夢の内容



彼女は夢の内容を他人に語る事は無い。

夢を見た所で、その夢の内容を話す事で違う未来へと変わったりする可能性がある。

しかも、その未来の内容によって、善い方向にも悪い方向にも変わるのだ。

そして…彼女は一度、肉体の酷使によって足を止めた事があった。

その内容を思い浮かべて、彼女は救けて欲しいと懇願した。

それを口にすれば、未来が変わる可能性がある。

だからあまり、それを口にしたくは無かったが。


「…見た夢は、必ずしもその通りになる、と言う訳ではありません、ですが…私が、迷宮の探索者の一人として活動していました…その中で、何も出来ずに死んでしまう光景が見えたのです」


小鬼の襲撃。

その時、熱によって体が不能に落ちた一瞬。

彼女は夢を見た。

その夢の内容を、生徒会長に告げたのだ。


「…その時のメンバーは?」


百千万億生徒会長は、どの様な探索隊で行動していたのかを聞く。

彼女は夢の内容を思い出しながら、細々と言った。


「…私の近くに、拘束具を解いた男性の姿がありました、…その人は、私の名前を必死に呼んで、応急処置をしてました…『誰一人でも死んだら、願いが叶わない』と言ったのを覚えてます…見えたのは、それだけです」


生徒会長はある男の事を思い出す。


「(拘束具…あの男か…)」


それは、文違鳩子との五枚の封筒の内の一枚の内容だ。


「(ボクが引いた二枚の紙、その内の一人は『SS-ランク』の不死川命くん、そしてもう一人は…『SSSランク』、鳥頭尾うとお操臣みさおみ)」


彼は最高ランクのカードを引いていた。

だが、その情報を見て扱いに困っていた。

探索隊に加入させるかどうか、困っていたのだ。


「(能力が危険過ぎるが故に、…学園内地下寮にて謹慎されていたと情報には記されていた…彼が契約を遵守するタイプであるのならば…)」


だが、開放を条件にすれば操れると踏んだのだろう。

彼が協力すれば、探索隊の生存率は格段に上がると確信していた。

それと同時に、百千万億生徒会長はハッと思い出して彼女の顔を見た。


「…つまり、キミが言わなければ、ボクはキミを探索隊に入れてたのか…それは危なかった」


参加予定は無かった。

だが、このまま何もしなければ、結果的に彼女は探索隊に加入していた可能性がある。

それだけは避けられて良かったが。


「…いえ」


浮かない顔をしている。

それもその筈だ。

この情報を口にしなければ、彼女は彼と共に居られたのだ。


「(言わなければ…不死川くんと、一緒に居られた、のに)」


例えそれが自分が死ぬ結果になろうとも。

彼女にとっては本望だったのかも知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る