第6話 悪役令嬢はバッドエンドを回避する

まぁ予想通りそう言うとイリアは驚き、慌てる。

私だっていきなりラーベルと踊れ、なんて言われたらとても驚いてしまう自信がある。イリアの気持ちも充分わかるし、少し申し訳ないと思っている……が、これから私が生きる為にイリアとラーベルには結ばれてもらわないと!!


「きっと大丈夫ですわ!イリア様ならラーベル様も気に入ってくださると思いますし……少ししか話してない私が言うのもあれですが、イリア様はとても魅力的な人ですし!」

「そうですよ!リリー様の言う通りです。イリアはとても優しいですし、美しいです。ですからきっとラーベル様もわかってくれるはずです。」


リリーが少し補助を入れてくれる。ここでの補助はとてもありがたいので、もうルートのことなんて考えず私もそれに乗っかる。事実イリアは凄い可愛いし……ラーベルがイリアに一目惚れするルートだって少なからずあるし。……まぁローズ様が死んだ後なんだけど


「本当に私が共に踊ってもよろしいのでしょうか……?」

「ええ!イリアならば絶対上手くいきますって!」

「もしかしたらそのまま婚約までいっちゃうかもしれませんわね!」


少しイリアはたじたじしながらも決意したように、私達に言う。


「二人ともありがとうございます……私、決めましたわ!まだ少し不安ですけれど……私、ラーベル様と踊ることにしましたわ!」

「おぉ!頑張ってくださいね、イリア。応援してます!」

「私も応援しております。是非とも頑張ってください!」

「改めて、ありがとうございます!」


よし、よしよしよしよしよし!なんとかリリーのおかげもあってイリアがラーベルと踊ることを決意してくれた!だからあとはこのままワルツが上手くいってラーベルがイリアに婚約を申し込むのを祈るだけ!そうすればバッドエンドを回避出来るしイチャイチャ成分も補給できる!……というかやっとこれで一個のバッドエンド回避なのね。……主となる魔法学校の事を考えると、骨が折れるわ……。


ようやくあと少しで全てが上手くいくから、それが楽しみすぎて秒でワルツの時間になったように感じれた。


「リリー様、踊るのはお得意で?」

「どちらかと言えば少し苦手ですわね。けれど……今日の為に練習をしてきましたの。」

「あら、奇遇ですね。私も今日の為に色々練習してきたんです。」

「そうなんですの!熱心な方なんですのね?」

「ありがとうございます。私も元々踊るのは苦手でしたから……。それに、リリー様も熱心なお方なのですね。」


と言うと、またリリーが少し驚く。急に褒められたら誰だって驚くよね……。


それから何事もなくワルツは始まり、私とリリーは音に身を任せて踊っていた。


「ふふっ。やっぱり貴方を誘ったのは正解でしたわ。まさかこんなにも楽しいなんて。」

「そうですね。私もまさかこんな楽しく踊れるなんて思っていませんでした。……あら?」

「……?どうなさいましたの?」

「あの二人も、中々に楽しめているんだなと思いまして」

「あら、本当ですわね。中々にお似合いじゃないですの」

「リリー様もそう思います?」

「ええ。二人は婚約者って言われても違和感ないくらいにお似合いですわ。」


ワルツの最中に少し横を見たら、とても楽しそうに笑っているイリアとラーベルがいた。

……うーん、中々に尊い。本当に理性がどうにかしてしまいそうだ。リリーの事に関してもそうだ。とても美しすぎる。本当に美しすぎる。本当に私の目が焼け死んでしまいそうだ。何回私の目の中にキラキラエフェクトが浮かんできたことか。

ただひとつこの現状に言えることがあるとするならば……どうしようもないくらいに幸せ、だろうか。いやむしろこれを幸せと呼ばずしてなんと呼ぶ!!!!


「……きゃっ!」


と、リリーが足を滑らせて転びそうになる。私は急いで手を出して、リリーを抱き抱える。

……待って待って待って待って!!

わ、私……私、リリーを抱き抱えてる!?

うわっ!凄い可愛い!!間近で見るとこんなにも可愛いんだリリーって……泣きぼくろある……しかも瞳の奥に凄いちっちゃいダイヤのマークもある……。


「……ご、ごめんなさい……足を滑らせてしまいましたわ。」

「いえ、大丈夫ですよ……それに、リリー様にお怪我がなくて良かったです。」

「……ありがとうございます。」


私が急に抱き抱えたからだろうか、はたまたリリーの顔を深く覗き込んでいたからだろうか。リリーがはにかんだ。

……あーもう本当に可愛い。だめだ。自分が推しになってるとか言う普通に考えたら有り得ない状況だからリリーも堂々私の推しにランクイン。……あれ?推しに抱く感情ってこんなだっけ?なんかいつもよりドキドキするような……心が跳ねるような……?まぁ、流石に推しを抱きしめたんだから……いつもよりドキドキはする……か?

……少し足を止めたからなのか違うからなのか、イリア達の会話が少し聞こえてきた。


「……ふふっ。楽しいですね、イリア様」

「ええ、そうですわね!とても楽しいですわ!」

「私の相手が貴方で良かったです。こんなにも楽しいワルツは初めてだ」

「あら!そう言って貰えて大変光栄ですわ!私もラーベル様で良かったですわ。こんなにも楽しいワルツは初めてですもの!」


……その会話が聞こえた瞬間、私は勝ちを確信した。これはもう流石に勝っただろう。そもそもにラーベルがローズ様に婚約を申し込んだのは、「とても踊りが上手で踊っていて楽しかったから」と言うだけなのでこの後ラーベルがイリアに婚約を申し込むのはほとんど確実と言えるだろう。あと……繰り返し言うけど本っ当に尊い!さっきまでの少し不安そうな顔はどこいったんだってくらいイリアは満面の笑みで、とても楽しんでいる。ラーベルも少し見たくらいだが、最初の少し不安そうな、嫌そうな顔とは打って変わってこっちもまたその顔は笑みで満ちている。あーもうやばい、本当に私倒れそう。リリーを抱きしめて……その後にすぐこのイリアとラーベルのやりとりを見て……今、私の頭の中は尊いと可愛いと美しいだけで溢れている。……本当に何で今私が理性を保てているのかが疑問だ。

……それから、今こうしてこの尊い光景を見られてるのもリリーのおかげだから……リリーにも凄い感謝しないと。


「ローズ様?」

「……失礼、ちょっと考え事をしていました。それでは、続きを始めましょうか」

「ええ、そうですわね。」


やっぱりまだ少しリリーの顔が赤かった気がするけど、気にせずに踊り続けて、それからあっという間にワルツの時間は過ぎてディナーの時間になった。


「……そういえばあれ?イリア様とラーベル様がいませんわ?」

「……あれ、本当ですね。」


私の隣の席に座ってるリリーが不思議そうにそう言った。

……これはまさか……!?いよいよ!?

申し訳ないけどさすがにここではもう勝ちを確信したので欲望のままに動かせてもらう!


「ちょっと探してきますね。なるべく早めに戻ってきます。」

「え?は、はい……わかりましたわ。お気を付けて」


と困惑したようにリリーは私にそう言った。

私は急いで二人を探す。案外すぐ見つかった。

二人は二階のベランダ?バルコニー?にいた。

申し訳ないと思いながらも欲望の方が勝ってしまい盗み聞きをする。


「楽しかったですね、イリア様。終わってしまったのが少し悲しいくらいです」

「そう言って貰えて光栄ですわ、ラーベル様。私も……もうちょっとあなたと踊っていたかった。」

「少し急な話ですが、共に踊っていてわかったことがあります。」

「……それは一体なんですの?」

「一つは、貴方はとても優しい人であること。私が思うに、ダンスとは心を通い合わせるひとつの手段なのです。そして先程貴方と踊っていてわかりました。貴方はとても優しく、沢山人の事を思える人であると。そしてもう一つは、私は貴方に恋をしていること。」

「……え?」

「先程言ったことは、嘘ではありません。本当に私は、貴方と踊っていて楽しかったのです。とても上手だけれど、それでもどこかぎこちない。そんな貴方がとても可愛くて。きっと、貴方だからこそ私はこんなにも楽しめたのでしょう。そこで私は気づきました。貴方に恋心を抱いているのだと。……ですので、イリア様。イリア・ミシェンス様。どうかこれからも、このラーベル・ムースと共に踊ってくれませんか?」

「……私も、貴方と踊っていてとても楽しかったですわ。これからどんなことがあろうとも、きっと永遠に忘れられないくらいに楽しかったです。そして……何より私は、貴方と踊るのが世界で一番大好きですわ。だからもちろん……これからも、貴方の……ラーベル様の傍でずっと共に踊らせてください」

「……ええ、もちろんです。これからよろしくお願いしますね、イ・リ・ア・」

「はい、こちらこそ。ラ・ー・ベ・ル・。…………やっぱり、少し恥ずかしいのでまだラーベル様と呼んでいてもよろしいでしょうか……」

「……ふふっ、そんな可愛いところもあったのですね、イリアは。もちろん、全然構いませんよ」


……今宵は満月。その満月が二人を祝福するかのように照らして、尚更ロマンチックになって……あぁ。もう、ダメなやつだ、これ。流石に供給過多が過ぎる……。

ずっと耐えてきた理性も流石に壊れて、再び私は倒れてしまった。


「……あれ?ローズ!?大丈夫ですか!?ローズ!?」

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