サバイバル料理

「せ、折角だから、ごはんも食べていって…えぇと、みんな、お客さんだよ、おもてなし、してあげて!」


喰代日和子が言うと、料理部の部員たちは腹から声を出す。


「料理長のお達しだァ!テメェらおもてなしの準備をしろォ!!」


雄叫びを挙げる部員たち。

その声に耳を抑えながら、顔を紅潮させながら彼女は言う。


「あの…前から言ってるけど、料理長は恥ずかしいから、やめてぇ…」


そう言いながら、喰代日和子は刀を持って歩き出す。


「えぇと…刀を研ぐ前に、ちょっとだけ待ってて、今お肉を…」


そう言って、彼女は調理台の前に立つ。

どうやら、食肉の調理をしていた最中だったらしい。


「(…ん?)」


だが、不死川命は彼女の作っている料理を見た。

骨に付着している肉の色は腐っているかの様に茶色い。

そしてその骨の骨格は、小さな子供の様な形状だった。


「なあ、喰代さん、その肉…」


恐る恐る、不死川命は指を指しながら聞いた。

彼女は、肉に気が付いて不死川命に答えた。


「え?…あぁ、これはね、食べられるかなって、思って」


その肉には見覚えがあった。


「た、食べられるかなって…これ、小鬼の肉…」


八百万学園へと襲撃して来た小鬼の死骸。

彼女はそれを捌いていたのだ。


「うん、だって、生きてる以上は、食物連鎖の対象でしょ?…この小鬼さんたちも、その対象」


饒舌に彼女は語り出す。

食材に対する真摯さが伝わって来るが、狂気に近い目をしていた。


「…いや、でもこれ…えぇ」


不死川命は彼女の言葉に狼狽する。

確かに、生きていると言う事はそれだけで何かが死んでいく事だ。

自分が生きる為に他の生物を殺して喰らうなんて事は、何処にでもある話。

何とか彼女の言葉を呑んだ不死川命。

同時に興味が湧いて来て、彼女に聞いてみる。


「…あ、味は?」


味の感想を聞く。

彼女は下唇に指を添えて考える。


「味は…うーん、ぐしぐしした…猿に…いや、牛筋みたいな感じかなぁ…顎を使って疲れちゃう感じだけど、…脂身の部分が少し臭いから、それを取り除けば美味しいかも…あ、だから煮込みにしたらお肉もほろほろして美味しそうだなぁ」


料理の事に関すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。

あまりの恍惚な表情は、口元から涎が垂れて来そうな勢いだった。


「(俺も可笑しいと思うけど…俺以上に可笑しい人間が居るのか…)」


喰代日和子の表情を見てかなり特殊な人種だと思った。


「…」


そして、先程彼女が言い掛けた言葉を思い出す。


「(今、猿肉って言おうとしたのか?)」


あまり食べる事の無い幻の珍味。

どうやら彼女はその味を知っているらしい。

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