第8話 悪役令嬢と忌み子 その一

「はぁ~~美味しかった~~♡」


と、先程ラーベルからもらったお菓子を全て食べ終えてまた私は部屋に戻る。


「……さてと。マイの事についてなんだけど……」


……お菓子に夢中になっていたが私のすべき事は忘れてない。この一年に残された数個の重大イベントのうちの一つ、マイ・サヴェリス。彼女は生まれつき特異体質で、髪が半分に割れた黒と白のツートンカラーだったり、目元に刻まれた黒い雫の痣があったりで忌み子として扱われており、彼女の両親からも虐待を受けている。……いまいちどこら辺が忌み子なのかが理解できないけど。だってさ?普通に可愛いじゃん。黒と白のツートンボブってさ。それに目元にある黒い雫の痣もより可愛さを引き立たせるだけじゃん。……まぁ、そんな感じで忌み子として扱われ、親からも愛されず、今の彼女は酷い自己嫌悪の状態に陥っている。そんな事を考えてると、ひとつの疑問が私の頭の中に浮かんでくる。

……果たして私に彼女を救えるのだろうか?

…………いや、違う。救えるかどうかじゃない。私が救いたいかどうかだ。……なら、もちろん救いたいに決まっている。前世で紗蘭も言っていた。「ありふれた話ですけど……結果を先に考えるから上手くいかないんです。これは私がそうってだけなんですけど……もし失敗するとしても、失敗する事を考えて失敗するよりも、何も分からない状態で自分の心のままに動いて失敗した方が気分としては少し晴れ晴れしいですよ。だって、自分の気持ちのままに動いたんですよ?同じ失敗でも自分の気持ちを殺すよりかは全然いい事じゃないですか。」って。

だから……もし、結果として救えなかったとしても。私はマイを救いたいからその為に動く。


「……やれるだけはやってみよう。大丈夫、既にひとつはバッドエンドに繋がる種を摘めているんだ。」


と、自分の胸に手を当ててそう言い聞かせる。

……はぁ。不安に思うところはあるけど、とりあえず今の私に出来ることは自分を信じることだから。


「……もうこうなったらとことんやってやりましょう。大丈夫、今の私はローズ・コフィール。最強最悪の悪役令嬢よ。たかが1人をいじめから守ってその心を救うことなんて……造作もないわ!」


と、私が自信に満ち溢れたまま2日が経った。


「……確かここから飛行して5分ほどの街でいじめられるのよね。……さて、それじゃあ動きましょうか。」


私はすぐに家を出て、飛行魔法で飛ぶ。この飛行に関してら街の人からは変に思われたりはしないらしい。何故ならば私だから。はっきりいってよく分からない理由だけどまぁ、それでお咎めなしで楽に移動できてるのだから御の字よね。

絶対私だったら不思議に思うけどな。人が空を楽々飛んでたら。

と、色々考えながら飛んでいるとやがて買い物をしてる彼女の姿が見えた。フードを被ってるけど、その黒白のツートンヘアーがチラッと見えてるので間違いなく彼女がマイだろう。

それから少し彼女の前を見ると、あからさまに柄の悪い男が歩いている。そしてまぁ案の定、わざとマイにぶつかった。そしてマイは尻餅をついて、フードがはずれてしまう。


「きゃっ!……あ……す、すいません」

「嬢ちゃんや。どこ見て歩いてんだぁ?って、ん……?その白黒の髪に目元の黒い雫……嬢ちゃんまさか、忌み子のマイ・サヴェリスだな?」

「……」

「黙るって事はそういう事だよなぁ!?へへへ、忌み子なら……どれだけいたぶってもお咎めなしだよなぁ!ヒャハハハハ!」


と、男は手から火球を出してそれをすぐマイに向かって放つ。

……はぁ。流石に女の子に向かってすることじゃないでしょ……。


「……水よ!」


この世界は大半のモブの魔法が火になっている。だからある程度は水魔法で何とかできるのだけど、流石にその男はとても厳つく、魔力もイリアの時の子とは全然違う、のであの水玉じゃ止めるどころかその火球の勢いを強めるだけだ。ならば本気で……水をひとつに集めて、槍状に固める。そしてそれを全力で……投げる!!


「……!?誰だ!?」


槍はものすごい勢いで向かっていき、火球を切り裂き、地面に突き刺さった。そしてうっすら男の頬に切り傷をつけた。

そして私はマイを守るように、マイの前に降り立った。


「はぁ……あなた、自分からわざと彼女にぶつかりに行っていたわよね。それに加えて「忌み子」なんてしょうもない、くだらない彼女の不名誉を免罪符にして彼女で憂さ晴らしをしようとして……貴方、救いようのない屑なのね。本当に……人間の風上にも置けないわ。」

「……何だと?お前の方こそ、勝手に横入りしてきて……人様の楽しみを奪って、人間の風上にも置けないんじゃねぇか?それに、何でこいつの事を庇うんだ?お前も知ってるだろ、呪われた忌み子マイ・サヴェリスだぞ!?」

「それが何?呪われているから、忌み子だからって理由で人を合法的に傷つけていい理由にはならないわ!それに、マイの髪も瞳もとても美しいわ!それのどこが呪われていると言うのよ!」

「ンなもん、気味わりぃからに決まってんだろ!それに、世間が、親が忌み子だって言ってんだからよぉ……それはもう好きにいたぶってくれって事だろうがよぉ!はぁ話も常識も通じない、と来たか。……こうなったらしょうがねぇ!名前も知らない嬢ちゃん諸共焼き殺してやる!」


……ルートは異なっていても、セリフは変わらないのね。

このセリフは確か本来第一王子であるリアンがマイを助ける時に話したセリフのはず。まぁ、ルートからは大きく逸れてるけど……こういう時くらいは本来のルートに従って事を済ませることにしましょうか。


「……風よ!」


リアンは風の魔法が得意だ。だから本来は男を吹き飛ばしてマイを助ける。が、私のやり方は多少違う。そんな吹き飛ばすなんて怪我したら危ないじゃん。マイも巻き込む可能性あるし?まぁ、男に関してはもう既に傷つけちゃってるけど……。そして私のやり方は、私だからできること!私は大のオタクなので公式ファンブックを買っている。そしてそこにはキャラの得意苦手が書いておりこいつも例外なく書かれている。そう、こいつ実は、高所恐怖症だったりする。だから平和に解決する方法は、私も風魔法を使い、男を屋根の上まで飛ばすこと!!


「どわぁっ!?」

「ふふっ、お似合いじゃない。忌み子なんて言葉を免罪符にして、こんな可愛い子をいたぶろうとしたんだもの。そこで報いを受けてるといいわ。」

「……や、やべぇ……降りれねぇ……誰か!誰かー!」

「……ちょっとやりすぎたかも?聞こえてないなこれ。」


……自分でやっておいてなんだけどまさか聞こえてないとは思わなかった。というか高所恐怖症の人をあえて屋根の上にのせる……って、何気に私酷いことしちゃったな。まぁ……当然の報いと言えばそうなんだけどね。……今1分くらいたったかな?なら、私の中で言おうと決めてるお決まりのあれが言える頃だから降ろそうか。


「……風よ」


と、唱えると風が優しく男を包み込み、もといた場所まで戻す。


「……貴方のしたことは普通に最低だし見過ごせないけど、私もちょっとやりすぎたかもしれないわ、ごめんなさい。けど、ひとつ覚えておきなさい。もしまた同じようなことをするようならば、このローズ・コフィールが絶対にあなたを許しはしないわ。次はそうね……雲でも突き抜けて見る?」

「ろ、ローズ様!?し、失礼しました!もう絶対に誰にも手を出しません!ですから、どうかそれだけは……!」

「わかったならばそれでいいのよ。私は彼女に話があるの。早く行きなさい」

「はい!貴方様の寛大なるお慈悲に感謝を!!」

「……本当にやりすぎちゃったかも。あんな捨て台詞、初めて聞いたし……ってあぁそうだ。お怪我はありませんか?マイ様。」


私は後ろを向き、地面に座っている彼女に手を伸ばす。

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