傷跡だった。
「その……違うんです!これは……これはっ!」
「……落ち着いて!マイ!大丈夫だから!」
……私はそこまで優しくは無いので見て見ぬふりはできない……し、きっと見て見ぬふりをした方が彼女を傷つけてしまうと思ったから素直に聞こうとする。……そしたら、マイを錯乱させてしまった。
魔力が原因でできた傷には、魔力の痕もしっかりと刻み込まれている……のだが、マイの腕にはその魔力の痕が微塵もついていない。……つまり、これは自分でつけた傷……いわゆる前世で言うとこのリ・ス・ト・カ・ッ・ト・だ。それよりも……まずい、マイが過呼吸になってきてる。何とかして落ち着かせないと!……どうしようどうしよう!どうやってマイを落ち着かせよう!
……確か錯乱してる人には、それ以上の衝撃を与える突拍子もないことをすればいいとどっかで学んだことがある!まぁ十中八九間違ってるんだろうけども!……けど、マイを落ち着かせるためにはやるしかない!……変な風に思われるからあまりしたく無いけど……しょうがない!
と、私は覚悟を決めて、マイに近づく。そして……
「ごめんね、マイ。」
「はぁ……はぁ……は……んっ!?……え?ローズ様……?」
マイに私の唇を重ねた。……絶対これマイに変に思われたよね!?いや……本当にやってしまったかもしれない。マイを錯乱させた挙句ほぼ無理やりキスって……しかも女同士!
「……本当にごめんね、マイ。落ち着いた?」
「はい、すいません……取り乱してしまいました。それより今のって……」
「あー、あれはね……?ほら、友達のキスよ友達のキス。マイを落ち着かせるためにはこれしかないと思ったの。ごめんなさい、嫌だったわよね?きっとその腕の事を聞かれることも。」
「友達のキス……ですか。私は全然大丈夫ですよ!それと……ありがとうございます。おかげでだいぶ落ち着きました。…………さっき、私は確信しました。貴方なら、腕の事を話しても私の事を気味悪がらないでいてくれるのだと。」
「もちろんよ!というか友達として心配なだけだし!」
「友達……心配……。 ……ありがとうございます。」
「どういたしまして。あと、確かにマイの事を聞きたいってのもあるけど……それを話してマイが苦しくなるくらいだったら、無理に話さなくていいからね。」
「もう大丈夫ですよ。それに、今はローズ様は私の事を全て受け止めてくれるって信じてますし……だからローズ様には話したいです。きっとそれが……友達、なのでしょう?」
「それ全てが友達……って訳じゃないけどうん。マイが思うそれもひとつの友達の形。だから、マイが私に腕のことを頑張って話してくれるなら、私も絶対にマイを拒んだりしない。というかむしろ、全部とはいかないけど私が受け止めれる限界まで受け止める。」
「……本当に、お優しい方ですね、ローズ様は。」
「そんな言うほど優しくはないけど……そう言って貰えて私も嬉しいわ。ありがとう」
「……ローズ様は、私が忌み子と呼ばれているのはもう既にご存知ですよね?」
「うん。その髪色と、目元の黒い雫からそう言われてるんでしょ?」
「はい。私は、忌み子としてずっと親や周りから蔑まれてきました。気付いた時にはもう、私の事を知らない人はほとんどおらず、私の居場所もどこにもなくなっていました。そしていつからか、自分に対してとてつもない嫌悪感を抱くようになりました……。何度も思いました。なんで私はこんな目に遭わなきゃいけないんだろう、なんで私は誰にも普通に接して貰えないのだろう、と。だけど原因は、少し考えてみればすぐにわかる事でした。そう、私が生きているから……私の容姿がこんなだからなんだと。そういった気持ちも相まって、私は一度腕を切ってしまいました。そしてそのまま、自分の腕を切る癖がついてしまいました。癖になっているとはいえ刃物で自分の腕を切るのですから当然痛く、辞めようと思っても全然辞めれませんでした。そのまま時間が進んでいって、こんな醜い腕になってしまったのです。」
どこか暗い顔をしたマイは、必死に泣くのを堪えている。……きっと、泣くのを必死で堪えるくらい、多少の無理をしてでも私に話したかったんだ。その腕の事を。
……それと。とてもマイの気持ちは共感できる。何故なら、かつての中学生の私もそうだったから。どうしようもないほどに自分が嫌いだったから自分の体に自分で傷をつけれることが何より好きだった。ずっと辞めようと思っても辞めれないで、気づいた頃にはその腕はボロボロになっていた。そうなった経緯は違えども、確かに私にもその経験はあるからマイの抱え込んでいた気持ちも理解できる。
「……え?えっと……ローズ様……?」
私は、優しくマイを抱きしめる。
「……ずっと一人で、よく頑張ったわね、マイ。けど、もう大丈夫よ。私がいる。それと、私が保証する。貴方は何一つ呪われてなんていない。忌み子でもない。……今はまだ、マイの事を何も分かってないのかもしれない。けど、これから私はゆっくり時間をかけてでも、貴方の全てを理解する。貴方の理解者になるつもりでいる。だからもう一人で抱え込まないで大丈夫。私を頼ってちょうだい。」
「ローズ様……ありがとうございます……それと……少し、胸を濡らしてもよろしいでしょうか」
「……ええ、大丈夫よ。それであなたの気が済むなら。」
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