第7話 悪役令嬢と第二王子の初対面

「…様 …ズ様 …ローズ様!」

「うわっ!?」


誰かに呼ばれて私は目を覚ます。そういえば……確か私、供給過多に耐えきれないで理性が飛んでそのまま倒れちゃったんだ……。


「イリア様!お嬢様が目を覚ましましたよ!」

「本当ですか!アベルさん!」

「……ん、アベル……とイリア……!?」

「よかったです!にしても、驚きましたわ……急に倒れて「とうとい……かわいい……うつくしぃー……あははははー」しか話さなくなるんですもの」

「な……!?それは本当ですか……!?」


うわ~~!!やってしまった~~!!!!やらかしてしまった~~~~!!絶対変に思われたって!!!!てか何それ!なんでよりにもよってそんな変な倒れ方したの!?もう普通に何も言わずに倒れてよ私~~!!


「はい……正直私も驚きました。あんなお嬢様は初めて見ましたし……」

「……はっ!そうだ!そういえばイリア!ラーベル様とは結局あの後……」

「あの後、そのまま帰ろうとしたら倒れてるローズを発見しまして……それで、ラーベル様が使用人を手配してくれまして。それでなんとかローズを家まで運べたんですわ。」

「それでイリア様からお話を聞きまして、一緒にお嬢様を見守っていたんです」

「そうだったんですね……ありがとうございます。アベル、イリア。」

「いえいえ!それよりもう体調は大丈夫なんですの?」

「はい、おかげさまで今はもう大丈夫です!」

「ならよかったです。お嬢様、なるべく無理はなさらないでくださいね。」

「ええ、わかっているわ。……そういえばアベル、今は何時かしら?」

「今ですか?今は……朝の8時です。」

「朝の8時……そう、そんなに寝ていたのね私。」

「ローズが無事でよかったです。では私は家に戻ろうと思います。次は、ちゃんと遊びに来ますわね」

「ええ、お待ちしております。次に来たときはちゃんとお菓子やお茶でもてなしますから。」


と、やり取りをして一時間くらいでイリアは帰って行った。ついでにアベルも戻って行った。

……とりあえずやった。第一のバッドエンドは回避出来た。

そしてビックリする事に、今年の残された数個のイベントを覗いて、後4年はバッドエンドに繋がるものが一切何も無い。……が今は本来のルートとは180度くらい大きく逸れたルートにいるのでなるべく油断はせずに行こう。


「……さて、次の問題は……」


と、私は以前に作ったこれからのことを記したメモ帳を見て思い出す。


「……マイか。なんでこの世界はこうもいじめっ子が多いかなぁ……」


次に起こる重大イベントは、これまた本来はローズ様に虐められるはずの貴族令嬢、マイ・サヴェリス。

確か本来のルートでは彼女はどの攻略対象とも大半のルートで親しい仲にあり、ローズ様を断罪する為のキーウーマンだ。

万が一に備えて、少しでも繋がる可能性は芽が出る前に摘んでおきたい。なので……私がマイと親しくなる!その為にまただけどマイをいじめから助ける!

確かマイが虐められるのは二日後……と、その時ドアがバンって勢いよく開けられる。


「お嬢様!大変です!」

「……どうしたのアベル、そんなに焦って」

「お嬢様にお客人が来たのです!」

「私に客人……?誰よ……?」

「それが……ラ、ラーベル様なのです!」

「え……?ごめんアベル、もう一度言って貰えるかしら?」

「ラーベル様です。ラーベル・ムース様です!」

「ら、ら……ラーベル様ぁー!?」


えーうそうそ!?ラーベルがなんでここに……?

……いやまぁ、ルートから逸れてるんだからありえない話ではないのか……。とりあえず冷静に落ち着いてヘマをしないように、ラーベルと話をしよう。

ささっとドレスに着替えて、私はラーベルが待っているという部屋に行く。

そこには、灰色でセンター分けの髪、澄んだ藍色の瞳を持った美青年がいた。


「ラーベル様!遅くなってしまってすいません!!」


うわ~~……生で見ると凄いラーベルも美しいなぁ。


「いえ、そんなに待ってはいないので大丈夫ですよ。それよりも初めまして、ローズ様。私、ラーベル・ムースと申します。」

「ありがとうございます!こちらこそ初めまして、ラーベル様。私はローズ・コフィールと申します。それより、本日はどのようなご用件で……?」

「本日は、イリアの件に関してお礼を言いに参りました。」

「イリアの件……?」

「ええ。イリアから聞きましたよ。腕を焼かれそうなところを助けてもらった、と。」

「あれは……まぁそうですね……私の掲げている正義に従って見過ごしておけなかっただけですよ。。」

「掲げている正義……ですか。その正義とは一体……?」

「簡単なことですよ。困っている人がいたら全力で助ける、それだけです。それに、イリアの綺麗な体には火傷の痕なんて相応しくありませんから。」

「困っている人がいたら助ける……とても良い正義ですね。貴方のような人からしたら当たり前かもしれませんが……誰もがそうとは限りませんから。」


と、ラーベルは優しく私に微笑む。

ぐっ……!プレイ時は操られてるってわかってたからあんまりだったけどそうじゃないってわかっている現状すごい…効く。


「ありがとうございます。それにしても、ラーベル様もすごいお優しい方なのですね。わざわざお礼を言いに来てくださるなんて。」

「いえいえ、当たり前の事ですよ。ローズ様がイリアを救ってくれなければ彼女はパーティーに来なかったでしょう。もしそうなっていれば、きっと彼女は私の婚約者にはならなかったはずです。それに私もあんな幸せなひとときを過ごせなかった。」


ローズ様が死んだ後のルートから薄々分かってはいたけど、すごい良い人だ、ラーベル。婚約者を助けて貰ったから、という理由でわざわざ自分からお礼を言いに来るなんて。

正直、自分が生きたいから、推しの恋愛の様子が見たいからとかいう自分勝手で欲に塗れた理由でイリアは助けたし、明後日にマイも助けるのだからかなり気持ちとしては複雑だ。けどまぁ……困ってる人を見過ごせないのは事実っちゃ事実だからね。前世でもよく人助けはしてたし……おばあちゃんの荷物運んだりとか、後輩の落し物とかを数え切れないほど拾ったりとかはしてた。というかそれを抜きにしても流石にあれは見逃せなくない……?


「そういえばそうだ。折角お礼を言いに来たのですから、何か土産の一つや二つは必要かなと思いまして。是非、こちらをどうぞお召しになられてください。」


と、ラーベルは机の上にチョコマフィンやクッキーなど、魅力的で美味しそうなお菓子を置いていった。


「え!?いいのですか!?」

「はい。ローズ様の為に用意したお菓子なので。」

「ありがとうございます~~!!とても嬉しいです!!」


自分で言うのもなんだがなんだかんだ言って私も立派な乙女だ。故に可愛いものやお菓子等には目がない。

うわぁ~~!!とっても美味しそう~~!!!!こんなとても美味しそうなお菓子がいっぱい食べれるなんて……幸せぇ~♡


「喜んで貰えてよかったです、ローズ様。」

「こんな美味しそうなお菓子、絶対喜びますって!!それでは、ラーベル様に感謝して……いただきます!」


……んん~!!甘い!美味しい!頬が蕩けちゃいそう!


「ローズ様、お味の程はいかがでしょうか」

「とても美味しいです~~!!プロにも全然余裕で匹敵するレベルで美味しいです!!」

「なら良かったです。……ふふっ」

「どうしました?ラーベル様」

「いえ、すいません。ローズ様がとても美味しそうに食べるものですから、作った甲斐があったなと思いまして。」

「あ、すいません……顔に出てました?」

「いえいえ、謝らないでください。自分の作ったお菓子をとても美味しそうに食べて貰えて私も嬉しいですから。」

「そうですか、なら良かったです!」

「もしまたどこかでお会いする機会があれば、また用意しておきますね。」

「本当ですか!?ありがとうございます~~!!」


急なラーベルの来訪に驚いたけど、お礼を言ってとてつもなく美味しいお菓子をご馳走して帰っていったので何も問題はないだろう。

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