柊麗と生徒会長

柊麗は、百千万億生徒会長と共に居た。

人の話が聞こえる事が無い様に、体育館に建てられた音響室で二人きりだ。

百千万億生徒会長は、彼女の目を見ながら名前を口にする。


「柊くん」


細くて白い彼女は、百千万億生徒会長とは対照的だった。


「…生徒会長、私を呼んで、一体なんですか?」


咳払いをしながら彼女は聞く。

すると百千万億生徒会長は帽子を脱いで椅子に座った。


「キミの力を借りたいと思ったまでだ」


そう言った。

過去に数回、百千万億生徒会長と柊麗は顔を合わせた事がある。

それも大掛かりな、学園内で起こった不祥事を秘密裏に処分する為に、彼女は時々、駆り出される。


「これまで、何度もキミには予知夢で助けて貰った、『無差別暴行事件』も『探偵俱楽部毒殺事件』も、キミの未来視によって事件は解決に導かれた」


未来視。

それは最早、超能力に該当する類の力。

百千万億生徒会長の目ですら見通す事は出来ない力を彼女は持っていた。


「…それでも、事件を事前に防げる事は、出来ませんでした」


病弱な彼女。

彼女の肉体の脆弱さと引き換えに、脳の一部が他者とは違う。

肉体が高熱を帯びると、意識を失うと共に夢を見る。

それが遠い未来、あるいは近い未来。

どちらにしても、夢を見る事で、彼女は最悪な未来を見通す。


「私の予知夢は、高熱によって寝込んだ際に視る悪夢の体現です、…しかも、ある光景が見えるだけで、…詳しい内容は、おぼろげでしかありません」


だが万能では無い。

使用するには、常に体を酷使し続け、熱で脳を強制的に活性化させなければならない。

更に、彼女が見る夢は、彼女自身が選ぶ事は出来ない。

完全に無差別で見る夢は、確実にコントロールする事が出来ないのだ。


「…何よりも、ダンジョンへ墜ちると言う最悪ですら、夢に見なかった光景です…自分自身、コントロール出来ない事が、何よりも口惜しく思えます」


自分は無能であると自負をする。

しかしその言葉に、百千万億生徒会長は首を左右に振った。


「万能では無い事は分かっている、だが、これから先の、最悪な夢を見たのであれば、それを教えて欲しい」


そう懇願した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る